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川平慈英&伊原剛志 還暦越えで“漫才コンビ”を結成「初老の星目指す」“M-1”挑戦も示唆

川平慈英と伊原剛志の漫才コンビ(写真・福田ヨシツグ)
「どーもー! 楽天カード、持ってますか?」
鉄板の“掴み”で爆笑をかっさらい、流暢に漫才を始める2人。ベテラン芸人の風格漂う場慣れぶりだが、じつはお笑い歴“1年未満”の新人コンビだーー。
「なにか面白いことをやりたいねと。コロナ禍をきっかけに始まったんです」
と語るのは、俳優の伊原剛志だ。朝ドラ『ふたりっ子』をはじめ、『花子とアン』、映画『硫黄島からの手紙』など数多くの人気作に出演する超一流の俳優だ。一方、その隣で笑うのは、川平慈英。舞台俳優としてはもちろん、CMやサッカー中継のナビゲーターとしてもマルチに活躍する売れっコだ。
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“本業”で着実にキャリアを重ね続けているこの2人だが、川平が「ジェイ」、伊原が「つよっさん」という個人名義で「なにわシーサー’s」というお笑いコンビを結成したのは2024年のこと。それ以来、“下積み営業”を重ねているという。いったいどういう風の吹き回しなのか。東京・恵比寿のエコー劇場で17日〜27日まで開催される舞台「漫才ミュージカル なにわシーサー’s」のために、稽古に励む2人を取材した。
伊原剛志(以下・つよっさん)「コロナ禍の2021年、舞台でたまたま共演したんですよ。コロナ対策のために、大楽屋をふたりきりで使っていたときに、話が盛り上がったんです」
川平慈英(以下・ジェイ)「もう4年前か。じつはつよっさんとは、デビューしてすぐの舞台で共演して以来、40年来の友人なんです。同じ事務所に所属していたこともあります。友人同士のノリで始まったという形ですかね」
つよっさん「そうだね。今、稽古してる舞台をやろうという話がまず最初にありました。ジェイの知り合いの作家さんに、舞台のためにネタを書いてもらったりと準備を進めていたのですが、どんどん話が盛り上がって、舞台だけでなく、そもそも漫才コンビとして本格的にデビューもしてしまおうという話になったんです」
ジェイ「つよっさんが、『漫才師が映画やドラマでいい演技することはあるけど、逆に役者がマジで芸人としてデビューするっていうのはあんまりない』と言い出したんです。『それは面白い!』と挑戦することになったわけです」
漫才コンビを組む以上、コンビ名が必要になる。
ジェイ「ほかの選択肢はなかったくらい、すぐに決まりました。剛志は大阪出身だから“なにわ”。僕は沖縄出身だから“シーサー”。一発ですよ」
つよっさん「ものの3分くらいだったよな(笑)」
ジェイ「いざ名前も決まったので、ちゃんとデビューして、力をつけよう。そこからが始まりです」
つよっさん「大阪にいる構成作家さんにいろいろと相談をしたり、リサーチしたうえで、僕が“ボケ”で、ジェイが“ツッコミ”がいいということで書いてくれています。そこから稽古しながら、ネタをブラッシュアップしている感じですね」
今年に入ってからは漫才の聖地である「浅草東洋館」の舞台にも上がり、営業も20回以上おこなうなど順調に場数をこなしている。
ジェイ「東洋館に出たきっかけは、僕が元々ナイツさんやおぼん・こぼんさんが好きだったことですね。とくにおぼん・こぼんさんは、僕がデビューしたミュージカルでお世話になった縁があり、覚えててくれたんですよ。
漫才を始めることを相談したら『お前ら、漫才やるなら漫才協会入れ』って勧められました(笑)。でも、いざ東洋館で漫才をやるとなったら、やっぱり怯みましたよ。サッカーで言えば国立競技場に草サッカーチームが、チケット手売りして出るようなもんですからね。でも、つよっさんは積極的。『おぼん・こぼんさんの前、ねづっちさんの後やで』とプレッシャーをかけても、『そんなの関係ないからやろうや』って。実際にやってみたら、やっぱり面白かったです。先輩方の芸を間近で見て、とてつもない勉強にもなりますし。どんな経験もウエルカムです」
実践を繰り返すことで、お笑いの魅力にも気がついたという。
ジェイ「チケット買って見てくれるお客さんのダイレクトな反応は、たまらないですよ。これがお笑い、漫才のカタルシスかって。舞台はセリフが決まってて、美術もセットも決まってて、遊びがない。アドリブは基本NGの世界です。でも、お笑いはそれがないんです。『クーッ!』が出るほど気持ちがいいですよ(笑)」
とはいえもちろん、その高揚感は“スベる”恐怖と表裏一体だ。
ジェイ「ウケなかったときは本当にへこみますよ」
つよっさん「1回だけじゃないですよ。もう何度もスベりました。でも僕らは元々、舞台にずっと立ってきたので、普通の新人の漫才師コンビとは経験値が違うと思っています。作家さんからも、上達の速度がすごく早いと、褒められているんですよ。それでも、寄席に来た僕ら目当てじゃないお客さんを笑かすのは大変ですね」
ジェイ「東洋館では、袖でほかの漫才師の方を見て勉強するんですが、世間では名前もあまり知られていない若いコンビが、爆笑をかっさらうんですよ。客のおじいちゃん、おばあちゃんたちがゲラゲラ笑っているんです。でもそんなに面白いのに、彼らはお笑いの世界ではトップじゃない。そうなると、今のお笑いのトップの人たちって、とんでもない化け物じゃないかって、初めて思い知りました。奥が深い世界ですよ」
お笑いの仕事は、自ら営業をかけて取ってきているという。
ジェイ「数十人の小さな規模の営業もガンガンやっています。あと、つよっさんが持ってきた営業で、600人くらいのクリスマスチャリティーコンサートは痺れましたね。子供たちのバレエを見にきたお客さんたちの前に、『どうもー!』って出ていくんですから(笑)。意外とウケました。後は友達の演劇の前座とかね。米問屋の創業100周年記念パーティーで漫才をしたこともありますよ。ギャラは、もちろんおコメ。ありがたかったですね(笑)」
そんな2人が参考にする漫才師は、やはり“年相応”だ。
ジェイ「やっぱり、昭和の伝説の漫才師を見ちゃいますよね。やすしきよしさん、オール阪神巨人さん。実際に漫才を始めてから見ると、この人たち、化け物だなって、すごさがわかるようになりました」
つよっさん「やっぱり面白い人、売れてる人って、それぞれキャラがハッキリしてると思うんですよ。コンビの色分けというかね。オール阪神巨人さんは、本当にすごいです」
ジェイ「改めて見ると、巨人さんもすごいけど、阪神さんの“受け”のすごさに気がつきました。これは天才的だなと。目からうろこですよ」
今後の夢も大きい。なんと漫才師の頂点『M-1』への出場まで考えているという。
ジェイ「まずは今度の舞台を成功させることですね。舞台のストーリーは、ある漫才コンビのサクセスストーリーなんです。横山やすし・きよしさんを彷彿とさせるような内容です。2人が出会って、生き様を追って、葛藤があって……さあ、最後はどうなるのか、みたいな。それを歌とダンスと笑いで見せるんです。できれば、『なにわシーサー’sムービー』まで行きたいですね(笑)。ネトフリ、アマプラ……夢は広がります。冠番組もやってみたいなあ」
つよっさん「僕らも芸能界で長くやってきて、いろんな修羅場もくぐりぬけてきました。今あえて漫才をやるのは、おカネを儲けたいということでなく、やっぱり“楽しいことをしたい”という気持ちですね。『M-1』出場ですか? スケジュールさえ合えば何とか出たいです」
ジェイ「そうですね。どうせチャレンジするなら夢は大きく持ちたいですし、そうじゃなきゃ楽しくないし」
若すぎる見た目のせいで忘れがちだが、ふたりとも還暦を超えた大ベテランだ。
ジェイ「膝も腰も悪い、ポンコツですよ。僕ら“新人初老漫才コンビ”ですからね」
つよっさん「でも、あえて初老とは言わないようにしてるんですよ。言霊じゃないけど、老いを認めることは“逃げ”にもなりますから。『ジジイだから、こういうことやってもOKだよね』みたいなことを言い出すと、出演する舞台や映像作品でも、妥協が始まると思っているんです。だから、僕は自分のことをジジイとか年寄りとかあえて思わないようにしています。年齢を聞かれれば、そりゃ60過ぎているんですが……。俺、太ってるからええねん、とかも逃げになるでしょ。僕はね、そういうことを言わないっていうのが、年取ってから大事なことだと思っていますね」
ジェイ「僕はむしろ素敵なジジイになりたいですよ(笑)。いつまでもやんちゃな、スティーブ・マーティンとか、ロビン・ウィリアムズみたいなジジイになりたい。もうちょっとで前期高齢者ですが、逆にそれを楽しみたい。
ほかの仕事も当然あるので、今後漫才だけをできるわけではありません。でも、合間を縫ってやり続けたいですね。若い人に、60過ぎたオッサンたちなのに、なんかキラキラしてるって見せつけたいですし、同世代にはまだまだ初老も捨てたもんじゃないって感じてほしいです。つよっさんがよく言うんですけど、今後は体が動かなくなる一方なんだから、逆に言えば、僕らは今が一番動ける時期。なにわシーサー’sは常に“今が旬”ですから。旬を見に来てほしいですね。あとはコンディションとの戦いです」
つよっさん「コンディションはほんとに大事。よくストレッチをやるようにしてますね。あとは無理をしないこと(笑)。気持ちはあっても、体がついてこないからね」
ジェイ「もう、僕は毎日サウナですよ。今日も入ってきましたからね。サウナの中でストレッチもしています。常連さんに不思議そうな顔で見られるのですが、そこでテレビから『楽天カードマン!』って流れたんです。すかさず、みなさんに『これ、僕です。よろしく』って挨拶。笑いを狙ってます」
プライベートでも完全に“芸人モード”というわけだ。このまま“初老の星”になってほしい!