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角野卓造、居酒屋で人生を語る「最後は全部 “正解” と思いたい」

エンタメ・アイドル 投稿日:2019.12.01 20:00FLASH編集部

角野卓造、居酒屋で人生を語る「最後は全部 “正解” と思いたい」

 

「タタキを醤油で。軟骨を2本……いや、子袋もかな。両方ともタレで。あとは、最後に煮込みを」

 

 カウンターの定席に腰かけると、慣れた口調で頼んだ。

 

「最初に決めておくのは1、2品。あとは、出されたものをいただきながら、次に何を注文するか考えます。そうやって自分だけのコースを組み立てていくのが楽しいんです」

 

 

 東京・江東区森下。個性的な居酒屋が点在する下町だ。創業90年を超える「山利喜」に角野卓造(71)が通いはじめて、もう40年近くになる。

 

「注文した料理が売り切れていたら嫌だから、いつも開店10分前には来て、開くのを待つんです。

 

 昔、この近くに芝居の稽古場がありましてね。稽古の帰り、何人かで『山利喜』へ通うのが、なにより楽しみでした。結局、芝居の話になってしまうんですが、当時はそれが嬉しくてしょうがなかった。

 

 でも、いまは飲みに行くなら絶対、ひとり。好きなように飲みたいし、しっかり味わいたいから。だいたい、人としゃべりながら食べても、せっかくの料理の味がわからないじゃないですか」

 

 酎ハイのグラスがカウンターに置かれると、待ちきれないように唇を近づけた。

 

「この店ではビールじゃなく、最初から酎ハイです。ここのは通好みのキンミヤ焼酎で、炭酸が相当効いているんです。いつも3杯ぐらいはいきますね。

 

 この、まぐろと分葱のヌタもいいな。こういう和風のつまみなら日本酒を『ぬる燗』でいただくのもいいのですが、今日は酎ハイで通すかな。

 

 いい店の条件……。やっぱり『人』だと思います。ここは若い人がきびきびと働いていて、何か頼むと『はいっ』と動く。見た目は髪を染めてたりするんだけど(笑)、働く喜びを感じているようで、気持ちがいいんです。大将の教育がいいんでしょうね」

 

 角野といえば、ドラマ『渡る世間は鬼ばかり』(TBS系)での中華料理店「幸楽」店主の小島勇役が、代表作。

 

「もう30年近く演っているから、世間の人は、私を役どおりの、妻と姑に挟まれた “お人好しの男” と思っているかもしれません。でも、実際の私はそうじゃない。

 

 群れるのも、媚びるのも好きじゃありません。あんまり胸を張って言うことじゃないが、好き勝手にワガママに生きてきました。その結果が今の私です」

 

「お待たせしました」

 

 料理が次々と運ばれてくる。

 

「これは軟骨のタタキ。すぐなくなっちゃうから、まず、これを頼みます。塩もタレもありますが、私は醤油。これは軟骨と子袋。このタレがなんともいえない。からしをちょっとつけてね。飲むときは、何も考えませんよ。次に何を頼むか、それだけ。人生を振り返ったり? しません、しません(笑)。

 

 人生は “あみだくじ” みたいなもの。あちこち曲がって、今ここにいるんです。辿っていけば、そりゃ、いろんなことがありましたよ。でも、最後は全部『正解』だったと思いたいじゃないですか」

 

アングラ演劇にのめり込んだ大学生の頃

 

「正解」と簡単には言い難い苦い思い出もある。

 

役者になって間もないころ、学生時代から7年間つき合っていた女性に振られました。『話がある』というので会ったら『子供ができた。貴方の子じゃない』と。『金色夜叉』じゃないけど、『来年の今月今夜のこの月を僕の涙で曇らせてやる』と思いました。今に見ていろと。

 

 でも、この経験は人生のバネになりましたね。もし、その人と一緒になっていたら、安定を求めて堅実な人生を送り、今の自分はなかったかもしれない。ということは、その彼女も僕の『恩人』なんですよ」

 

 そう達観できるようになったのは、最近のことだ。

 

「60歳を過ぎたころ、舞台の上で『虚血性脳貧血』になったんです。しかも3回。一瞬記憶が飛んでしまうのです。自分がどこを演じているのか、どの台詞を言わなきゃいけないのか、パーッと消えちゃう。

 

 医者は一過性だと言ってくれましたが、人に迷惑をかけたり、不安を抱えながら舞台をやるのは嫌だから、70歳で、舞台の活動はひと区切りつけることにしたんです」

 

 それでも、役者人生はまだまだ続いていく。

 

「本当は早く隠居したい気もありますが、まだ『角野を(起用したい)』と言ってくださる方々がいらっしゃるならば、お応えしたい気持ちもありますから。

 

 趣味もそうですが、好きなことに年齢は関係ありません。僕の部屋にはBDレコーダーが6台あって、映画、音楽番組、旅やグルメ番組と、ジャンルごとに録画しています。人生の残り時間が少ないから、全部見きれるわけがないんですが……(笑)。

 

 ほかにも本や雑誌、それにCDやレコードやレーザーディスクを合わせると1000枚近くあります。『断捨離』など考えたこともありません」

 

 この日の〆、「煮込み」がグツグツ煮えている。

 

「大将はフランス料理も修業しているから、ちょっとシチューのようなニュアンスがある。これが、ガーリックトーストにもよく合うんですよ。あー、これはやっぱりワインだな。……ほら、人生思いどおりにいかないでしょ(笑)。それでも、『万事正解』なんですよ」

 

かどのたくぞう

 

1948年、東京都生まれ 大阪市育ち 学習院大学経済学部を卒業後、文学座附属演劇研究所を経て、文学座座員となる。以降、舞台、テレビ、映画、吹き替えなどジャンルを問わず幅広く活躍。紫綬褒章受章(2008年)のほか、受賞歴多数。著書に『万事正解』(小学館)、『予約一名、角野卓造でございます。【京都編】』(京阪神エルマガジン社)がある

 

◯山利喜 新館

 

(住)東京都江東区森下1丁目14-6
(営)17:00?23:00(LO22:00)
(休)日曜、月曜、祝日

 

(週刊FLASH 2019年11月26日号)

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