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名曲散歩/岩崎宏美『聖母たちのララバイ』歌の意味をエジプトで知る
エンタメ・アイドルFLASH編集部
記事投稿日:2020.03.06 16:00 最終更新日:2020.03.06 16:00
東京・神田の古いビルの2階。そこには夜な夜な紳士淑女が集まり、うんちくを披露しあう歌謡曲バーがあるという。今宵も有線から、あの名曲が流れてきた。
お客さん:お、このイントロ……「火曜サスペンス劇場」。犯人が崖に追い詰められるときに流れる『聖母たちのララバイ』だ。
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マスター:岩崎宏美の最大のヒット曲で130万枚も売り上げた。この歌が流行ったのは1982年。岩崎宏美がまだ23歳のころだ。
お客さん:それまでの『ロマンス』や『思秋期』など、乙女心を歌った曲とはちょっと違った大人の歌だよね。歌詞にも「戦場」とか「傷を負った戦士」とか使われていたし。
マスター:実は本人、歌の意味がわからないまま歌っていたそうだよ。なにしろ、発売した途端に売れたんでね。その歌の意味がわかったのは4年後のこと、場所はなんとエジプトだった。
お客さん:エジプト?
マスター:1986年、外務省が開催した「ジャパン・ウィーク」の一環で、岩崎宏美はエジプトに招かれ、ピラミッドの前でコンサートを開いたんだ。
そこに駆けつけたのが単身赴任でカイロで働いていた日本人ビジネスマン、つまり「企業戦士」たちだ。『聖母たちのララバイ』を歌った瞬間、それまで歓声が上がっていた会場が静まり返り、涙を流している人もいたんだって。
お客さん:遠い異国で、家族のため、会社のため、日本のために仕事をしている人の心には、この母性あふれる歌声は響いただろうね。
マスター:岩崎宏美は日本を背負って現地で働く「企業戦士」の姿を見て、はじめてこの歌の意味がわかったと語っている。実際に作詞をした山川啓介さんも「企業戦士の歌」として作ったんだって。
お客さん:男は敷居をまたげば7人の敵がいるっていうからね。人生は「戦場」だよ。
マスター:ちなみにピラミッドの前のオフィシャルステージで歌ったのは、ザ・ビートルズ、フランク・シナトラ、フリオ・イグレシアスに次いで4人目で、女性では初めてだったそうだよ。
お客さん:さすが日本の歌姫! それは快挙だね!
おっ、次の曲は……。
文/安野智彦
『グッド!モーニング』(テレビ朝日系)などを担当する放送作家。神田で「80年代酒場 部室」を開業中
参考:朝日新聞「もういちど流行歌」(2016年4月23日)/岩崎宏美オフィシャルサイト