エンタメ・アイドル
【50周年】スーパー戦隊に“もっとも詳しい”プロデューサーが語る“試行錯誤”の歴史「追い詰められた結果、生まれた“戦うトレンディドラマ”」

東映の白倉伸一郎氏(写真・梅基展央)
「5人揃ってゴレンジャー!」
スーパー戦隊シリーズの元祖『秘密戦隊ゴレンジャー』の放送が始まったのは、1975年4月。50周年の節目となる2025年は、『ナンバーワン戦隊ゴジュウジャー』(テレビ朝日系)が放送中だ。
時代とともにテーマやストーリーも変化を続け、この50年間に登場したスーパー戦隊は50組。これほど長くスーパー戦隊が続いてきたのはなぜか? その魅力を、スーパー戦隊や仮面ライダーシリーズなどの特撮作品に、プロデューサーとしてかかわってきた東映の白倉伸一郎氏に聞いた。
白倉氏とスーパー戦隊の出会いは、高校生のときに訪れた大学の学園祭だったという。当時、評判だったアニメが上映されるはずだったが、手違いで流れたのが『バトルフィーバーJ』(1979年)だった。
「最初は『なんだこれ』って感じだったけど、これがなんだか、おもしろいんですよ。その後、しばらくしてテープが替えられてしまったんだけど、あの作品はいったい何だったんだろうと思ってね。調べてみたらシリーズものらしい。それから『デンジマン』(『電子戦隊デンジマン』1980年)っていう番組の再放送が始まると。それで見始めたら、これがぶっ飛んでるんですよ。大人の美男、美女が真面目な顔してバカなことをやってるし、犬はしゃべり出すし(笑)。それからは『デンジマン』『サンバルカン』(『太陽戦隊サンバルカン』1981年)と、かじりつくように観たんですね」(以下「」内は白倉氏)
東京大学を卒業し、1990年、東映に入社。最初に参加したのは『鳥人戦隊ジェットマン』(1991年)だった。
「『ジェットマン』の途中から、アシスタントプロデューサーという形で入りました。いまは50周年ですけど、その当時で『ゴレンジャー』から16年経っているわけで、すでに長寿番組化はしていたんですよ。前年の『地球戦隊ファイブマン』(1990年)なんて、視聴率は低い、玩具も売れなくて大コケ。現場も、あの手この手を出し尽くした、もうやり尽くしたって感じだったんです。
このままではいけないっていうんで、脚本家から監督から一新して、新しいものを作ろうというのが『ジェットマン』です。追い詰められた結果なんですよ、『ジェットマン』が生まれたのはね」
【関連記事:誕生から45年「スーパー戦隊」青春の43作品をプレイバック】
戦隊メンバー同士の恋愛を盛り込み「戦うトレンディドラマ」とも呼ばれた『ジェットマン』。その結果、幅広いファンの支持を集め、その後のシリーズの流れを大きく変える作品となった。
「シリーズ打ち切りの一歩手前、風前の灯火という状況でしたが、なんとか息を吹き返しましたね。次の『恐竜戦隊ジュウレンジャー』(1992年)も人気が高くて、『パワーレンジャー』というタイトルで、海外でも放送されました」
それまで子ども向けとして制作されてきたスーパー戦隊シリーズだが、子どもの母親など幅広い層から人気を得るようになったのは、このころからだという。いまでは、スーパー戦隊シリーズ出身の俳優が、ドラマや映画で大活躍している。
「いまでこそ、横浜流星さん(『烈車戦隊トッキュウジャー』2014年)がNHKの大河ドラマの主役をやったり、2027年には松坂桃李さん(『侍戦隊シンケンジャー』2009年)も大河ドラマ『逆賊の幕臣』の主演をやったりしますけどね。20年ほど前までは、オーディションにそれほど俳優が集まらなかったんです。当時は学園ドラマも少なく、男性の若手俳優層が薄い時代。芸能事務所もそういう層を集めていなかったし、あとやっぱり、スーパー戦隊って、どこかバカにされていた部分があったんですよ。
そういう時期に、テレビドラマで『ごくせん』シリーズ(日本テレビ系)が始まって、俄然、男性の若手俳優に注目が集まった。そこで、芸能界の雰囲気が大きく変わったところはあると思います。スーパー戦隊からも、永井大(まさる)さん(『未来戦隊タイムレンジャー』2000年)や、玉山鉄二さん(『百獣戦隊ガオレンジャー』2001年)みたいな人が台頭してくれたんです」
主役級の俳優の躍進もさることながら、忘れてはいけないのは“ヒロイン”の存在だ。『ゴレンジャー』の「モモレンジャー」以来、戦隊には女性メンバーが存在するのが基本フォーマットとなっている(『太陽戦隊サンバルカン』を除く)。
「戦闘集団なので、本当は全員、男性のほうが理にかなっているはずなんです。ただ、そのなかに女性のヒロインが入ることによって、チームとしての魅力がすごく出てくるんですね。これは『ゴレンジャー』に始まったことではなく、石ノ森章太郎先生の『サイボーグ009』もそうだし、『科学忍者隊ガッチャマン』もそうだったわけです。これが、このスーパー戦隊シリーズが長く続いている理由のひとつだと思います。
私が入る少し前の『ジェットマン』の話なんですが、まったくヒーローに変身しない回が作られかけたことがあったんです。1話まるごと、メンバー同士の恋愛の話という脚本が上がってきて、みんな腰を抜かしちゃって(笑)。さすがにこれはマズい、ってことで、なんとか変身して戦闘するシーンを入れ込みました。しかし、男女が一緒にいればいろんなドラマが生まれるし、恋愛や青春だけじゃない、どんなドラマも描けるというのが、スーパー戦隊のいいところだと思うんですよ。もちろん基本は子ども向けの番組として、それを欠くことがなければですけどね」
白倉氏がもっとも印象に残っている女性メンバーは?
「いろいろいるんですが……。強いてあげるなら『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』(2022年)の志田こはくさん(鬼頭はるか/オニシスター役)ですかね。ヒロインというのは、チームのなかでも年下、末っ子型という立場が多いんですよ。現場でも大事にされるし、かわいがられる。しかし彼女の場合は、18歳でしたけど、ひとりの俳優として一本立ちしている。むしろ、まわりが模範とするようなところがあって。監督もほかの俳優に『志田を見習え』って言っていたくらいですから。これは逸材だなと思って、見ていました」
すでに50年。現在放送中の『ゴジュウジャー』は49作品めだが、今後の展開はどうなっていくのだろうか。
「難しい局面でしょうね。いや、もうとっくになってますね。ここ10年くらいはずっとそうです。これまでの長い間、支持を受けてきたのはありがたいことですが、その結果として『文化』になってしまったという気がしているんですよ。すでに我々が作る戦隊だけではなく、ご当地ヒーローであるとか、漫画もそうですが、世のなかにあふれている状況です。そのなかで、毎年、新作を出しても、そのなかのひとつ、『ワン・オブ・ゼム』に、どうしてもなってしまう。
試行錯誤しながら長い時間をかけて作ってきたものですから、戦隊自体が持つフォーマットというのは、非常に強い復元力を持っているのはたしかなんです。しかし、そこをある程度、壊していかないと、世のなかにあまたあふれる戦隊と変わらなくなってしまう。そういうジレンマを抱えながら、やはり新作は、新作であるだけの意味がなくてはいけない。メッセージ性や映像表現だったり、新しいヒーロー像だったりっていうのを、提示しなきゃいけない。それは『仮面ライダー』も同じことです。
いまやっているのは『ナンバーワン戦隊ゴジュウジャー』で、ベタなネーミングですが、ただ50年、50番めの戦隊(※1)ということではなく、50のうちのナンバーワンだぞと、そういう意味を込めてもいるんですよ」
※1 2018年の『快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー』に2組のスーパー戦隊が登場しているため、50番めの戦隊となる
白倉氏は『ゴジュウジャー』を、どう見ているのか。
「私はこの作品のプロデューサーではないんですが、特徴的だと思うのは、敵のキャラクターです。敵の幹部ってだいたいは、化けもの系の着ぐるみだったりするんですけど、これは違いますから。また、演じている俳優さんがすごく楽しそうなんです。とくに『ファイヤキャンドル』を演じている三本木大輔くんとか、めちゃくちゃキャラが濃くて、こんな、敵を見ていて楽しくなる番組って、そうそうない。
ただ、敵キャラの人気があまりに高くなってくると、今度は倒せなくなってくる。そういう困ったことにもなってくるんです。7月に公開される映画『ナンバーワン戦隊ゴジュウジャー』では、『ゴジュウジャー』たちと敵キャラたちの共闘もあるので、そのあたりも楽しみにしていてください」
最後に、もっとも思い入れの強い作品は何か聞いた。
「『電子戦隊デンジマン』でしょうね、高校生のときに観た。あれで人生を変えられてしまった、と言っても過言ではないですから。ただ、あれから観返してないんです。怖いんですよ。またハマッてしまったらどうしようって(笑)。なんだか、不思議な引力があるような気がするんですよね」
人それぞれ、時代それぞれに、自分の「スーパー戦隊」があるのだ。
白倉伸一郎
1965年生まれ、東京都出身。1990年、東映に入社。1991年『鳥人戦隊ジェットマン』にアシスタントプロデューサーとして参加。以後、プロデューサーとしてスーパー戦隊シリーズや『仮面ライダー』シリーズなどの特撮作品を多数、手がける。現在は東映の上席執行役員でキャラクター戦略部を担当