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“民放ドラマ初”で日曜劇場『御上先生』に抜擢! 話題の脚本家は「以前は派遣登録の仕事で生計を」「テレビなし生活15年」

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記事投稿日:2025.02.10 11:00 最終更新日:2025.02.13 21:25
出典元: SmartFLASH
著者: 『FLASH』編集部
“民放ドラマ初”で日曜劇場『御上先生』に抜擢! 話題の脚本家は「以前は派遣登録の仕事で生計を」「テレビなし生活15年」

日曜劇場『御上先生』の脚本を務める詩森ろば(写真・金谷千治)

 

 文部科学省のエリート官僚である御上孝(みかみ・たかし)が、高校教師として派遣された進学校。

 

 制度を作っている側にいても変えられない。ならば、現場から声をあげ、制度の内部から変えていけばいいと教壇に立ち、令和の時代を生きる18歳の高校生を導きながら、権力に立ち向かっていくーー。

 

 

 松坂桃李が主演を務める2025年1月期の『御上先生』(TBS系)は序盤にして、すでに名作の呼び声が高い。

 

 TBSの看板である日曜劇場で、話題の物語を描くのは、「民放の連続ドラマを書くのは初めて」という脚本家の詩森(しもり)ろば。

 

「最初に脚本を書いたのは小学生のとき」

 

 こう振り返る詩森は、劇作家、演出家として、長年、舞台を中心に活動してきた。

 

「演劇で食べられるようになったのはここ10年ほど。長く、演劇以外の仕事で生計を立てていました。派遣会社でさまざまな業種を体験し、商社に正社員として勤めていた時期もあります。この社会人として働いた経験は、企業ものを書くことも多いわたしにとって、すごく役に立っています」(以下、断りのない発言は彼女のもの)

 

 1993年に劇団「風琴工房」を旗揚げし、2018年からは「serial number」の活動を始めた。実際の事件や歴史的事実に基づき、関係者の証言や資料を丹念に調査し、脚本に落とし込むその手腕が評価されている。

 

 リアルな社会問題とフィクションを織り交ぜ、これまで100本以上の作品を生み出してきた。

 

「自分のカンパニーだけでは難しかったですが、外部の脚本や演出をするなどして、ようやく舞台仕事だけで食べていけるようになりました」

 

 詩森を抜擢したTBSの飯田和孝プロデューサーとは、共通の知人を通じて面識があり、飯田氏はたびたび、詩森の舞台に足を運んでいた。そして、ドラマ『御上先生』が動き出したのは2020年春のこと。詩森が、映画『新聞記者』で、日本アカデミー賞の優秀脚本賞を受賞し、話題になっていたころだ。

 

「飯田さんから『学園ドラマを一緒に“開発”してくれませんか』と、打診がありました。私も教育はいちばん大事なものだという意識があって、舞台でも書いたことがなかったので、ぜひ、考えてみたいと伝えました」

 

 飯田氏と打ち合わせを重ねるなかで、現在、ドラマで展開されている物語の核は生まれた。

 

「リサーチするなかで文科省の官僚が学校教師として赴任する制度があると聞きました。そこで『官僚であり教師という設定はどうでしょうか』と提案したところ『それはいいですね』という話になりました。何度か打ち合せもして企画書も書いたのですが、企画にゴーサインが出ずいったん保留になってしまいました」

 

 ただ、「すぐに実現しなくてよかった」と詩森は言う。

 

「もし実現しても実力不足で惨敗していた気がします」

 

 じつは15年ほど、テレビのない生活を送っていたという。ドラマを観る習慣がなかったのだ。

 

「自分がドラマ脚本を書くのであれば、やっぱり勉強しなくちゃいけないと思って、ドラマや映画をたくさん観ました。『連続ドラマがどんな作りになっているのか?』『なぜ、このドラマは感動するんだろう?』『どうしてつまらないと思うんだろう』と考えて、理論化していきました。

 

 演劇では演出もやっているので、戯曲を分析し、解釈するのが仕事です。なので、頭の中で整理整頓する習慣がある。同じようにテレビや映画も分析して、構造を学びました」

 

『群青領域』(NHK総合、6〜10話担当)と『この花咲くや』(NHK BSプレミアム)という2本のドラマの脚本を手がけたことも大きかった。そして、2022年に突然、飯田氏からメールが届く。そこには「僕はまだあきらめていません」と。

 

「企画が生きていたこともうれしかったですが、飯田さんのお人柄に企画をはじめたときから惹かれていました。

 

 なので、仕切り直しの打ち合わせで、この企画がもしかしたら実現するかもしれないという高揚感もあいまって『生徒たちが抱えている問題をひとつずつ解決していくと、最後には国家の大きな問題が解決するようなドラマがいいですよね』と、言ってしまったんです。

 

 そうしたら『それいいですね!』みたいな感じになって。帰宅してから『たしかに面白いと思うけど、そんなことができるのかな?』と、ひとりで頭を抱えました(笑)」

 

 このやり取りに端を発して、再び『御上先生』は始動する。

 

「飯田さんは、もともと学校の先生になりたかった方なので、教育ドラマを作りたいという思いが人一倍、強かったんです。先生になりたかった方が作るドラマなのだから、生半可なものでは許されないと思いました。

 

 立ち消えになったのも、私にとってすごくよかった。空いた2年の間に、ひとりでリサーチも続けていましたし、映像の体験も積むことができていたので」

 

 かつて、飯田氏と盛り上がった『御上先生』の“核”となる設定は、そのまま引き継がれ、さらにブラッシュアップされていった。

 

「試験的に第1話を書いてみたのですが、飯田さんから『導入部にもう少しインパクトが必要』と言われ、すぐある事件が頭に浮かびました。

 

 2022年に東大の前で受験生が刺された事件です。社会のストレスはこういう形で出てくるものだと思って、少し形を変えて導入にしました。物語に広がりを持たせるという意味で、この導入はいいと直感的に思いましたが、どう本筋に絡めていくかは考えぬきました。

 

 良質なミステリーをたくさん読んできた自負があり、目だけは肥えてるけど、自分が書くのはまた違う話です。これまで避けてきたとも言えます。タネが明かされたときに、意外性より納得のいくストーリーを目指しました」

 

 詩森の演劇の題材は歴史劇、金融、福祉車両の開発、コンドームの開発、アイスホッケー、死刑制度、セクシャルマイノリティ、将棋……。多種多様なテーマを考えてきた。彼女の脚本の振れ幅は、無限にみえる。

 

「でも、たぶん書きたいことはひとつ。私が伝えたいのは『それでも人は生きていかなくちゃいけないよね』ということ。人間が生きていること、生きていくために明日につなげていく何かとか。それを書きたいから、題材がカラフルになっているのかもしれません。いちばん大事なのは命。文化芸術は、命を守るためのものだと思っています」

 

『御上先生』の第2話で、校門の前に集まっているマスコミが目に入り、立ちすくむ高校3 年生の神崎拓斗(奥平大兼)。自分が校内新聞で報じた女性教師の不倫が、殺人事件の原因になっているのではないか……。

 

 不安を抱える彼の背中にそっと手を添えて、一緒に歩き始める主人公の御上。詩森は、このシーンに思いを込めた。

 

「神崎くんの思春期の怯え、自分が間違っていたのかもしれないという戸惑い。あんな表情をしてくれるとは思ってなかった。でも、そういう言葉じゃないところが見たくて、言葉をたくさん書いている、という気持ちがあります。

 

 ここから先、そういう、御上先生と生徒、生徒と生徒、そのほかの大人のキャストたちが関わりあうことによって、いろいろなことが起こる。

 

『御上先生』は“教育の改革”を掲げていますが、人と人が関わりあえる状況を作ることも、教育だし、改革だと思うんです」

 

 展開の予想がつかないストーリーに、視聴者はすでに“考察”を始めている。全10話の脚本はすでに書き終えているという。

 

「生徒たちが、これからの未来の時間を変えていくかもしれないという希望があります。最終話まで、どういう形で小さな希望に結びついていくのか、楽しんで観ていただきたいです」

 

しもり・ろば
宮城県仙台市生まれ、岩手県盛岡市出身。劇団「風琴工房」を旗揚げ後、2018年からは演劇ユニット「serial number」にあらため、活動中。2019年には『新聞記者』で、初めて映画脚本を担当(高石明彦、藤井道人と共作)し、同年度の「日本アカデミー賞」優秀脚本賞を受賞。2021年に「読売演劇大賞」優秀演出家賞も受賞した

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