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ハリウッド注目の渡辺信一郎監督が語る最新アニメ『ラザロ』への“熱量”「手描きのアニメーションにこだわりたい」

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記事投稿日:2025.04.08 06:00 最終更新日:2025.04.08 06:00
出典元: SmartFLASH
著者: 『FLASH』編集部
ハリウッド注目の渡辺信一郎監督が語る最新アニメ『ラザロ』への“熱量”「手描きのアニメーションにこだわりたい」

主人公・アクセル。脱獄の常習犯で刑務所内の有名人/『LAZARUS ラザロ』(C) 2024 The Cartoon Network, Inc. All Rights Reserved

 

2021年にNetflixで実写化されたアニメ『カウボーイビバップ』(1998年)などで日本のみならず、ハリウッドからも注目を集める渡辺信一郎監督。4月6日より渡辺監督の6年ぶりとなるオリジナル作品『LAZARUS ラザロ』が6日より地上波放送開始、各動画配信サイトでも順次配信される。

 

『チェンソーマン』『呪術廻戦』といった作品で高い評価を得ているアニメーション制作会社MAPPAが制作を担当するということでも話題となっている本作。アクション満載で描かれるオリジナルSF作品に、渡辺監督自身も「これまでのアニメーションにはなかったような物語とアクションを楽しんでいただけると思います」と手ごたえを感じている。

 

本作『ラザロ』の舞台は2052年。全世界で使われている鎮痛薬「ハプナ」の副作用によって、服用経験のある人間は服用から3年で死亡することがわかったところから始まる。このワクチンを手に入れるために行方不明になっている「ハプナ」の開発者を探し出すために集められた精鋭グループ「ラザロ」の面々は、残された時間で世界を救うために奔走する――。

 

全13話で描かれる本作制作のきっかけは、米国からの依頼だったという。

 

 

「まずこれは、原作のないオリジナル作品なんです。今までもアメリカ資本の仕事はやってますけど、マトリックスのスピンオフ作品『アニマトリックス』とか、ブレードランナーのスピンオフ作品『ブレードランナー ブラックアウト2022』とか、向こうの企画にこちらが参加する形だった。今回は米国のカートゥーンネットワークが全額出資なんですけど、自分のオリジナル企画でアメリカからの出資、ってのは初めてですね。向こうからのお題は『SFアクションをやって欲しい、あとは任せる』と。最初に思いついたのが、世界を滅ぼすかもしれない鎮痛剤、ハプナのアイデアです。

 

これは、海外では社会問題になってる、オピオイド危機をヒントにしています。
そして、アクションをやるのだったら“パルクール”をやりたいと思っていたんです。ビルからビルへと飛び移ったり、街中を危険なアクションで移動するパルクールをアニメーションで表現したかった」(渡辺信一郎監督、以下「 」内は同)

 

「SF」「危険な薬」「パルクール」。これらのアイデアを繋いだのが、エンディング曲にして、作品のタイトルともなった、英国のロックバンド、ブー・ラドリーズの楽曲『Lazarus』(1992年)だ。

 

「この曲を久しぶりに聴いたら、イメージが湧いてきてバラバラだった3つの要素が自分の中でひとつにまとまったんです。もちろん『ラザロ』は『ヨハネによる福音書』のラザロという人物のことですが、そんな由来も含めてインスパイアされました」

 

 今回、アクション監修として世界的大ヒットアクション映画『ジョン・ウィック』シリーズのチャド・スタエルスキ氏が参加している。スタエルスキ氏はどのような役割を担ったのか。

 

「チャドさんは何十年もアクション一筋にやってきた、その筋のマスターなんで、パイセンに話を聞こう、と思って連絡したんです。そしたら何と、自分の昔の作品『カウボーイビバップ』とか『サムライチャンプルー』が大好きだって言ってくれて。とてもインスピレーションを受けたから、その分をお返しするよと。そんなステキな言葉、日本人からも貰ったことがないですね(笑)。具体的には、『ラザロ』のアクションシーンのために、実際にスタントマンを使ってアクションを撮影・編集までしたムービーを送ってくれた。それを見ながら、さらにブラッシュアップして参考して、アニメーションにしています」

 

 SF作品映画として、世界の描き方もユニークだ。

 

「いまと30年前を比べてみたら、思ったほどテクノロジーや生活が変わっていないんです。だから、今から30年後の未来も思ったほど変わってないんじゃないかと、そういう未来にしてます。あとは、金があるとこはどんどん未来的なビルが建っていくけど、貧乏なところは取り残されて、現代とほとんど変わんないような街並みにしてる。そういう格差があるほうがリアルなんじゃないかな」

 

『カウボーイビバップ』のジャズ、『キャロル&チューズデイ』(2019年)の未来のヒットチャートを席巻する様々なジャンルの音楽。音楽は渡辺作品の大きな魅力だ。

 

「今作ではジャズもありますけど、今までよりエレクトロニカだったり、もっとダンスミュージック寄りの音楽が多いです。何でかというと主人公・アクセルのアクションシーンを、まるでダンスを踊っているかのように見せたかったから。普通だったらもっと緊迫感の溢れる音楽をかけそうな場面を、あえてダンスのように見せることで、ちょっと新しさが出るのではないかなと」

 

サウンドで起用した各アーティストについても渡辺監督は熱く語る。

 

「ボノボ、フローティング・ポインツっていうのはダンス・エレクトロニック畑の人たちだけど、それにとどまらない才能を持ってる。ボノボはあらゆる楽器を自分で演奏したり、グラミー賞に7回もノミネートされてるくらい評価が高いし、フローティング・ポインツも、最近だと宇多田ヒカルのアルバムの曲をプロデュースしたりと幅広い音楽性を持ってる。

 

 カマシ・ワシントンもジャズ界にとどまらない才能の持ち主だし、彼の生演奏のサックスは魂の咆哮って感じで、この作品に合うなと思ったんです」

 

 現在、日本のアニメーションは世界中で評され、国内の劇場における映画興行成績の上位はアニメ映画が独占している。このような現状を監督はどう見ているのだろうか。

 

「海外からの出資とか、日本国内でも新規参入企業からの出資も増えて、お金はまわるようになってきた。でも増えりゃいいってもんでもなくて、作品数が増えすぎて、人手が全然足りないですね。アニメのクリエイターって職人なんで、そういう人の数は限られてるわけです。でも労働環境も良くなってきてるんで、昔のイメージとは違う。若い人たちはどんどんアニメ界に入ってきてほしいですね」

 

 渡辺監督はそんな現状の中でも「手描きのアニメーションにこだわりたい」と話す。

 

「人手不足の流れとして、やっぱりCGに頼りたいとか、AIに頼りたいというトレンドはありますね。ただ、自分がこの業界で長くやってきた結論として、アニメってやっぱり手で描くからこそ、魅力があるんじゃないか。そこには必ず、描き手の気持ちが入ってくるはずです。作画が崩れないから3DCGのほうがいいっていう人もいますけどが、むしろ作画は”崩れるからいい”んじゃないかな。

 

 それは単に絵が崩れるっていう意味じゃなく、たとえばちょっと目を強調したいカットであれば、普通より目を細かく描いちゃったり、手を手前に出すカットであれば、手を普通より大きく描いちゃったり。それは正確さでいったら崩れてるって事になるけど、それは描き手のこう描きたいって気持ちの表れなんです。そういう気持ちが入っているものこそ魅力的だと思うんで、自分はこれからもずっと手描きのアニメをやり続けたいと思っています」

 

 あくまでも手描きのアニメーションを大切にしつつ、新たな要素も本作には盛り込まれている。

 

「昔の繰り返しにならないよう、いろいろアップデートしてるつもりです。サウンドエフェクト(効果音)に関してもハリウッドから参加していただきました。フォルモサ グループという、ハリウッドでも一番イケてる音響チームに頼みました。最近の仕事だと『トップガン マーヴェリック』(2022年)なんかをやってやるチームです。やっぱりハリウッド映画を観ていてすごいのは音響なんですよね。その秘密を知たいと思ってオファーしてみました」

 

脚本の作り方もハリウッドの形式を取り入れた。

 

「脚本は、(ハリウッド映画で使われる)ライターズルーム方式みたいな感じで、4人の脚本家がチームとなり、互いにアイデアを出し合い、それをひとりがまとめて脚本に仕上げるというスタイルをやってみました。ひとりのアイデアには限界がありますし、チームで作り上げることでよいアイデアを選択できるんじゃないかと」

 

これまでのアニメーションでは見られない様々な手法やアイデアが、惜しみなく注ぎ込まれた『LAZARUS ラザロ』。最後に渡辺監督は視聴者に向けこう語った。

 

「いろんな意味で、今地上波で放送してるアニメーション作品とは驚くほど違います。例えば、最近あまりアニメとか観てないとか、実写映画は観るけどアニメは追っかけてないとか、そういう人たちも含めて観てほしいですね。1話だけでこの作品に込められた熱量が、これまでのアニメとは違うと感じてもらえるんじゃないかな」

 

PROFILE
わたなべしんいちろう 1965年生まれ  京都府出身 高校卒業後、アニメ制作会社日本サンライズ(現サンライズ)に入社。1994年、『マクロスプラス』で監督デビュー。『カウボーイビバップ』(1998年)は世界中から高い評価を得て、実写化もされた。ほかの監督作品に『サムライチャンプルー』(2004年)、『坂道のアポロン』(2012年)、『スペース☆ダンディ』(2014年)、『残響のテロル』(2014年)『キャロル&チューズデイ』(2019年)など。最新作『LAZARUS ラザロ』が4月6日23時45分よりテレビ東京で放送開始

 

写真・福田ヨシツグ

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