
『紅白歌合戦』の司会者に決まった有働由美子アナと阿部渉アナ。2人は3年連続で大役を務めた
大晦日。時計の針が19時20分を過ぎたころです。
「もうすぐ、始まるわよ」
母の声が台所に響きわたります。
「え〜〜〜〜っ!? まだ、お煮しめができていないのに……。『紅白』って、こんな早い時間に始まるんだっけ?」
ぶつぶつ文句を言うわたしに、母が呆れたような声で答えます。
「何言ってんの? 何年も続けて出ていたのに、そんなことも知らないの?」
いや……あの……もちろん、わかってはいます。
2023年は明治座、2024年は相模女子大学グリーンホールが会場でしたが、当時は新宿コマ劇場からお送りしていた『年忘れにっぽんの歌』(テレビ東京系)に出させていただいた後、急いでNHKホールに移動。
パーティションで仕切られた地下の楽屋でメイクを直して、「もうすぐオープニングです!」と言う声に急かされるように楽屋を出るころですが、それが今年は、お鍋の中でいい感じに出来上がりつつあるお煮しめと睨めっこしているわけです。
う〜〜〜〜〜〜〜ん。
知らなかったなぁ。わたしの中ではこの時間、おせちの準備は早々に終わり、家族で食卓を囲み、お風呂にも入って準備万端整って、 “さぁ『紅白』が始まるぞ!” というイメージだったのですが……。
お煮しめもまだできていないし、ご飯もまだだし、食べ終わったら食器も洗わなくちゃいけないし、お風呂だって入らなくちゃいけない……。
それなのに、え〜〜〜〜っ、もう『紅白』が始まっちゃうの!? ちょ、ちょ、ちょっと待ってよー、まだ早いよーという感じです。
お目当ての歌手はもちろん、出場する一人ひとりを食い入るように見つめ、じっくりとその歌声に耳を傾ける……そんなふうに思っていましたが、そうか……実際は、こんな感じなんですよね。
母と2人、年越しそばを啜りながら、ちょんと針で突かれたら破裂しそうなほどパンパンに緊張していた自分を思い出し、「もっと楽な気持ちで歌えばよかったなぁ」と、思わず苦笑いを浮かべていました。
あやちゃん(藤あや子)に(長山)洋子ちゃん、(香西)かおりちゃんに天童(よしみ)さん……前年まで、楽屋でお寿司やおせちをつまみながら女子トークをしていた仲間が歌っているのをテレビで観るのは、なんだかとっても不思議な気分です。
心の中で “頑張れ!” と呟いていましたが、わたしが応援するまでもなく、みんな堂々と歌っています。結局、ジタバタしていたのはわたしだけだったんだと思うと、再び苦笑いが込み上げてきます。
黒部ダムから『地上の星』を熱唱された中島みゆきさん。美川憲一さんと小林幸子さんの豪華衣装対決。中森明菜さんの『飾りじゃないのよ涙は』、さだまさしさんの『精霊流し』。紅組のトリを飾った石川さゆりさんの『天城越え』。大トリは、五木ひろしさんの『おふくろの子守歌』。
そのたびに、「すごいなぁ」「さすがだなぁ」と呟くわたしの横で、母はどんな気持ちだったのでしょうか。
父が亡くなってからは一人、娘が出ている『紅白』を観ていた母の気持ちを思うと、切なさが込み上げてきます。
思えば、これが母と2人で観た、最初で最後の『紅白』でした。
さかもとふゆみ
1967 年3月30日生まれ 和歌山県出身『祝い酒』『夜桜お七』『また君に恋してる』『ブッダのように私は死んだ』など幅広いジャンルの代表曲を持つ。現在、最新シングル『浪花魂』が好評発売中!
写真・中村 功
取材&文・工藤 晋
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