視聴率は世帯平均6%台といまいちで、TVerの見逃し配信などの再生数も飛び抜けていいわけでもないのに、好評を博している月9ドラマ『嘘解きレトリック』(フジテレビ系)。
鈴鹿央士と松本穂香という旬な若手俳優がダブル主演しており、約100年前の昭和初年を舞台とした貧乏探偵×能力者によるレトロ・ミステリー。
“人の嘘が聞き分けられる能力” により、周囲から忌み嫌われていた浦部鹿乃子(松本)は、生まれ育った村を出て九十九夜町にたどりつく。そこで、やたら鋭い観察眼を持つものの、依頼が少ないため借金まみれの貧乏探偵・祝左右馬(鈴鹿)と出会う。左右馬が鹿乃子を探偵助手としてスカウトし、2人で事件を解決していく物語である。
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■殺人事件が起きても “ユルさ” は健在
主人公2人が町で起こるさまざまな事件を解決していくミステリー作品でありながら、本作が人気を博している理由は、左右馬と鹿乃子のユルくほっこりする掛け合いと、温かみのある町の人々が織りなす昭和初期のレトロな世界観なのだ。
事件自体が窃盗や誘拐とそこまでシリアスではない回も多いのだが、扱う事件が殺人だったとしても “ユルさ” は健在。
たとえば先週11月18日(月)放送の第7話。10年前に画家が妻を殺害した事件があり、幽霊屋敷と呼ばれるようになったその画家宅のすぐ近くで新たな強盗殺人が起きるという、過去と現在の殺人事件が交錯していく展開。
そのあらすじだけ聞くと、ホラー味のあるおどろおどろしい雰囲気を想像するかもしれないが、実際は左右馬&鹿乃子が幽霊屋敷を肝試しのように探索するなど、コミカルな演出がされており、重く暗い雰囲気はあまりない。
■もはや恋人をすっ飛ばしておしどり夫婦
そもそもミステリーとしての難度も重視されておらず、CMを除いた約45分の放送時間のうち開始30分ぐらいの段階で、2つの殺人事件の謎が解明されていた。まだ残り15分ほどある段階であっさり犯人が捕まったので、べつの真犯人がいるとかもう一波乱あるのではないかとも思ったが、そんなどんでん返しもない。
そして、本作のファンも難解・重厚な本格ミステリーを望んでいるわけではなく、いい意味で、どんな事件が起きてどんな謎が隠されているかなんて、たいして興味がないような気さえする。ほのぼの主人公コンビを中心とした昭和レトロの世界にひたれれば、きっとそれで大満足なのだ。
これまで何度か左右馬と鹿乃子が恋仲に発展する可能性がありそうなシーンもあった。ただ、第7話ラストに2人して風邪をひき、早く治るように栄養たっぷりの鍋を仲よくつつくシーンは、もはや恋人をすっ飛ばして長年連れ添ったおしどり夫婦のような最強の安定感を漂わせていた。
殺人事件が起ころうとも徹底してほっこり路線を貫くブレないスタンス。その安心して穏やかな気持ちで観られる作品の空気感が、週の始まりの月曜夜にハマッたのだろう。
■穏やかな気持ちで観られる安心感
今夜放送の第8話は、鹿乃子の “人の嘘が聞き分けられる能力” が消えてしまったかもしれない、というストーリー。鹿乃子はその力のせいで幼少期からたくさん傷ついてきたわけだが、いまはその力のおかげで左右馬と一緒にいられるため、自身のアイデンティティが揺らいでしまう展開になるのだろう。
だがまた今回も、包容力の塊のような左右馬の言葉や行動で、鹿乃子が癒されていくというやさしいストーリーになるに違いない。ミステリーなのに穏やかな気持ちでいっさいの不安なく観られる――それが『嘘解きレトリック』なのだ。
恋愛をロジカルに分析する恋愛コラムニスト・恋愛カウンセラー。これまで『女子SPA!』『スゴ得』『IN LIFE』などで恋愛コラムを連載。現在は『文春オンライン』『現代ビジネス』『集英社オンライン』『日刊SPA!』などに寄稿中
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