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芸歴42年の名脇役「升毅」の自宅居酒屋に行ってみたエンタメ 投稿日:2017.07.02 16:00

芸歴42年の名脇役「升毅」の自宅居酒屋に行ってみた

 

「らっしぇい!」
「営業中」のプレートが下がるドアを開けると、ドラマでよく見る顔が出迎えてくれた。都内某所のマンションの一室。俳優・升毅(61)は、自宅の隣にもうひと部屋借り、「大衆居酒屋 ますや」を開いている。

 

「もう7、8年になるかな。このマンション、ワンフロアに2部屋しかないでしょう。お隣が引っ越していったとき、へんな人が来るのはイヤだな……そうや、借りよう! と。そのときから、“居酒屋構想”はあったな(笑)」

 

 居酒屋といっても、客は後輩の役者や、草野球仲間。いわば内輪のホームパーティなのだが、升印の暖簾(ファンからのプレゼント)をくぐると、テーブルがいくつもならび、手書きの「本日のメニュー」がかかるさまは、まさに大衆居酒屋。この日の仕込み作業は昼過ぎから始める気合の入れようだ。

 

「役者じゃなかったら、居酒屋の店主になりたい人間なので(笑)。自分だけだと同じメニューになっちゃうし、『何食べたい?』と聞いて、リクエストに応えたくなるんだよね。最初はビールでいいでしょ?」

 

 2015年のNHK朝ドラ『あさが来た』でヒロイン・波瑠の父親役を務めるなど、名バイプレイヤーとして知られる升は、芸歴42年め。俳優デビューは大学2回生のとき。NHK銀河テレビ小説『紬の里』で、スキーに行く若者の一人を演じた。

 

「同い年の野口五郎さんに憧れてたんだけど、進路指導でそうも言えないじゃないですか(笑)。それでNHKの大阪放送劇団付属研究所に入りました。

 

 料理デビューも同じ時期。地元の近畿大学に進んだんだけど、あえて一人暮らしを始めたんです。子供のころから自分のキッチンを持ちたいと思っていたから、お袋に電話して、おからや切り干し大根の作り方を聞いたり、けっこう覚えましたよ。このきんぴらは、最近テレビで観たものですが(笑)」

 

「ますや」の定番メニューのひとつ、「れんこん太キンピラ」だ。れんこんを輪切りではなく、縦に切るのが升流。おでんも専用の鍋で煮ている。

 

「出汁は関東風。用意しておくと、みんながおでんをつまんでいるうちに別の料理を仕込めるから、便利メニュー として定番です。最初は土鍋だったんけど、電気おでん鍋を差し入れされて(苦笑)。近所のおでん種屋さんが、 今年の4月に閉めちゃった。がっかりだね」

 

 近所の行きつけの居酒屋に、作りすぎたものを持っていくほど地元に溶け込む升だが、上京は40歳と遅かった。

 

「大学を卒業するのは親との約束。その後は、新劇の伝統を守る劇団五期会に10年所属し、30歳の時に仲間と『売名行為』という演劇ユニットを旗揚げしました。中島らもさんに脚本を書き下ろしていただいたり、評判になりましたね。生瀬勝久さん、古田新太さんもゲストで出演してくれました」

 

 ショートコントを積み重ねるという先鋭的でシュールな笑いを含んだ作品で、人気はうなぎのぼり。最終公演には3000人もの観客がつめかけた。

 

「でも、メンバーが忙しくなり、全員集まっての稽古が難しくなってね。納得がいかなくなったので、気分を一新して、1991年に『劇団MOTHER』を立ち上げたわけです」

 

 1995年に上京。初めての仕事『沙粧妙子-最後の事件-』(フジテレビ系)では、浅野温子の元恋人で快楽殺人者という役柄を演じ、一躍、注目の的に。刑事や犯罪者からコミカルな父親役まで、幅広い役柄を演じ、映画やテレビドラマに欠かせない存在になっていく。

 

「やあ、やっと『ますや』に来ることができたよ!」

 

 そう言いながらうまそうにビールを飲み干す来客は、映画監督・佐々部清。

 

 2004年の『半落ち』で日本アカデミー賞最優秀作品賞を受賞し、升の42年めの俳優生活で、初めての主演作となる『八重子のハミング』を手がけた。

 

「初主演だなんて知りませんでした、これだけのキャリアのある人が。知っていたら、こんな小さな映画、かえって頼みづらいじゃないですか」

 

 ガンを抱えた夫と若年性アルツハイマーを患った妻。夫は妻を12年にわたり介護するーーという、実話を元にした作品だ。監督自ら製作費の出資を募ったこの映画、升にとっても思い入れが違うようだ。

 

「なんといっても主演だから(笑)、できる宣伝は全部やります。舞台挨拶で地方を回るでしょ。前入りして、行く先々の飲み屋にポスター貼ってもらって、馴染みの客にチケット買ってもらうんです。こっちは主演だから、イヤとは言いづらいでしょう(笑)」

 

 気づけば、升の手には大きな焼酎グラス。「千客万来『八重子のハミング』」と書かれたボトルから、金箔入りの焼酎をロックで注いでいる。

 

「昨日もビール、ハイボール、日本酒4合。若いころと酒量はいっしょ。記憶がなくなるのは早なったけどね(笑)」

 

 いつも佐々部監督とは居酒屋から始まり、スナックに流れカラオケ大会に。升の十八番は、今も変わらず郷ひろみ・西城秀樹・野口五郎の新御三家だ。

 

「そろそろご飯ものいこか」

 

 居酒屋「ますや」、本日の締めは「やっつけマスカレード」である。

 

「ハヤシライスベースのカレーです。近所の居酒屋でみんなに食べてもらって『升さんのカレーだから、“マスカレード” だ』と名づけてもらったんだよね」

 

 本当に店をやらないか、と言われることも多いというが、「やるなら、店に立ちたいじゃん。でも、仕事がある限り引退はできないから、きっと死ぬまで役者なんだと思うよ」。 

 

(週刊FLASH 2017年6月20日号)

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