歌手の浜崎あゆみが底力を見せてくれた。
あゆは5月6日、東京・代々木公園の野外ステージで行われた、日本最大級のLGBT関連イベント「東京レインボープライド2018」の最終日でトリを飾った。なんと、自身初のフリー(無料)ライブである。
ライブ開始は17時。連休最終日の日曜日とあって、会場の外にもぎっしりファンが詰めかけた。スタッフが「押さないでください」と必死に呼びかける声もかき消されるほど、異様な盛り上がりをみせた。
時計は17時を過ぎ、10分経てど、20分経てど、ステージが始まる様子はまったくない。だが、その間ずっと「あっゆ、あっゆ、あっゆ」とあゆコールは途切れることがない。
ついに、17時25分、あゆコールも最高潮に達したとき、オープニング曲が始まり、空気が揺れた。
「ウオォー」
大歓声のなか、あゆは男性ダンサーに持ち上げられ、仰向けの状態で登場した。
3曲を歌い上げたところで、あゆは「お待たせしました、こんばんは。楽しんでくれていますか?」と会場に呼び掛けると、「あゆー」「あっゆ、あっゆ、」と再びあゆコールが始まった。
それを楽しむかのように聞き、一呼吸を入れてから一気に話し始めた。
「めっちゃ慣れないというか、あんまりこういう機会もないので、こうしてお誘いいただいたことがとても光栄なんですけど、ここにはたくさんの仲間たちもいるし、知り合いの姉さんたちもいます」
客席前方に陣取った顔見知りに合図を送って、あゆは続ける。
「デビューしたての頃、20年くらい前に生きるのが辛くなって、どうしたらいいのかなと思って初めて行ったのが新宿二丁目で。
それ以来、自分のホームのような気がして、二丁目に帰ったらお母さんたちが待っとってくれて『今日は飲んどき』って言ってくれて……。
嬉しいとき、喜怒哀楽すべてを二丁目の仲間たちと過ごしてきたからこそ、今の私があると思っています」
あゆコールでいっぱいだった会場が、しんと静まり返っている。あゆの話す言葉に誰もが聞き入っている。そして、イベントの主旨であるLGBTについて、こう話す。
「日本はまだまだコンサバティブ(保守的)ですから、マイノリティ(少数派)が間違い、社会的弱者というイメージが拭えないという部分はあります。
でも、マジョリテイ(多数派)が勝ち組で正しいということはないと私は思っています。
これから先も、生きるのに肩身が狭くなったり諦めたりする瞬間があると思いますが、この日のことを思い出してください。
ずっとずっと自分に誇りを持って進み続けていってほしいと思います。私もマイノリティのひとりとして、みなさんと一緒にこれからも一緒に歩ませていただきたいと思っています」
あゆの声は、静まり返る会場の隅々まで届いた。観客も、マスコミも、その言葉を聞いた。あゆは最後に「これ以上しゃべると泣いてしまうけん」と博多弁で言葉を締めて、ステージ曲に戻った。
日本の芸能人はなかなか社会問題を口にしない。それは、自身の仕事に影響が及ぶことが多いからだ。女性はなおさら。「お前が言うな」みたいな風潮があり、ネットで炎上し、仕事の範囲を狭めてしまうこともある。
あゆは、影響力のある歌手だ。これまでも、何か発言すると騒がれてきた。しかし、このLGBT発言は、あゆだからこそ発言できるのだろう。あゆの言葉だからこそ受け入れられるのだろう。
この日集まった人たちにとって、あゆの応援は大きな支え、大きな力になったんだろうと感じさせた。あゆの影響力を改めて見せつけられたステージだった。(写真・文/芸能レポーター川内天子)