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清野菜名『119エマージェンシーコール』声だけのやりとりで画的に弱いと思ったが…“すごみ” が凝縮された珠玉のエンタメに昇華

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記事投稿日:2025.03.03 11:00 最終更新日:2025.03.03 11:00
出典元: SmartFLASH
著者: 堺屋大地
清野菜名『119エマージェンシーコール』声だけのやりとりで画的に弱いと思ったが…“すごみ” が凝縮された珠玉のエンタメに昇華

 

 

 正直、これまで “声だけ” のやりとりに画的な弱さを感じていたが、2月24日(月)放送の第6話では、本作の真骨頂を見た気がした。清野菜名主演の月9ドラマ119エマージェンシーコール』(フジテレビ系)のことだ。

 

 横浜市消防局・通信指令センターが舞台で、119番通報を受ける指令管制員たちの活躍を描く物語。

 

 

 電話を受け、第一声で「119番、消防です。火事ですか、救急ですか」と尋ねる。そして通報者からヒアリングをおこない、適切に救急車、消防車の出動指令を出す。そんな緊迫したシーンが醍醐味の作品だ。

 

■通報の描き方は大別すると2パターン

 

 ただ、言わずもがな、主人公たちの見せ場は通報を受けているところなので、画面の地味さは否めなかった。

 

 一応、主人公・粕原雪(清野)が、勤務後に自分が受けて気になった現場に足を運ぶのがお約束の展開になっており、現場の再現シーンが描かれるケースがある。

 

 雪は実際に見たわけではないのだが、聴力・記憶力のよさを活かし、通報を受けたときのことを思い出しながら、現場でなにが起こっていたかを想像する。そして、その想像の映像を視聴者は観られるという、演出面での工夫は凝らされていた。

 

 要するに、本作の通報の描かれ方は、大別すると2パターン。のちに主人公の想像として当時の現場が映像で描かれるパターンと、主人公の想像はなく声だけのやりとりで完結するパターンがあるわけだ。

 

 前者のパターンは、聴覚だけでなく視覚でも視聴者に訴えかけられるので、テレビドラマとして普通に考えればこちらのほうが見応えがある。

 

 だが、それはあくまで “普通に考えれば” の話。現場の様子を役者が演じている映像があればわかりやすくはなるものの、ありがちな見どころになってしまう。そもそも救急救命士や消防士といった現場に駆けつける職業を主人公とした作品に、どうしても見劣りしてしまうだろう。

 

 一方、後者のパターンは、通信指令センター内で通報者と通話するのがメインで、ダイナミックなシーンもなく、画が地味になってしまうデメリットがある。

 

 しかし、第6話後半では、この “声だけ” のやりとりこそ、このドラマの真骨頂なのだと思い知らされたのだ。

 

■“声だけ” で完結させた2件の通報

 

 まず、ストーカーのようになった知人の男から殴られ、逃げている最中の10代女性からの通報。パニックになりながら必死に走っている女性の声に、男の声が迫ってくるというスリリングな事件。

 

 チームリーダーである指令管制員(中村ゆり)が冷静に対応し、機転を利かせたファインプレーで、無事に救急車が女性を保護するまで誘導できた。

 

 続いては、タクシーのなかで妊娠中の妻の陣痛が突然始まったという夫からの通報。タクシーが高速道路に乗っていたので救急車を出口に待機させる手配をするも、破水してしまったため、通報を受けた雪の指示のもと、そのまま車内で産むという緊迫した展開になった。

 

 赤ん坊の頭がもう出てきているという状況を聞いた雪は、背後にいるチームのメンバーに振り返って「できることをやりましょう」と一言。強い信念を宿した清野の目の演技が最高。

 

 混乱する夫に「赤ちゃん、車内で産みましょう」と伝え、妻の極限状態の絶叫が響くなか、「吸って……吐いて……大きく吸って……いきんでくださいっ」と繰り返す。無事に赤ん坊が生まれ、通話越しに産声を聞こえて来たシーンでは思わず鳥肌。感涙ものだった。

 

■視聴者に高度な要求をしている作品

 

 これらのシーン、通報者側の映像は映されず、声だけのやりとりで進んでいったのだが、通報者の表情も挙動も見えないからこそ、視聴者は想像力を掻き立てられる。

 

 現場の様子は脳内で補完するしかないので、ある意味、視聴者に高度な要求をしている作品とも言える。けれど、それにより聴覚が刺激され、本作ならではのオンリーワンのスリリングさが生まれた。もちろん、役者陣の高い表現力があってこそなのは言うまでもない。

 

 このように、声のみのやりとりで完結させる手法のほうが、本作の最大の個性を活かせるに違いない。

 

 主人公たちも通報者の様子が見えない状態で対応しているので、視聴者にも現場の映像を見せないほうが感情移入して追体験しやすいし、テーマに沿っているからだ。

 

 とはいえ、テレビドラマにおいて、最大の情報量を含んだ視覚での訴求効果をなかば捨てて、聴覚をメインでストーリーを引っ張っていこうという選択は、制作陣としてはかなり怖さもあったはず。しかし、結果的に英断だったと思う。

 

 とにかく、画面は通信指令センター内の面々を映し続けているだけで、通報者とは声だけのやりとりにもかかわらず、ここまで感動させられるのかと驚嘆したほど。本作の “すごみ” が凝縮され、独自かつ珠玉なエンタメ作品として結実したエピソードだった。

 

 ――今夜放送の第7話では、失声症で声が出せなくなっている雪の姉が通報者となるエピソードが描かれる。今度は声さえも聞こえない通報になるようなので、どういう展開になっていくか期待して視聴したい。

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