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【告発】大阪万博・海外パビリオンで続出する工事費“未払いトラブル”一次下請けは「やらなかったらよかった」心情吐露

大阪・関西万博の中国パビリオン(写真・馬詰雅浩)
4月13日の開幕から2カ月。大阪・関西万博の一般来場者数は累計で約639万人となった。万博協会が想定する期間中の来場者、2820万人達成は難しいにしても、予想以上の人気と言っていい。だが、そんな好調ぶりに水を差すトラブルが取りざたされている。海外パビリオンの建設工事費の未払い問題だ。
6月13日、大阪府庁で「万博工事代金未払い問題被害者の会」が記者会見をおこなった。
「『被害者の会』を5月27日に立ち上げたのは、アンゴラ館の建設工事に携った下請け業者で、工事代金4300万円が支払われていないと訴えています。マルタ館の工事を請け負った下請け業者は、1億2000万円の未払い代金の支払いを求めて、外資系の元請け会社を提訴しています。この日は、中国パビリオンの建設に当たった業者も3700万円の未払いを訴えました」(政治担当記者)
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複数の国のパビリオン建設で相次ぐ未払いトラブルだが、本誌にも当事者が口を開いた。
「万博は国家プロジェクト。ふだん請けている仕事が減るのは痛手ですが、半年間、我慢すれば国に貢献できるという思いで請けることにしました。それが、こんなしっぺ返しを食らうとは……」
悲痛な胸の内を吐露するのは、13日の会見にも出席した神戸市の電気工事会社、X社のA社長だ。中国パビリオンの建設に携り、電気工事を請け負った。元請けは名古屋市に本社を置く中日建設。一次下請けのY社からオファーを受け、工事に参加したが、工事費用約3700万円が未払いのままだという。
「本体工事は3000万円で契約しましたが、これについては、Y社さんから支払われています。しかし、2024年11月ごろから4月の開幕直前までに、多くのプラン変更、追加工事が発生し、この追加工事分3700万円が支払われていないんです。
弊社は、万博ではほかにもいくつかの国のパビリオンに携りましたが、中国パビリオン以外は契約をちゃんと履行していただいて、追加工事の代金もきっちりいただいています。未払いは中国パビリオンだけです」(A社長)
A社長は、当初から支払いについて、Y社に対して何度も確認してきたという。では、未払いの原因はどこにあるのだろうか。
「見積もり書を提出して、Y社からは追加工事の『ゴー』をもらっていたんです。元請け会社の社長にも『追加工事の分はちゃんといただけるのか?』と聞くと『絶対払うから信じてほしい』という言葉をもらっています。
悔やまれるのは、追加工事ぶんについては契約書をかわしていなかったことです。契約書ができるまでに1週間かかり、それを待てば万博の開幕に間に合わなくなるので、口約束で工事を進めてしまいました。うちだけじゃなく、ほかの業者さんも、同じように口頭で指示され、工事を進めていました」(同前)
突貫工事で開幕までになんとか間に合わせたが、追加工事の代金は3700万円に膨れ上がっていた。そして、工事代金が支払われないまま、開幕を迎えた。
「Y社に支払いをお願いしたところ、『なんとかする』と。しかし、Y社も元請けから未払いがあったんです。
4月18日、Y社の社長と2人で中日建設の本社に出向き、双方の出勤票、請求書、請書(注文を受けたことを証明するために発行する書類)などを比べながら確認したところ、Y社の手がけた本体工事の請負金額は約1億1000万円。これに、追加工事分が3700万円。合わせて1億5000万円ほどが、本来、支払われるべき金額でした。
しかし、中日建設からY社に支払われた代金は4000万円だけ。1億円あまりが未払いだったんです」(同前)
一次下請けのY社が未払いの被害にあっていたため、その下請けのX社も当然、未払いが起こったというわけだ。こうした“未払いドミノ”を解消すべく、1週間後にA社長は中日建設の社長に電話し、「Y社に未払いの分を支払ってくれないと、私の会社にもお金が下りてこないので困る」と念を押したというが……。
「中日建設の社長は『いや、お金はもう払っている。あとはY社と交渉してくれ』というんです。しかし、1億円以上の未払いを受けて困っている取引先に、『カネをくれ』なんて口が裂けてもいえなくて……」(同前)
当初は「絶対払う」と明言していた中日建設の手のひら返しに、A社長は困り果てた。3月には大阪府知事宛ての相談窓口に、メールで未払いによる窮状を訴えた。そのとき、同時に万博協会の通報窓口にも相談している。
「しかしその後、なんの進展もない状況です。もちろん、3700万円の未払い金が補償されることはありません。中日建設とY社には、これからも支払いを訴えていくつもりですが、正直、なんの当てもありません。未払い問題について、万博協会はヒアリングなどをしてくれてはいますが、『民間同士の契約で、介入するのは難しい』という姿勢です。しかし、ここまで問題が大きくなっているのですから、なんらかの支援策があってもいいんじゃないでしょうか」(同前)
未払いの被害にあった下請け業者の告発は、ほかにも届いている。奈良市の電気通信設備会社、Z社も、中国パビリオンで電気工事を請け負い、約2500万円が未払いとなっている。このケースも、元請けは中日建設、1次下請けY社の工事を、Z社が請け負ったという同じ構図だ。Z社のB社長が経緯を語る。
「2024年2月ごろに、中日建設の顧問を名乗る人から、うちの取引会社を通じて、中国パビリオンの防犯カメラの工事ができないかと依頼があったのが始まりです。その後、電気工事も請け負うことになって、中日建設とおつき合いがあるY社の傘下に入ることになって、2024年8月、正式に工事に入りました。このとき『お金の心配は大丈夫ですよ』という説明をもらっています」
その後、2024年10月ごろに、中日建設から電気工事に加え、追加工事を依頼された。X社と同じく、この追加工事分が未払いになっているという。
「追加工事は、ネットワークの配線などの工事でしたが、そのための材料費や人工(にんく)代に、少し利益を乗せたものを全部足すと2500万円。当初、お願いされていた本体工事の請負金額はちゃんと支払われているのですが、追加工事分が1円も支払われていないんです」(同前)
未払いの被害者はほかにもいると、B社長は明かす。
「内装工事の会社は1億5000万円がほぼ未入金で、空調の会社は数千万円が未入金とのことでした。いずれも中日建設が元請けの工事ですが、公になっていないケースも、まだまだたくさんあるはずです」
2500万円の未払いが、経営に与えた影響は大きいという。
「2人の従業員に給料はなんとか払っていますが、仕入れ業者など4社に支払いができておらず、待ってもらっている状態です。税金も社会保険料も払えなくて、このまま払えなければ差し押さえといわれています。ほんまにヤバい状況なんですよ。こうなったら、あとは法的手段に訴えるしかありません」(同前)
B社長は、未払いの責任は「中日建設にある」と断言する。
「金額があまりにも大き過ぎるし、うちが2024年の8月に工事に入った時点で、すでにいろんな業者さんが撤退していたんです。理由は『工事代金を払ってくれない』から。作業員のための駐車料金も、中日建設は払っていません。万博協会から督促状が来ていましたよ。
結局、工事を請け負う体力もないのに請けてしまって、未払いを出しても何も対応しない。中日建設はおそらく、見積もりの計算が甘かったと思うんです。電気工事なら、普通は全部、一式で請け負うんですが、今回は1工事ごとに1社ずつ見積もりを取って、安いところと契約したわけです。しかし、蓋を開けてみたら、単価が上がって利益が減っていったのでしょう。発注元の中国政府に対する見積もりも甘かったのだと思います」
万博協会の対応についてもこう不満を吐露する。
「未払いを訴える声は、以前から上がっていたはずなんです。それでも『工事を期間内に終わらせろ』が最優先で、未払いの問題は後回し。ちゃんと追及してくれたんかなと思います」
なぜ今回、万博という国家プロジェクトでトラブルが頻発してしまったのか。建築エコノミストの森山高至氏はこう解説する。
「元請けとしてふさわしくない業者が仕事を受けてしまった、ということが背景にあるでしょう。
本来、元請けは大手や中規模のゼネコンが請け負うもの。ゼネコンにとっては、仕事を請けたことの評判が何より大事で、工事で何か不測の事態があっても全部、面倒を見る。だから今回のように、多くの下請け業者が未払いを訴える事態は恥ずかしいことなんです。
しかし、今回の万博パビリオンは難工事が予想されたため、関西に拠点を持つ大手ゼネコンなどは積極的に参加していません。今回、未払いの問題を起こした業者は、もともと、元請けの資格はないような小さな業者も多いのではないでしょうか」
すべての発端は、難工事を強いた万博の強行開催にあるのかもしれない。未払いにあった業者は大阪府や万博協会にも相談しているが、解決策はないままだという。府や万博協会の責任は問われないのか。
「当然、問われるでしょう。今回、未払いの被害にあった人たちは、『国家プロジェクト』と宣伝され、やりがいも感じ、支払いも固いと思って仕事を請けたわけです。ところが、トラブルが起きてしまった。府や協会は、民間企業同士の取引だから関与できないとのことですが、総理大臣まで連れてきて宣伝するようなプロジェクトは、やはり国家プロジェクトですよ。国として何らかの救済措置が必要です」(森山氏)
万博協会に、どのようにこの未払いトラブルをとらえているのか問い合わせると、「協会として、当事者同士の話し合いの場を設けたり、適切な行政の相談窓口を紹介している」との回答だった。
一方、未払いにあった業者がその責任を追及するのが中日建設だ。矢面に立たされた側に言い分はないのか。中日建設に質問状を送ったが、期日までに回答はなかった。
中日建設から1億円あまりの未払いがあるという一次下請けのY社は、今回の事態をどのように感じているのか。Y社関係者を取材すると、未払いの件で中日建設との打ち合わせが今後、決まっているとしたうえで「それ次第では訴訟も大いにありえます」と、法的措置の可能性も示した。そして今回の工事について、こう心情を吐露する。
「やらなかったらよかったと、心から思っております」
森山氏は、未払い問題は遠からず、社会問題化すると予測する。
「被害にあった人たちも、会社が存続できると思っているうちは我慢したり、ほかの仕事でなんとかしのいだりしているはずです。しかし、実際に多くの業者が経営危機になって“飛ぶ”ような事態になったら、何が起こるかわかりません。その深刻さを、国も大阪府も万博協会も、理解しているとは思えません」
工事の未払いは“よくある話”で片づけてはならない――。