藤あや子、前川清、五代夏子、坂本冬美
和歌山でテレビを観ていたころも、歌手として夢のステージに上がらせていただけるようになってからも『紅白歌合戦』のオープニングは、紅組は下手から、白組は上手から分かれて入場するというのが当たり前になっていました。
紅組にとって白組は敵チーム。時には、男女混合のグループが紅組として出場されている男性アーティストを見て、一瞬ドキッとすることはありましたが、基本は女性が紅組で下手から、男性が白組で上手から入場。まさか、それが変わるなんて考えたことすらありませんでした。
ところがです。この安心、安定、すっかりお馴染みとなっていた『紅白』の入場シーンは、この年が最後。翌年からは紅組と白組の司会者が下手で合流し、出演者も男女一緒に入場するスタイルに変わりました。もうビックリです。
変化なくして成長なしーー。
『紅白』のオープニングはこの後さらに変化し、最近では入場シーンはなく、初めから出場歌手がステージに勢揃いして始まったこともありましたし、アニメーションやCGを駆使した映像、これまでの『紅白』を振り返る映像で幕を開ける回など、さらなる進化を遂げています。
紅組は下手から、白組は上手からという入場シーンを懐かしく思うこともありますが、これも時代の流れです。
観てくださっている方も、わたしたち出場歌手も、この変化を受け止め、受け入れることで、より『紅白』は楽しいものになるはず……ですが……。 “絶対におもしろくなります!” と断言できないのは、わたし自身の問題です。
夢の舞台。1年を締めくくる大事な歌。生放送ーー。
それでなくても緊張気質のわたしの心に、毎年三重苦が重くのしかかってきて、『紅白』を楽しむ余裕は1mmだってありません。
この年もそうでした。瀬戸内海に浮かぶ忽那諸島のひとつ、 “太陽とみかんとトライアスロンの島” 中島(現・松山市)で開催された「中島ばんざいまつり」に呼んでいただいたことをきっかけにご縁を結び合った島の皆さんと中継を繋いでいただいたことで、緊張度はさらに高まります。
島を訪ねるのは数年に一度ですが、松山市と島を結ぶ船の中で、町や学校の行事で、朝夕の時刻を知らせる無線放送の音楽として、町おこしの一環として歌わせていただいた『白いかおりの島へ』をずっと聴き続けてくださっている島の皆さんのお顔を拝見して、とっても嬉しかったのを覚えています。
心が震えるあまり、船の上でお手製のうちわを振ってくださる島の方々に向かって、「皆さ〜〜ん。お元気でしたか?」と呼びかける声も、若干震えていたような気がします。
歌わせていただいたのは、初めて『紅白』のステージに立たせていただいたときに歌った『祝い酒』。18年ぶりに『紅白』で歌ったこの歌は、恩師・猪俣公章先生が、わたしのために遺してくださった大事な大事な一曲です。
前年と同じ、7番めに歌唱することになっているわたしのリハーサルは、12月31日の午前中。
島の皆さんとのやり取りの確認や、振りはこれくらいでいいのかな。歩き出すタイミングは? 視線を上げたほうがいい? それとも下げたほうがいい……?
考えること、確認することがたくさんあるので、緊張度はまだ1か2ですが、本番が近づくともういけません。
ただ、それでも、想いだけは中島の皆さんに届いたのではないでしょうか。
さかもとふゆみ
1967 年3月30日生まれ 和歌山県出身『祝い酒』『夜桜お七』『また君に恋してる』『ブッダのように私は死んだ』など幅広いジャンルの代表曲を持つ。現在、最新シングル『浪花魂』が好評発売中!
写真・中村 功、産経新聞
取材&文・工藤 晋
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