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名曲散歩/中森明菜「『少女A』は歌いたくない」とひと悶着
エンタメ・アイドルFLASH編集部
記事投稿日:2020.02.28 16:00 最終更新日:2020.02.28 16:00
東京・神田の古いビルの2階。そこには夜な夜な紳士淑女が集まり、うんちくを披露しあう歌謡曲バーがあるという。今宵も有線から、あの名曲が流れてきた。
お客さん:お、このイントロ……中森明菜の『少女A』。デビュー曲『スローモーション』に続くセカンドシングルだ。
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マスター:この曲ではじめて『ザ・ベストテン』に出たんだけど、実は、発売されるまでにひと悶着あったらしいよ。
お客さん:何があったのよ?
マスター:まずは時代背景ね。この頃はツッパリ、ヤンキー、校内暴力と、とにかく若い連中が荒れていた時代だ。
お客さん:ガラスを割ったり、先生に殴りかかったり、エネルギーがあり余ってたね。
マスター:明菜の担当ディレクターは、不良少女をモチーフにしたこの詞を見たとき、「今の時代にふさわしい! 売れる!」と思ったそうだよ。
お客さん:なるほど。時代にピッタリだったというわけだ。
マスター:ただ、ここからが大変だった。明菜が「絶対にイヤ!」と、歌うことを拒絶したんだ。どうやら自分のことを調べ上げて書いたと思ったそうなんだ。『少女A』の「A」は明菜の「A」に違いないと。
お客さん:歌詞も刺激的だしね。
マスター:そう。そもそものタイトル案は、未成年が新聞の社会面に載るときの『少女A(16)』だからね。拒絶する明菜を「1回歌うだけでいいから」と説得して、ようやくレコーディングにこぎつけた。で、明菜はふてくされたまま歌ったんだけど、逆にそれがこの曲の世界観にぴったりはまった!
お客さん:なるほど、だからリアルに感じたのかも。
マスター:実は、レコードのジャケット写真もグアムに行ったとき、プールサイドで疲れて、ふてくされている表情を撮ったものなんだって。
お客さん:明菜は他のアイドルとは明らかに違っていたからね。彼女がもともと持っていた不良性を、才能ある大人たちが生かして、あの名曲が生まれたのか。
おっ、次の曲は……。
文/安野智彦
『グッド!モーニング』(テレビ朝日系)などを担当する放送作家。神田で「80年代酒場 部室」を開業中
参考文献:
◯濱口英樹『ヒットソングを創った男たち 歌謡曲黄金時代の仕掛人』(シンコーミュージック)
◯売野雅勇『砂の果実 80年代歌謡曲黄金時代 疾走の日々』(朝日新聞出版)