
浅野ゆう子、堺正章
途中5分間のニュースを挟んで、放送時間260分の生放送でお送りした『第42回NHK紅白歌合戦』で、初出場を果たしたのは23組。このなかには、お着物姿で『花咲く旅路』を弾き語りされたサザンオールスターズの紅一点、桑田佳祐さんの奥様、原由子さんもいらっしゃいました。
1部のオープニングは、白組がバブルガム・ブラザーズさんの『WON’T BE LONG』で、紅組は西田ひかるさんの『ときめいて』。そこからSMAPさんの『Can’t Stop!!-LOVING-』、工藤静香さんの『メタモルフォーゼ』、吉田栄作さんの『もしも君じゃなきゃ』、中山美穂さんの『Rosa』と続きます。
中山さんが歌い終えた時刻は、まだ8時前だったと思います。
56組中51番めで、『火の国の女』を歌わせていただくことになっていたわたしは、朝からいまひとつ浮き立たない気持ちに、どんよりとしていました。
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『年忘れにっぽんの歌』(テレビ東京系)、『日本レコード大賞』(TBS系)、そして『紅白歌合戦』の生放送3連発。加えて、『日本レコード大賞』では、まさかの最優秀(……)歌唱賞をいただいてしまいまして。嬉しい。でも恥ずかしい。とても複雑な心持ちです。
さらにです。ぶっとい眉に白いお着物、お花の羽根を背負い、おかっぱのカツラという前年の衣装から一気にトーンダウンして、この年の衣装はブルー地の振り袖に、頭にはプレゼント用のリボンという、『紅白』の舞台なのにちっとも派手じゃない。
トドメが、51番めという歌唱順です。デビュー5年めで、『紅白』に出させていただくのはこれが4度め。
いま思うと、新人に毛の生えたようなこのわたしが、この位置で歌わせていただけるなんてアンビリーバボー、夢のまた夢のような出来事です。
大抜擢してくださったスタッフの皆さんの想いに応えるためにも、思いの丈をすべて歌にこめて、聴いてくださっている、観てくださっている全国の皆さまにお届けしなければいけないところです。
でも、ごめんなさい。当時のわたしに、そんな余裕は1ミリもありませんでした。
やだ、やだ、やだ。えっ!? まだ8時? いやだよぉ〜、早く終わりたいよぉ〜〜。
ただただ、その一心で、これでもかというほど襲ってくる緊張に、ジタバタしながら耐えていました(苦笑)。
何時!? まだ9時か……。あと2時間もあるのか……。もうすぐだよね? えっ、9時14分? あれからまだ14分しかたっていないの!? 嘘でしょう? 遅々(ちち)として時計の針は進みません。ようやく、本当にようやく、10時をまわったころに本番用の衣装に着替え、地下の楽屋から奈落(ならく)に移動して、最後の声出しです。
気がついたら出番が終わっていた……なんていうことがあったらいいのに。そんなことまで考えていました(苦笑)。
誰よりも、自分自身が実力不足を痛感していたとはいえ、不遜です。生意気です。
この年の『紅白』は、穴があったら入りたいほど恥ずかしい思い出でいっぱいです。
さかもとふゆみ
1967 年3月30日生まれ 和歌山県出身『祝い酒』『夜桜お七』『また君に恋してる』『ブッダのように私は死んだ』など幅広いジャンルの代表曲を持つ。現在、最新シングル『浪花魂』が好評発売中!
写真・中村 功、産経新聞
取材&文・工藤 晋