
藤あやこ、天童よしみ、坂本冬美
毎年、審査員席にお座りになる方々は、その年を代表する豪華な顔ぶれですが、この年『第51回紅白歌合戦』の審査員席からは、ただならぬオーラが漂っていました。
シドニー五輪からは、柔道48kg級を制した田村亮子さん。マラソン金メダリストの高橋尚子さん。柔道100kg級金メダリストの井上康生さん。
NHK大河ドラマ『北条時宗』からは、渡辺謙さんと木村佳乃さん。さらに、菊田一夫演劇賞大賞を受賞された池内淳子さんに、連続テレビ小説『オードリー』のヒロイン、岡本綾さん。公式戦通算1000勝を達成し、特別将棋栄誉賞を受賞された棋士の内藤國雄さんもいらっしゃいます。
さらに、MLB新人記録の37セーブを挙げ、ア・リーグ新人王に輝いたシアトル・マリナーズの “大魔神” こと佐々木主浩さん。そしてミスタープロ野球、この年、読売巨人軍を日本一に導いたスーパースター、長嶋茂雄さんです。
纏っているオーラがすごすぎます。審査員席を見ちゃいけない、見たら呑まれちゃうと思いながら、それでもついつい視線がチラチラと審査員席にいってしまうのを止めることができませんでした。
そのおかげかどうかはわかりませんが、毎年ガチガチに緊張してしまうわたしが、そこまで緊張せずに無事に歌い終えることができた気がするのですから、何が幸いするかわかりませんね(苦笑)。
19時20分にスタートした『紅白』で、わたしの最初の出番は1部のウォルト・ディズニー生誕100年を記念した『ミッキーと踊ろうダンスカーニバル』です。
西城秀樹さん、細川たかしさん、天童(よしみ)さん、八代亜紀さん、和田アキ子さんと一緒に『SING SING SING』を歌唱しながらミッキーマウスと踊るという、わたし的にはかなりハードルの高いものでしたが、なんとかクリア。
いったん楽屋に戻り、本番用の衣装に着替えて、一人奈落に降りて発声練習。4組くらい前にステージ袖にスタンバイして『風鈴』を歌唱。1部のラストに出場歌手全員で歌った『上を向いて歩こう』が終わると、フィナーレまで楽屋待機です。緊張を解くことはできませんが、それでも自分の出番が終われば精神的にはすごく……いや、ものすごく楽になります。しかもこの年は56組中25番めだったので、フィナーレまで時間はたっぷりとありました。
加えて、仲よしの夏ちゃん(伍代夏子)が12番めで、あやちゃん(藤あや子)が16番め。(長山)洋子ちゃんが18番めで、(原田)悠里ねぇが22番め。(香西)かおりさんが27番めと、前半から中盤を支えるお役目です。
早々に、フィナーレ用の衣装に着替えたわたしは、事務所の社長が差し入れてくれたお寿司をパクリ。緊張がほぐれた後にいただくお寿司は格別です。
ーー次は何をいただこうかな? トロ!? それとも……イクラ?
2つ、3つ、お寿司をつまんでいると、歌い終えた人から三々五々、楽屋に集まって来て、夏ちゃんが用意してくれたおせちを前に、さぁ女子会トークの始まりです。
あっ! 今、思い出しました。記憶があやふやなので断言はできませんが、あやちゃんが炊飯器を持ち込んだのは、このときだったかも……(苦笑)。
「今年もみんな無事に終えてよかったね」
「来年もいい年になるといいなぁ」
たわいもない女子トークが続きます。ピクリ。みんなの耳がいっせいにピクンと反応したのは、2部も中盤に差しかかったときでした。
ーーこのイントロは……もしかして!?
みんなの視線がモニターに集中します。やっぱりそうだ!10年ぶりに出場された青春時代のスーパーアイドル、ミイちゃんとケイちゃんのピンク・レディーです。『ペッパー警部』から『UFO』『サウスポー』と続く『スペシャルメドレー ピンクレディー2000』です!
小学生のときに夢中になったピンク・レディーのヒット曲は、歌詞はもちろん、振りも体が完璧に覚えています。
こうなるともう、誰にも止められません。楽屋だということも忘れて、みんなもうノリノリ。違う意味で思い出深い『紅白』でした(笑)。
さかもとふゆみ
1967 年3月30日生まれ 和歌山県出身『祝い酒』『夜桜お七』『また君に恋してる』『ブッダのように私は死んだ』など幅広いジャンルの代表曲を持つ。現在、最新シングル『浪花魂』が好評発売中!
写真・中村 功、産経新聞
取材&文・工藤 晋