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『あんぱん』視聴者がざわつく演技で注目!「松嶋菜々子は現代の“犬神松子”になるべきだ」【ペリー荻野のドラマ評】

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記事投稿日:2025.08.16 06:00 最終更新日:2025.08.16 07:34
出典元: SmartFLASH
著者: ペリー荻野
『あんぱん』視聴者がざわつく演技で注目!「松嶋菜々子は現代の“犬神松子”になるべきだ」【ペリー荻野のドラマ評】

NHK連続テレビ小説『あんぱん』での演技が話題の松嶋菜々子

 

 NHK連続テレビ小説『あんぱん』に出てくるたびに、ほんわかしたドラマをざわつかせる登美子(松嶋菜々子)。

 

 登美子は、気弱な息子・柳井嵩(北村拓海)が漫画家になりたいと知ると、「マンガなんて」とぴしゃりと反対。その後、長年の思いをかなえて、のぶ(今田美桜)と結婚した東京の新居を、のぶの祖母や母、妹たちが訪れ、祝いをしている最中、窓の隙間から顔をのぞかせ、「やっかいものの母でございます」と登場する。

 

 戦前、戦後、時代の激動のなかでも、つねに髪を整え、華やかな着物に毛皮までまとった登美子は強き母だ。3度めに結婚した亡夫が遺した広い屋敷暮らしが板についている。その姿を見ていて、確信した。

 

 松嶋菜々子は、「犬神松子」になるべきだ。

 

 犬神松子は、横溝正史の小説『犬神家の一族』の登場人物である。

 

 

 終戦からまもない信州・那須湖畔を舞台に、一代で大財閥を築いた犬神佐兵衛の死去をきっかけに、その莫大な遺産をめぐる謎の連続殺人を、名探偵・金田一耕助が追うという作家の代表作。これまでたびたび映像化された作品は、それぞれ設定が異なることもあるが、おもな流れはこうだ。

 

 金田一は、犬神家顧問弁護士・古館の助手である若林から犬神家について調査依頼を受けるが、若林は毒殺されてしまう。古館弁護士からあらためて依頼の継続を頼まれた金田一は、佐兵衛は正妻を持たず、それぞれ別の3人の女性との間にできた松子、竹子、梅子という娘があり、それぞれに佐清(すけきよ)、佐武(すけたけ)、佐智(すけとも)という息子があると知る。そこに、戦争で顔に傷を負い、白いゴム仮面をかぶった松子の息子・助清が復員。犬神家に暮らす野々宮珠世が、佐兵衛の3人の孫から配偶者を選ぶことを、犬神家資産の相続の条件とするという佐兵衛の奇妙な遺言により、一族の憎しみが噴出、またしても恐ろしい殺人事件が……。

 

 犬神家の家宝「斧(よき)、琴(こと)、菊(きく)」になぞられえて、菊人形の首が生首に挿げ替えられていたり、死体の首に琴糸が巻きつけられていたり、湖からにょっきりと白い足が突き出ていたりと、一度見たら忘れられない「見立て殺人」シーンの連続だが、そんななかでも、松子は眉毛ひとつ動かさない。一族を統率するような存在だ。きりりとした美貌だが、肉親から愛情を注がれたことはなく、いつも冷たい顔をしている。富豪の娘らしく、地味ながら高価な着物を着こなす。風船のごとくふくらんだ大型の髪型のインパクトはすごい。

 

 これまで「犬神松子」は、日本を代表する名女優が演じてきた。

 

 1976年、市川崑監督・石坂浩二主演の角川映画『犬神家の一族』では、戦前から歌う映画スターとして活躍した高峰三枝子が、誇り高き松子となって大ヒットを記録。

 

 翌年のテレビドラマ『横溝正史シリーズ』では、黒澤明監督『羅生門』などで知られる京マチ子が登場。このキャスティングについては、映画に匹敵するスターをと、当初、出演を渋る京をスタッフ総出で口説いたという逸話が残る。その第1話。松子はドラマが半分以上過ぎてから、黒塗りの車で堂々の初登場。頭巾をかぶった佐清が、本物かと聞かれると「無礼じゃありませんか!」の一声で、一族や金田一を震え上がらせる。金田一を演じたのは古谷一行、監督は工藤栄一。犬神家の屋敷は、犬神柄のすりガラスを入れた戸や、黒板に彼岸花を描いた板戸を特注するなど、かなり予算オーバーしたというが、高視聴率を記録している。

 

 その後も、映画では富司純子、ドラマでは岡田茉莉子、栗原小巻、三田佳子、黒木瞳らが松子に。直近では、2023年のNHK版で、大竹しのぶが演じている。異母妹の竹子(南果歩)、梅子(堀内敬子)らを「おだまりっ!!」「(佐清は)本来なら殿様ですよ。恥を知りなさい!!」と一喝してました……。

 

 思えば、映画やドラマ、舞台で『忠臣蔵』の赤穂浪士を率いる大石内蔵助を演じることになった俳優は「目標としていた」「俳優としてあこがれの役だった」と語るのが常だった。1985年に内蔵助を演じた里見浩太朗は、「自分が内蔵助に適した年齢になったとき、『忠臣蔵』作品の企画があり、オファーをいただけるというのは、俳優にとって奇跡のような喜び」と語っている。なかには萬屋錦之介のように、若いころ、若手二枚目俳優のあこがれともいえる浅野内匠頭を演じ、約20年後にドラマで大人の貫禄たっぷりの内蔵助を演じた俳優もいる。

 

 名だたる女優が演じている犬神松子も、こうした大役のひとつと言っていい。

 

 松嶋菜々子は1996年、NHK朝ドラ『ひまわり』に主演した後、2002年のNHK大河ドラマ『利家とまつ~加賀百万石物語』に唐沢寿明とともに主演。朝ドラ、大河両方で主役を務めた初の俳優となった。横溝原作では、野々宮珠世は「この物語の主人公」「絶世の美人」と書かれている。2006年の映画版『犬神家の一族』で珠世を演じた彼女が、松子になる。これは『犬神家』シリーズにおける内匠頭→内蔵助パターンではないか。迫力満点になるのは、間違いない。そうなると誰が佐清に……。

 

 2026年は、市川崑版『犬神家の一族』公開50周年でもある。松子への野望(と言ってるのは、このコラムだけですが)、ぜひとも実現していただきたい。

 

※敬称略

 

取材・文/ペリー荻野

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