三谷は梶原を「今度、舞台やるんだけどやってみる?」と軽い調子で誘った。
「正直、舞台にはあまり興味がなかったんですが、『人前に立てるならいいかな』と。それにしても、三谷さんは何を考えていたんでしょうね。岡山から出てきたばかりのズブの素人をいきなり使おうなんて、無責任すぎますよ(笑)」
こうして1985年、三谷幸喜作・演出の『くたばれサンダース』に出演する。これが19歳での初舞台となった。
「取引先の会社を野球で接待する話で、僕が演じたのは、気の小さいサラリーマン。最初からいじられ役でした(笑)。
このときの演技はひどかった。だって、僕のイントネーションは全部、岡山弁なんです。岡山弁って、語尾が上がるんですよ。『何しよんなら~』って。標準語でも『何してんだよ~』ってなっちゃって……」
以来10年間、東京サンシャインボーイズに在籍し、1994年に劇団が充電期間に入ったあとも、三谷作品の常連に。
「三谷さんにはいつも、『とにかく出た瞬間に、何かおもしろいことをやれ』と言われていました。大声を出したり歌ったり、僕の演技が過剰だと言われるのは、そのせいかもしれません。
三谷さんは怒ると怖いんですよ。怒鳴るんじゃなくて、ボソリと責めてくるから、逃げ場がない。でも、うまくいかないときは夜中に電話をかけてきて、『善はできるはずだ』と言ってくれるんです」
子供のころから、テレビを観ても「主役より脇役に目がいった」という梶原。「名脇役」とも評される梶原自身は、どんな俳優を目指すのか。
「正直、『深夜ドラマで、主役とかやらせてもらえるといいなあ』なんて思うこともあります(笑)。
でも、たぶん僕は、何も考えていないんです。これまでも行きあたりばったりで人に助けられてきましたから。大事なのは人とのつながり。やっぱりそれに尽きるんじゃないでしょうか」
俳優デビューしてから34年。53歳になった。
「年も年なので、糖分を控えようとはしているんですが、どうしても甘いものが欲しいときってあるじゃないですか。そんなとき、『わかば』のあんこがあれば幸せになれるんです。7歳の息子は、たい焼きよりもカステラが好きなようですけど(笑)」
心に染みついている、思い出の味だ。
かじはらぜん
1966年2月25日生まれ 岡山県出身 東京サンシャインボーイズを経て、幅広く活躍。2019年は映画『マスカレード・ホテル』(鈴木雅之監督)、『記憶にございません!』(三谷幸喜監督)などに出演
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※10月18日より11月4日まで、東京・俳優座劇場にて『~崩壊シリーズ~「派」』(作/演出・オークラ)に出演
(週刊FLASH 2019年9月24日号)