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紅白で生き残った「聖子とひろみ」のアイドル性を社会学者が見る

エンタメ・アイドル 投稿日:2018.12.31 12:00FLASH編集部

紅白で生き残った「聖子とひろみ」のアイドル性を社会学者が見る

 

 今年、松田聖子は「SEIKO DREAM MEDLEY 2018」と題し、『風立ちぬ』『渚のバルコニー』など1980年代の懐かしいヒット曲をメドレーで歌う。紅白では意外なことにこのパターンでの出演はなく、本番さながらのリハーサルだった12月30日の曲前MCでは、本人も記憶にないようなことを言っていた。

 

 この場面、ドンピシャの世代である総合司会のウッチャンの興奮ぶりが面白かった。当時の松田聖子がいかにすごかったかを語り、歌が終わると「聖子~」と野太い声で親衛隊のように叫んでいた。客席で見ていた同じ世代の私も、こころのなかで同じように叫んだことは言うまでもない。きっと今回の松田聖子は、そんな世代にとってうれしいプレゼントになるはずだ。

 

 

 ところでそんな往年のヒット曲を歌う彼女の姿を見て、ふと私は1984年の紅白を思い出した。鈴木健二と森光子が司会で、都はるみの引退ステージがあるなど紅白の歴史でも名場面の多い回である。

 

 そのひとつに、「うわさのカップル対決」がある。当時世間の話題を独占していたカップルだった中森明菜と近藤真彦、そして松田聖子と郷ひろみの2組が紅白で対戦したのである。しかも歌の対決では終わらず、それぞれのカップルが歌の後にペアでダンスをする演出まであった。最近の紅白は絶対にそんなことはしないだろうが、当時はまるでワイドショーのような演出を堂々とやっていたのである。

 

 印象的だったのは、その対決後にインタビューを受けたときの郷ひろみである。
 確か今年1年で得たものは? というような質問だった。インタビューする側としては当然、松田聖子のことを意識した答えが返ってくるのを期待する。でも郷ひろみはそんなこともお構いなく、本当にその年に得たものをごくごく真面目に振り返ったのである。

 

 だが、そのすがすがしいまでのずれ加減に、変な緊張感があったその場の雰囲気が逆になごんだのを、テレビの前で見ていた私は覚えている。

 

 生真面目であるがゆえにどこかずれてしまう。きっとそれが郷ひろみの愛される理由に違いない。

 

 その恐ろしいほどの生真面目ぶりは、それから34年経ったいまも変わっていなかった。郷ひろみのリハーサルは音合わせから始まったのだが、何度も発声練習を繰り返し、おそらくかなり年下のスタッフとの打ち合わせにも「ハイッ!」「ハイッ!」とこちらがびっくりするほどのはきはきした大きな声で返事をしていた。

 

 一方、生真面目さゆえのずれ加減も健在だった。
 今回、郷の歌う『GOLDFINGER’99~GO!GO!2018~』 は今年1年のスポーツ名場面を振り返る企画。サッカーワールドカップの代表選手の物真似軍団などが歌のなかで共演する。

 

 その感想を聞かれれば「とてもよく似ていた」とか「面白くて笑ってしまいそうだった」とか答えるのがおそらく普通のパターンだろう。しかし郷は、「僕が見てるよりも周りが見てる方のほうが楽しいのでは」と答えていた。自分はパフォーマンスをちゃんと見せるのに精いっぱいでそれどころではない。そんな感じがいかにも彼らしかった。

 

 また、箱根駅伝で5連覇を狙う青山学院大学の原監督が、今回歌う『GOLDFINGER’99』に引っ掛けて掲げた「ゴーゴー大作戦」について、聞かれているわけでもないのに自分から何度も熱く語っていた。それもまたちょっとずれてはいるのだが、律義さも感じて微笑ましくもあった。

 

 しかし、バラエティ要素たっぷりの企画にここまでハマるのは、今回の出場歌手をざっと見渡しても郷ひろみ以外にはいないだろう。本人はいたって真面目だが、周りからすると面白いちょっと “天然” な部分は、実はエンターテイナーとして武器であり、もはや才能と言ってもいい。

 

 考えてみれば、過去には「うわさのカップル」だった2人が、かつて一世を風靡したアイドル歌手のなかでほとんど唯一の紅白生き残り組になっているのは感慨深い。しかも2人とも、いまだに “アイドル” をやっている。これはすごいことだ。今年は西城秀樹が亡くなるなどかつてのアイドルファンには寂しい出来事もあった。そのなかで松田聖子と郷ひろみの健在ぶりを確認できる紅白はやはり貴重だ。

 

(取材・文/太田省一)

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