2025年10月、ドラマ『ちょっとだけエスパー』(テレビ朝日系)の撮影をしていた大泉洋
大泉洋主演の『ちょっとだけエスパー』(テレビ朝日系)の最終話(第9話)が、12月16日(火)に放送され、完結した。
最悪の事態を回避し、無事に “元のかたち” に収まるというハッピーエンド。ラストシーンで主人公たちも自分たちの未来を見据え、明るく前を向いていた。
しかし、主人公たちがやったことに意味はあったのか? そして、彼らはそう遠くないうちに死んでしまうのではないか?
■【ネタバレあり】社長・兆の正体と本当の目的
会社をクビになり、妻とは離婚し、ネットカフェを泊まり歩く日々を送っていた主人公・文太(大泉)。再就職先の企業「ノナマーレ」の社長・兆(岡田将生)から、1粒の謎のカプセルを飲むようにうながされ、そのカプセルによってなんとエスパーに! 触れている人物の心の声が聞こえる超能力に目覚め、兆から命じられるミッションをクリアしていく。
一方、文太には社宅が用意されていたのだが、その部屋には四季(宮崎あおい)という女性が住んでおり、仮初(かりそめ)の夫婦として生活をともにするよう指示される。初対面の異性といきなり共同生活を送ることになりとまどう文太だが、自分のことを本物の夫だと思い込んでいる四季を次第に愛するようになり――というストーリー。
ここからは最終話のネタバレありで話を進めていくので、未視聴の方々はご注意を。
2055年の未来人だった兆が、実は四季の本物の夫。2025年現在から10年後に四季が亡くなってしまう未来を改変するため、兆は立体映像として未来から介入していたのである。
文太たちがおこなっていたミッションは四季が死亡する未来を変えるためのものだったが、なんとそのせいで1000万人の命が失われるという。要するに兆は、1000万人の命と四季の命を天秤にかけて後者を選んだということ。
妻への愛が狂気と化して暴走した男の物語だったというわけだ。
■キーワードは世界が元のかたちに戻る「慣性」
迎えた最終話。
文太とエスパー仲間の活躍により、兆の目論見は崩れ去る。未来の1000万人の命を救ったのだ。さらに文太たちは、もともとの歴史で34人が亡くなるはずだった2025年のクリスマスマーケットの事故でも、1人も死なせないように尽力して死者ゼロの奇跡を起こした。
また、四季は文太と過ごした半年間の記憶が消え去り、現代の兆と出会う。元の歴史に戻っていったということだ。
さて、ここからが本題。
本作には「慣性」というキーワードがたびたび登場していた。
世界には定められたかたち(時間軸)があり、未来から過去に介入しても “慣性の法則” なるナゾの力が働いて、元のかたちに戻ろうとするというもの。よっぽどのことが起きない限り、多少過去が改変されても、だいたい元どおりになるということのようだ。
■四季は10年後に亡くなり、主人公たちも?
文太は愛する仮初の妻と別れることを選択したが、主人公たちエスパーは前向きに生きていこうという明るいラストになっており、ハッピーエンドの体裁となっていた。
しかし、慣性の法則のことを考えると、かなり不穏なラストだとも考えられる。
まず、主人公たちの活躍により34人の命が救われたが、もともと亡くなる予定だった人々が生き延びるということは、未来を大きく変えることになるはず。こんな改変を “慣性の法則” が見逃すだろうか。もしかしたら、この34人はそう遠くないうちに別の事象で命を落とすのかもしれないし、亡くならないのなら、自分や周囲の人々がそれ相応の不幸に見舞われてしまうかもしれない。
そして、それは四季や文太たちにも通じることだ。
おそらく四季は歴史どおりに10年後に亡くなってしまうのだろう。いまの四季と現代の兆はそんなことはつゆ知らず、結婚して幸せな夫婦生活を送るのだろうが、四季は若くして凄惨な死に方をし、それを目の当たりにする兆は深く絶望するという未来に向かっている。
一方、文太とエスパー仲間たちは、もともと2025年に死ぬはずだった。ラストシーンは2026年になっていたため、慣性の法則に抗って生き延びているということなのだろう。だが、世界を元のかたちに戻そうとする力が働いて、彼らもそう遠くないうちに亡くなってしまう可能性もありそう。
現にエスパー仲間の桜介(ディーン・フジオカ)は、エスパー能力を開花させるカプセルの副作用によって、目や耳や鼻から血が流れる症状が続いているという。文太たちのなかでも、ひときわ死期が近いことを示唆しているとも考えられる。
■根っこにあるテーマは、とてもシンプルに「愛」
四季は歴史どおりに10年後に壮絶な死を遂げるのだろうし、文太たちはとりあえず生き延びたが、死が忍び寄ってきているのかもしれない。
誤解なきように伝えておくと、本作のハッピーエンドを否定したいわけではない。
というかむしろ、至上の幕引きだったとさえ感じた。主人公たちの未来は決して明るくなく、けっこう暗い。彼らも当然、そんなことは百も承知のはず。
それでも文太は、「俺たちはみんな慣性の法則に打ち勝って2025年を生き延びたんだから。これからもちびちびじわじわ、しつこくしがみつこう」「それが四季と、世界と、俺たちを救う!」と、未来を変えていこうとポジティブに宣言するのである。
シビアな未来にもくじけずに前を向いていこうというハッピーエンド……筆者の琴線にびんびん触れた。本作はかなり難解なSF設定が用いられていたが、根っこにあるテーマはいたってシンプル。「愛」の尊さを訴えるドラマだった。
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