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公開中『爆弾』呉勝浩氏もハマる「格闘ゲーム」の世界…“東大卒プロゲーマー” ときど氏と語る「ゲームが仕事」の苦悩

インタビュー
記事投稿日:2025.11.11 06:00 最終更新日:2025.11.11 07:33
出典元: SmartFLASH
著者: 『FLASH』編集部
公開中『爆弾』呉勝浩氏もハマる「格闘ゲーム」の世界…“東大卒プロゲーマー” ときど氏と語る「ゲームが仕事」の苦悩

呉勝浩さん(左)と、ときどさん。呉さんはときどさんとの対談を心待ちにしていた格闘ゲームファンだ

 

 いま世界でもっとも熱いエンターテインメントのひとつとされている「eスポーツ」。いまやゲームの世界は、この「eスポーツ」という競技シーンなしに語ることはできない。

 

 誰もが “娯楽” のひとつとしてやっていたゲームだが、現代ではゲームの腕がそのまま “仕事” に直結し、巨額の賞金につながる可能性だってある。その道を極めたプロのゲームプレイヤーが繰り広げる “試合” を見て、多くのプレイヤーが日夜熱狂している。

 

「eスポーツ競技」にハマるのは、なにもそのゲームをプレイする人だけではない。いわゆる「観る専(そのゲームをするわけではないが、競技や配信を観るのは好きな人)」たちが、この競技の盛り上がり、さらにはプロゲーマーの人気を支えていもいる。いまやどんな人気ゲームにも、必ず「観る専」がいるのだ。

 

 10月31日から実写映画が公開されている『爆弾』などの作品でも知られる小説家・呉勝浩さんも、eスポーツの魅力にとりつかれた「観る専」の一人だ。

 

 呉さんはとりわけ「格闘ゲーム」の世界にドハマりし、近年は「ストリートファイター6」のあらゆる大会を観戦。その熱が高じ、格闘ゲームの世界がモチーフとして取り込まれた小説『アトミック・ブレイバー』を書き上げてしまったほどだ。

 

 そんな呉さんと、日本のeスポーツ黎明期から業界を盛り上げ、支えてきた “東大卒プロゲーマー” こと「ときど」さんとの対談が実現した。ときどさんは「ストリートファイター6」を主戦場とするプロゲーマーで、海外の大会などにも頻繁に参加し、実績を残し続けている。

 

 呉さんはさっそく、“プロゲーマー” という職業に興味津々な様子を見せた。

 

呉「この対談の数日前まで、3週間くらい海外に行かれていましたよね。年間何日くらい海外に行ってらっしゃるんですか?」

 

ときど「年に10回前後は大会などで海外に行っていて、一度行くと1週間くらいは滞在するので年間70~80日ほどは海外にいますね」

 

呉「そういったイベントなどのない時期は、どのようなサイクルでお仕事をされているのですか? そもそも休みはありますか?」

 

と「休みはないですね。ずっと同じようなペースで生活しています。正直、こんな生活でお金もらっていいのかな、というような(笑)。朝10時くらいに起きて、食事や連絡作業、身体を動かすなどをして、14時ごろから所属しているチーム・REJECTのオフィスに行って、集まってくるメンバーたちと21時くらいまでゲームをしていますね。情報交換や作戦を考えたりもそこでします。そして帰宅した後にも、ゲームをするということが多いです」

 

呉「僕は2017年のカプコンカップがきちんと観た初めての格闘ゲームの配信だったんです。その年におこなわれていた『ストリートファイター5』の世界大会『EVO2017』で、ときどさんが優勝されたのをリアルタイムで観ていなかったことがとても悔やまれるのですが……」

 

と「でも、その後ますますゲームシーンが盛り上がってきたので、呉さんはとてもいい時期をご覧になっているのではと思います」

 

呉「それまではどうしてもゲームって『やる』もので、でも自分は指が動かないでハマれなかったんです。でも、配信を観るようになって、ゲームにはそれぞれの魅力的なキャラクターがいて、その裏にさらにそれをプレイするプレイヤーたちがいて、こんなに面白いんだっていうことに気づかされて……」

 

と「僕がプロゲーマーになった2011年では、そもそもプロゲーマーという道があるの!? というような状況でした」

 

呉「ときどさんのご著書『東大卒プロゲーマー』を拝読したのですが、やはりおもしろい人生を歩まれているので、創作をする身からすると実人生にはかなわんか……とも思いました(笑)」

 

と「いえいえ(笑)。この業界どうなっていくんだろうな? という不安はありましたよね。当時は黎明期とも言える時期で楽しかったですが、最初にこの世界に入ったときはまわりからは止められました。ゲームをやっている人ほど止めるんですよ。当時はまだゲームがまわりに言えない趣味だったりしたので」

 

 呉さんがゲームの競技シーンにおいて興味深いと思ったのは、「調整」という独特のシステムだという。簡単にいえば、「このキャラクターはあまりに強すぎたので、弱くする」「この技・武器は使われていなかったから、もっと強いものにする」といった、メーカー側からの “変更” をともなうアップデートが、ゲームのバランス、ひいてはそのゲームのプロの成績を大きく左右する。こういった「調整」は、とりわけ人気ゲームでは頻繁におこなわれている。

 

呉「僕は『調整』という概念を大会を見始めていたころは知らなくて。『は? 同じタイトルのなかでキャラが強くされたり弱くされたりってどういうこと?』『そんなこと起こったらおかしいやろ』と。

 

 たとえるならバットの長さを来シーズンから変えます、3アウト制を2アウト制にします、みたいなもので。eスポーツでしかおこなわれないシステムだと思いますよ」

 

と「根本にあるのはメーカーさんのビジネスなんですよ。メーカーとしては、プレイヤー人口を維持することを目的にやられている、というのが根本にあって。その内容、期間などはメーカーの匙加減なので……まぁ大変です」

 

呉「『アトミック・ブレイバー』を書いているなかで、『調整』というシステムは、めちゃくちゃ危ういけどめちゃくちゃおもしろいなと感じるようになって。

 

 ときどさんご自身は、著作に書かれていたように、東京大学大学院在籍時に『試験の制度』という『システム』に憤りを感じられ、その『システム』によって大きく人生を変えられて、挫折を味わったわけですよね。

 

 それが、eスポーツほど『システム』に支配されている業界は少ないんじゃないかと思うんですけど、そのなかで活動することには、抵抗は感じないのですか?」

 

と「昔、すごい楽しいと思ってやっていたゲームがあって、世界で3本の指に入るくらいの実力があったんですけど、世界大会で勝ったとしても、結局これでご飯食べられないな、という問題と向き合わなくてはならない時期があったんですね。

 

 自分はこれで勝つことは大切ではあるけれど、もっとこのゲームが流行って、負けるかもしれないけど、世間にもっと注目されて、受け入れられたほうがいいだろうな、とは思いました。

 

 苦しいですけどね、『調整』は。そう考えたほうが楽しいだろうな、と自分に言い聞かせている部分はありますね」

 

 巨額の賞金が動くeスポーツ界では、プロを目指してゲームに取り組むプレイヤーが世界中にいる。しかしいま、プロゲーマーに求められているのは “強さ” だけではないと、ときどさんは語る。

 

と「自分のお子さんがプロゲーマーを目指している、という方もいると思うんですけど、“若いときにゲームだけやってた” というのでは、通用しない世界になっているのかな。

 

“コミュ力” であったりとか、みんなで集まって、ゲームに対する “集合知” をいかせるような人が求められている気がします。さっき出た “調整” の話もそうですが、ある程度世の中に順応していく能力は必要かと。

 

“ゲームの世界だけじゃなくて、社会に出ても、ある程度大丈夫な準備をしておきなさいよ” と親御さんには説得してもらって(笑)」

 

呉「ときどさんのような方は、結局ゲーム以外でも、なにをやってもうまいところまでいくんだろうなとも思います。ただ、僕は昔の “腕っぷしゲーマー” に憧れもあるので、“ゲームでめっちゃ強い人は、ゲーム以外、何もできないでほしい” とも思っちゃうんですよね」

 

と「いまは “配信力” が求められてますよね。ユーザーの目につくのはやはりYouTubeなどでの配信だし。“強さだけが仕事じゃない” と思って取り組んでいるプロが多いと思います」

 

呉「配信などを見ていても、トーク力から “頭のよさ” がうかがえる方ばかりですもんね。だから、“無能な上司の部下” はプロゲーマーにとっては務められない仕事なんじゃないかな(笑)」

 

 作家界にも、“eスポーツ” の熱が届いているのだとか。

 

呉「実は僕の知り合いの作家でも『スト6』めっちゃ好きなやつがいて。試合の結果の感想をLINEで送りあうような関係のやつがいるんです。今村昌弘っていうんですけど。“ときどさんと対談できるかもしれないんだよね” と言ったら、“なんでお前みたいなやつができんねん” と言われてしまいました(笑)」

 

と「いやいや(笑)。ありがとうございました」

 

呉「ありがとうございました」

 

呉勝浩(ご かつひろ)
1981年、青森県生まれ。大阪芸術大学映像学科卒業。2015年『道徳の時間』で江戸川乱歩賞を受賞しデビュー。2022年『爆弾』で「このミステリーがすごい!」国内編第1位。「ミステリが読みたい!」国内編第1位、直木賞候補。同作は2025年10月に映画が公開。

 

ときど
1985年、沖縄県生まれ。東京大学工学部卒業、同大学院中退。REJECT所属。2011年、大学院を中退してアメリカ企業とスポンサー契約を結びプロゲーマーになる。世界中に知られる有名eスポーツプレイヤーの一人。

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