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小籔千豊「僕がなってから座長の品格は確実に落ちた(笑)」

エンタメ・アイドルFLASH編集部
記事投稿日:2019.05.08 11:00 最終更新日:2019.05.08 11:00

小籔千豊「僕がなってから座長の品格は確実に落ちた(笑)」

 

「新喜劇にまったく興味がなかった」少年は、「新喜劇のために」と繰り返す座長になった。何が小籔千豊を変え、何に突き動かされているのか。嫌われても憎まれても、吉本新喜劇のために。

 

 

――漫才コンビを解散された2001年に新喜劇に入団しましたが、最初の印象はいかがでしたか?

 ぜんぜん違うものでしたね。海外に挑戦した野球選手が「海の向こうには “野球” ではなく “ベースボール” があった」と言うのと同じように、NGK(なんばグランド花月)の3階ロビーの向こう側には、漫才とはまったく違うお笑いがありました。

 

 漫才師のころにも、「コメディ」という若手中心の新喜劇っぽい舞台をやってたんですが、作家さんが書いてきた台本を適当にやらされてるから、なんの戦術もなくてみんなバラバラなんです。

 

 サッカーで言うたら、ドリブルうまいブラジル人を集めて好きにやらせてるような感じだったので、台本の流れが感覚でわかるヤツもいれば、自分のギャグで勝手にフリーキックのようなゴール決めるヤツがいたり、もちろんめっちゃスベるヤツもいたりして。

 

 でも、新喜劇では、座長がこの方向で行くって作戦をちゃんと立てるんです。途中で好き勝手にやることはなくて、点を取るために左を走ってディフェンダーを引きつけておく、みたいな細かいテクニックがたくさんありました。

 

 それを知って、昔のウケてた理由やスベってた理由もすごくわかるようになった。ほんまに、ブラジルサッカーとヨーロッパサッカーくらいの差がありました。

 

 漫才師って、個の力がないと売れないじゃないですか。でも正直、新喜劇にはNSC(養成所)のエリートはいないし、マドンナもおもろい人たちかといったらそうではない。

 

 でも、組織で戦ってるから、個の能力はそんなに求められてなくて、むしろ「死ぬこと」が称賛されたりもするんです。

 

 漫才師のときはボケられるタイミングでスルーしたら、「お前ボケんでええんか?」となるんですけど、新喜劇では次にボケる人がおるから、ここはあえてパスをすることも大事なんやって言われてびっくりしましたね。

 

 ウケるためにみんながひとつになるというのは、漫才師時代になかった考え方でした。

 

――その違いに対する戸惑いはなかったのでしょうか?

 内場(勝則)さんが「新喜劇は劇場でやってるから、1列目でも、2階の一番奥でも、来た客を全員笑かさなあかんねん」とおっしゃったんです。特に若手の漫才師なんかは、自分たちのセンスがわかるヤツにだけ届けばいいみたいなところあるじゃないですか。

 

 そういう人が多いなかで内場さんの言葉を聞いて、「この人はそんな覚悟でやってるのか」とおどろきました。それまでカッコいいと思ってたこととは真逆やったけど、その考えには大きく影響されました。

 

――小籔さんご自身も、小さいころからずっと新喜劇を観て育ってきたのでしょうか。

 僕は小学生のときに新喜劇を観るのをやめてるんですよ。お笑いオタクやったんで、「お前ら新喜劇なんかで笑ってんのか?」みたいなタイプで(笑)。中学生になったら部活で土曜日はおれへんかったし、高校時代は遊んでたし、20歳超えたら土曜の昼なんて寝てますから。

 

 漫才師になってからもNGKの自分らの出番のあとは、トリの大御所漫才師さんを観たらすぐに出てたんで、新喜劇をソデで観たことはなかった。まったく興味がなかったんです。
 

――興味のなかった人が、なぜ新喜劇に入ろうと思ったんですか。

 コンビを解散して、この世界をやめようと思ってたんですけど、まわりのみんなに引き止めてもらったんです。こんなええ人らに囲まれて仕事をしていきたいなと思ったけど、そのタイミングで結婚もしたので、カタイ仕事がしたかった。

 

 そんなときに、新喜劇はトシがいってもごはんが食べていけそうな公務員的なところに見えたんです。でも、僕はNSCを出たての子たちと同列の扱いで入ったので、ポジションはないしギャラもすごく少なくて、居心地が悪かった。

 

 ホンマにセリフがひとこともなく、たこ焼きをもらってハケるだけとかあったんですよ。

 

 これを何回続けたら、俺のことおもろいって思ってもらえるんやって思って、ホンマ真っ暗闇の中におる感じがありましたね。もともと、嫁はんには「1年だけ新喜劇に行ってええか? それで結果が出なかったらやめる」と言ってたんです。

 

 僕のなかではリミットが決まってたから、すごく焦ってるんですよ。

 

 でも、新喜劇には島木(譲二)さんもゆみねぇ(末成由美)も竜爺(井上竜夫)もおるし、内場さん、安尾(信乃助)さん、川畑(泰史)さんっていうイケてる中堅もおって、このスター選手たちの中で、レギュラーとれんのか? ってずっと思ってました。

 

――はじめから座長を目指していたわけではないんですね。

 まだみんな売れてないころにレイザーラモンと(なかやま)きんに君と僕で、お茶をしながら仕事や将来のアツい話をしてたんですけど、僕は「将来子どもができてその子を大学に行かせられて、じゅうぶんな医療を与えられて、そして孫ができたときに、お年玉に1万円渡せたらそれがゴールや」って言ってたんですよ。

 

 そしたら、「夢ちっさいっすよ。座長を目指しましょう!」って言われて。僕は「そんなん100年早いわ!」って言いましたし、むしろ(座長には)なりたくないくらいに思ってましたね。

 

――座長はそんなにも遠い存在だったんですね。

 僕が入ったころは、メチャクチャ偉かったんですよ。座長は雲の上のもう一個上くらいの存在で、こんな28歳から入ったヤツがそんなものになれるわけがないと思ってました。

 

 当時、たまに「たこしげ」(関西芸人御用達の居酒屋)に行くと、漫才師の先輩が僕に「お、未来の座長」とか「お前は絶対に座長になれるからがんばれ」とか言ってくれてたんですけど、僕は口では謙遜しながら、心の中で「この人らは新喜劇の実情を知らんから簡単に言うけど、絶対に無理や」と思ってました。

 

 ただ、そうやっていい言葉をたくさんかけてもらったから、言霊になってくれたのかもしれないですね。まあ、僕がなってから、座長の品格は確実に落ちていった気がするんですけど(笑)。

 

(吉本新喜劇60周年公式スペシャルブック)

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