
風吹ジュン
杓子定規に「不倫を美化するのはダメ」とは思わない。しかし、“地獄の不倫” をあまりにも美化しすぎじゃないか。
11月17日(月)に第6話が放送された草彅剛主演のドラマ『終幕のロンド ーもう二度と、会えないあなたにー』(フジテレビ系)。
基本的には遺品整理人である鳥飼樹(草彅)が、遺品から故人の想いを汲み取って遺族に伝えていくという、ハートフルなヒューマンドラマだ。
■遺品整理人の物語なのに2つの不倫愛が描かれる
前述したように、遺品整理人を主人公としたヒューマンドラマなのだが、本作では2つの不倫愛が描かれている。
第1話で樹は、余命3カ月の宣告を受けている老女・こはる(風吹ジュン)から生前整理の依頼を受け、こはるが女手一つで育てた娘・真琴(中村ゆり)と出会う。
この3人の関係性はドラマの “縦軸” として描かれており、真琴は大企業グループの次期社長の夫(要潤)がいるにもかかわらず、樹に惹かれ、恋愛感情を抱いていく。
そしてこれまでのストーリーで、こはるが未婚のまま真琴を産んだのは、既婚男性だった画家との間に授かった子どもだったからという事情が明かされていた。
第6話では、真琴と樹がこはるのかつての不倫相手、つまり真琴の父親のいる地へおもむくというストーリーが描かれたのだが……。
■美しく描かれた40年前の不倫
40年前。こはると画家は駆け落ちをして、伊豆(静岡県)の海辺の家で静かに暮らしていた。けれど、画家のもとに妻が自殺未遂を起こしたという電報が届き、画家は妻の待つ家に戻り、2人は別れることに。
こはるは余命宣告されたいまでも画家のことを愛していたが、40年前に別れてから一度も会っていなかったようだ。
真琴と樹が画家のことを知る人物のもとを訪ねると、画家の妻は一命を取りとめたものの後遺症が残っていたため、画家は妻に寄り添って生きていたようだと聞かされる。そんな妻は7年前に亡くなっており、画家も昨年亡くなったという。
要するに、画家は妻に先立たれてから6年ほど独り身で生きていたようなのだが、その6年はこはると暮らした伊豆の家に戻り、ずっと絵を描き続けていた模様。アトリエには若かりし頃のこはるの肖像画ばかりが何枚も残っており、それを見た娘の真琴は涙し、こはるも40年越しで画家の想いを受け取ったのだった。
■妻は自殺未遂するほど追いつめられていた
正直言うと、ちょっと感動した。こはるに感情移入して観ると、40年経ったいまでも不倫相手を愛し続けており、それでも犯した罪をきちんと背負って一度も会わずに生きてきたため、最後に少し報われてよかったと思えたからだ。
こはるというキャラクターの、人生をかけての覚悟がよかったし、それを演じる風吹ジュンの円熟した演技もよかった。
だが、演出がよくなかった。40年前の2人をきれいな思い出のように描くシーンを過度に挿入したり、感動ポイントですよと言わんばかりの美しいBGMをここぞとばかりに流したりと、不倫愛を美化しまくっていたので、辟易してしまった。
こはるが、きちんと40年間、罪を背負って生きたのはすごいと思うが、それは感動エピソードではない。だって、よくよく考えてほしい。ドラマではこはる視点で描かれたから美談にできたが、妻視点で考えたら、ただの “地獄の不倫” でしかない。
画家と妻の関係性がどんなものだったか、2人の間になにがあったかはわからないし、妻側の人格になにかしらの問題があったのかもしれない。しかし、画家とこはるの不倫によって、妻が自ら命を絶とうとするほど精神的に追いつめられたのも事実なのだ。
■裏で本妻の人生や尊厳を愚弄し続けた不倫男
「不倫は心の殺人」という言葉があるが、自殺未遂を起こした妻はまさに心を殺されかけたに違いない。どんな理由があろうと、人一人の命が絶たれそうになった原因を美化するのはいかがなものか。
画家は妻が亡くなるまで献身的に尽くしたのかもしれない。ただ、その後に伊豆の家にこもってこはるの絵を描き続けていたということは、愛していたのはずっと不倫相手で、妻に最期まで寄り添っていたのは罪滅ぼしのようなものだったのだろう。
妻はそんな画家の本心を知らないまま亡くなったのかもしれないが、そうだとしても、夫は密かに不倫相手を愛し続け、自分がこの世を去った後に不倫相手との愛の巣に戻って肖像画を描き続けていたなんて、妻の人生として考えたら地獄そのもの。
本妻が最期まで知らなかったからセーフなんて安直な話ではなく、画家は裏で本妻の尊厳を愚弄し続けていたということだ。
本妻視点で見ると、こはると画家のエピソードは、やはりどう考えても “地獄の不倫” でしかない。今夜放送する第7話の予告映像では、真琴が夫に離婚届を渡すシーンが描かれていた。このドラマは樹と真琴の不倫も美談にしてしまうのだろうか……。
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