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『19番目のカルテ』たった3分しかしゃべらない松本潤「引き算の演技」でドラマのクオリティを底上げ

松本潤
マツジュン、主役なのに出番もセリフも少なくない? けれど、それでも成立するのが、このドラマとマツジュンの演技のすごさなのかもしれない。
8月24日(日)に第6話が放送された嵐・松本潤主演の日曜劇場『19番目のカルテ』(TBS系)。
正直、この回の松本の出演シーンは少なめでセリフも多くはなかった。筆者が確認したところ、CMなどをのぞいて46分ある第6話本編のうち、松本演じる主人公がしゃべっていたのは、ぎゅっと凝縮すると3分半にも満たなかった。
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■準主役・小芝風花の成長にスポットが当たる
松本演じる主人公は、ある総合病院に新設された「総合診療科」の医師・徳重晃。
日本の医療業界は高度に発展しており、脳外科、眼科、整形外科など18の専門分野に分けられているが、複雑な症状でどの診療科に受診すればいいかわからない患者がいたり、各科をたらいまわしにされてしまう患者がいたりと、課題も多かったそう。
そんな問題を解決するために誕生したのが、19番目の新領域として加わった総合診療科。臓器、性別、年齢にかかわらず患者を受け入れ、徳重たちが時間をかけて丁寧に向き合う問診によって、病名や治療法を見つけ出していくというストーリーだ。
第6話は、準主役である小芝風花が演じるキャラの成長にスポットが当てられた。
小芝演じる滝野みずきは、人一倍正義感が強く、まっすぐな性格で曲がったことや不誠実なことが嫌いなタイプ。「患者さんひとりひとりに真摯に向き合いたい」という志を持っていたため、徳重と出会って感銘を受け、整形外科から総合診療科へ転科してきた人物だ。
第6話では、肺がんステージIVと診断され、在宅ケアを望む患者の訪問診療を滝野が受け持つことに。彼女は初めて終末期医療の患者を担当することになり、静かに人生の終わりを受け入れている老人(石橋蓮司)の、「かっこよく死にたい」という希望を叶えるために尽力する。
■脇役の藤井隆や今野浩喜の演技も最高だった
いわゆる “滝野回” のため、小芝風花の出演シーンやセリフがいちばん多く、また終末期医療の患者と家族のシーンも多かったため、松本潤の出番は少なめ。
訪問診療は滝野1人で行くことが何度もあったため、当然そのシーンで徳重は映らない。徳重が訪問に同行しても、患者を診るのは滝野なので、徳重のセリフがほぼないシーンもちらほら。なかには、徳重もその場にいるのに、ほぼ “地蔵” のように座っているだけのシーンもあった。
ただ、松本演じる主人公の出番やセリフが少なかったぶん、小芝演じる準主役の葛藤、そして成長を丁寧に描くことができ、涙を誘う良質なエピソードになっていたと思う。
個人的には、医療ソーシャルワーカー役で出演している藤井隆が、死期が近づく患者を元気づけるため、ディスコ風の曲を流して「さぁみなさん! レッツ・ダンス!」とキメ顔を見せるシーンに思わず笑ってしまった。切ないエピソードのなかの一笑いとして最高だ。
また、第6話は、患者の息子役で元キングオブコメディの今野浩喜がゲスト出演。終盤、父が亡くなりほかの家族たちが号泣するなか、息子の彼だけが気丈に振る舞い、滝野に「ありがとうございました」と頭を下げる姿に、グッときて涙腺が刺激された。
■一歩後ろに下がり、物語全体を後列から見守る
こんなふうに、準主役やバイプレイヤーたちの演技が光っていたのだが、それを支え、引き出していたのが松本潤の演技だったのだろう。
この回の松本演じる徳重は、その場にいてもセリフが少ないという場面が何度もあったが、滝野に向ける視線だけでなにかを伝えようとするなど、言葉は発しなくても表情で視聴者を引き込み、主人公の存在感をしっかりと保っていた。
また、松本のわずかなセリフで小芝の泣きの演技にグッと引き込むシーンもあった。
死期が近づく患者のためにできることは全部やっていこうとする滝野に、徳重が「滝野先生……つらいね」と一言語りかける。すると、滝野が堰を切ったように胸に秘めていた悲しみを吐露していくのだが、「つらいね」のセリフはワントーン下げられており、松本の声色が絶妙だったのだ。
第6話の主人公・徳重は前に出ず、むしろ自ら一歩後ろに下がって、物語全体を後列から見守りながら支えるというイメージだ。徳重が静かに見守るスタンスだったからこそ、滝野やそのほかのキャラクターが引き立っていたのである。
マツジュンの “陰なる演技” とでも言おうか、無言ながら表情で魅せたり、短いセリフにもこだわっていたりする引き算の演技によって、このエピソードのクオリティが底上げされたように思う。だから、やっぱり『19番目のカルテ』は “マツジュンのドラマ” なのだ。
今夜放送の第7話は「最終章」と銘打たれているため、第8話が最終話になるのだろう。放送回数も短めだが、それでも濃度の高い作品になっている。ラストまで見逃せない。