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【マイク生活30周年】垣花正、安室奈美恵の収録をすっぽかして謹慎の“才能なし”アナが活路を見出した「相手の欲を考える」力
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垣花 正
朝のラジオの顔として『垣花正 あなたとハッピー!』(ニッポン放送)を18年間担当し、『5時に夢中!』(TOKYO MX)では、MCとしてマツコ・デラックスら、個性的なコメンテーターをまとめている垣花正。マイク生活30周年を記念して、これまで出会ってきた人々との思い出や教わったことをつづった初の著書『人は出会いが100%』(KADOKAWA)を上梓するなど、活躍の場を広げている。
「30年と聞くと長いですが、多くを積み重ねた実感がないので、まだぺーぺーに毛が生えたぐらいのつもりでいます。重みが出て、へんに信頼されても困るので、そのバランスは守りながら過ごしています」
垣花の人生を変えた最初の人物が、萩本欽一だ。大学生のときに入団した「欽ちゃん劇団」で出会った。
「当時の欽ちゃんは50歳くらいで、イケイケでした。そして、めちゃくちゃ怖かった。いつもじっと見つめてきて、レントゲン写真のようにすべてを見抜かれてしまう鋭さがありました」
そんな欽ちゃんの教えを、いまも大事にしている。
「“人生は運”という考え方を教わりました。日ごろからがんばっていない人には運がやってこないから、真摯に、真面目にがんばらなきゃダメ。
また、運は平等で、トータルとんとん。いま下がっていてもいつかは上がる、下がっているときは、上がるための運の貯金をしているだけだという考え方で。この教えは、元日本テレビの羽鳥慎一さんや、フジテレビの佐野瑞樹さんら、同期が輝かしい活躍を見せるなか、安室奈美恵さんの収録を寝坊ですっぽかして1週間謹慎していた僕を支えてくれました」
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数々の人気番組を担当した垣花だが、入社してすぐに担当した『オールナイトニッポン』で“事故”を起こしてしまった。
「才能がない、とはっきりとわかったのは第1回。とりあえず自分の人生を話せばいいかと思ってスタートしたら、まさかの5、6分で22年間のことを語り尽くして、沈黙……。絶望的になってブースの外を見たら、ディレクターの顔は真っ青。その後の記憶はないですが、とんでもないところに来ちゃったなと思いました」
マイク前で一人トークができないことを思い知らされた彼が活路を見出したのは、自分を誰かにイジってもらうことだった。
「ラジオなのにモヒカン頭にしたときは、アナウンス室の上司は怒っていましたが、番組のディレクターは『おもしろい』と笑ってくれました。アナウンサーとして1日でも長く仕事を続けることを考えて、髪型でもいいから、とにかくイジってもらおうと思ったんです」
そんななかで出会ったのが、演出家のテリー伊藤だった。
「初対面時は、ツバを吐き散らかして訳のわからないことをまくし立てるように話していて……。番組の中継を担当することになったんですが、企画はめちゃくちゃなのにおもしろいんですよ。
それで、テリーさんに喜ばれるためにやっていたら、次第に『垣花っておもしろい』と言ってくれる人が増えたんです。人と一緒に組んで “引き出してもらう” 楽しさを教えてもらいました」
そのうちに、「(自分も)誰かのよさを引き出したいと思うようになってきた」と言う。
「たとえば、和田アキ子さんと『ゴッドアフタヌーン アッコのいいかげんに1000回』(ニッポン放送ほか)を24年やらせていただいていますが、テレビのアッコさんとは違う部分を引き出している自負が、僕にはあって……。とくに最近のアッコさんは、お茶目な女のコという感じ、天然なところが出ています。等身大のアッコさんが、ラジオにはいる気がします」
どんな大物が相手でも懐ろに飛び込み、愛される垣花。そのコミュ力の源は……。
「人間は、誰しもが欲の塊だと思っているので、その人の持っている欲が何なのかを考えることが近道だと思います。
先日、ラジオで中森明菜さんとご一緒したのですが、ああ見えて、じつは(人を)笑わせたいという気持ちが強い方なんですよ。なので、放送中は明菜さんが繰り出すボケを素直に笑って、楽しむことを大事にしました。
アッコさんだと、自分にツッコんでほしいという欲があるんです。だから、アッコさんがおいしくなることを考えてツッコんでいます。それで、アッコさんのかわいい素顔が多くの人に伝わればいいなと思っています。
これは芸能人だから特別ではなく、一般の社会でも同じだと思います。最近、人間関係で悩む人が多いですが、一度、相手の “欲” について考えてみると、ほどよい距離感が見つけられると思います」
そのためには、物事の本質を捉える、俯瞰した視点が大切だという。
「幽体離脱するつもりで、まわりを観察してみると、見えてくるものがあると思います。
僕は、誰かと組むことによってウィンウィンになるのが “欲” です。だって、ひとりだと何もできないことを『オールナイトニッポン』で経験しましたから。おもしろい人を見つけて、一緒に組むことによって、その人のよさを引き出していきたいです」
失敗を糧にしてコミュ力お化けとなった垣花だが、攻略できない大物がひとりいるという。それは、垣花のあこがれの人でもある、タモリだ。
「タモリさんのように完全無欠な人とは、組んでもその人のよさが引き出せないんですよ。メンタルが安定していて、知識も豊富で、どの角度からもおもしろいことが言える人とは、接し方がわからないというか。ひとりで十分におもしろいから、僕、いらないでしょ(笑)。だから、『タモリさんとラジオをやりませんか?』と言われても考えちゃいます。どうなるのか、自信がないです」
では今後、どんな人と組んでいきたいと思っているのか。
「最近、タレントさんより専門家のほうが気になる人が多いとわかってきました。いまだと、岡田斗司夫さんのおもしろさが増してきている気がします。そういう人たちの “欲” を理解して、ウィンウィンの関係を築ける限りは、アナウンサー業を続けていきたいです」
“俯瞰” で活路を見出したアナ人生はまだまだ続きそうだ。
かきはなただし
1972年1月1日生まれ、沖縄県宮古島出身。1994年にニッポン放送入社。『垣花正 あなたとハッピー!』(ニッポン放送)、フリーアナウンサーに転身後は『5時に夢中!』(TOKYO MX)のMCも担当。著書『人は出会いが100%』(KADOKAWA)を上梓
写真・木村哲夫