
納言の薄幸(写真・福田ヨシツグ)
昨今、ドラマのキャストで欠かせない存在となっているのが、お笑い芸人だ。放送中のNHK大河ドラマ『豊臣兄弟!』にはタイムマシーン3号、ピン芸人の岡野陽一がゲスト出演、NHK連続テレビ小説『風、薫る』にはシソンヌ・じろうらが出演して、話題になっている。
「最大の目的は話題作りです。朝ドラの場合は『誰?』的なド新人を抜擢したりするので、その “まわり” で注目を集めなくてはいけません。それは大河でも同じです」と制作側の思惑を明かしたのは、NHKのドラマ関係者だ。
だが、「起用理由はそれだけではない」と続ける。
「ドラマの撮影現場では、役者がセリフに詰まって困り果てるなんて状況は、しょっちゅうあります。そんなときに、アドリブに強い芸人さんが助け舟を出してくれることが多いんです。
また、ふだんはおちゃらけている分、まじめな役を演じると深みが出て、背中でも演技ができますからね。作品の質を高めてくれるので、使わない手はないですよ」(同前)
制作側の心をつかんでいるようだが、当の出演する芸人側はどう思っているのか? お笑い界随一の“識者”が語った。
お笑い芸人の芝居は“うまさ”より“味”
「深夜帯も合わせると、本当に多くの芸人がドラマに出ていますよね」と話すのは、毎週、30作品以上観賞するほどのドラマ好きで知られるナイツ・塙宣之だ。
「芸人が出演すると、ワンシーンだけでもSNSで話題になるので、制作側としても魅力的なんじゃないですか」(塙、以下「 」内同)
塙自身、ドラマ『警視庁・捜査一課長』(テレビ朝日系)のシーズン3から、内藤剛志演じる主人公の運転担当刑事として、6年間、人気シリーズに出演。セリフの“棒読みっぷり”が話題になった。
「最初のころは、自分の芝居がドラマの空気を壊しているかもと思って、嫌でしたよ……。でも、内藤さんをはじめ、出演者のみなさんが『(塙の芝居は)何周かまわって、味になってくる』と言ってくれたんです。うれしかったですね。それで、キャストに芸人を入れる意味って、俳優さんだけの芝居とは違うリズムを生んで、作品の幅を広げることなんだと気づきました。そこからは、自分の下手さ加減をあまり気にしないようにして、“味”を出していこうと意識しました」
ドラマを観る際も、その芸人だから出せる“味”に注目しているという。そんな塙が、演技に思わず見とれてしまった “芸人俳優”は……?
「(演技が)うまいというのは正直、わからないですが……おっと思ったのは、『ヤンドク!』(2026年、フジテレビ系)の納言の(薄・すすき)幸ちゃんですね。看護師の役で出ていましたが、あまりにも作品になじんでいたために、最初は気づかなかったです。それでいて、幸ちゃんしか出せない味も出ていました」
筆頭にあげたのは、タバコ・酒上等の“ヤサグレ芸”で人気の納言・薄幸だ。さらに、あるトリオも気になるという。
「ハナコなんて、芸人はもちろん、役者としてもすごい。岡部(大)は『しろめし修行僧』(2022年、テレビ東京系)で主演していますが、主役を張れるってすごいですよ。菊田(竜大)も『スティンガース 警視庁おとり捜査検証室』(2025年、フジテレビ系)で立てこもり犯を演じていましたが、いい感じで。秋山(寛貴)も『ザ・ロイヤルファミリー』(2025年、TBS系)で厩務員をやっていたりと、3人とも味がありつつ、作品になじんでいるんです」
お笑い芸人が俳優業に挑戦することで、“芸”に何か影響することはあるのだろうか。
「コント師は芝居の幅が広がり、漫才師はネタが増えるんですよ。漫才のネタは、自分たちのなかからしか生まれてこないので、変わった経験はしたほうがいいんですよ。僕は世間から“棒演技”と言われていたことも、けっこう笑ってもらったし。(俳優を)やってみて、損なことはないですね。あと、純粋にほめられてうれしい、というのもあります。
以前『ホットスポット』(2025年、日本テレビ系)にハマってロケ地めぐりをしていたら、側溝に転落して顔面3カ所を骨折したんですよ。それなりの大怪我だったんですが、これもいいネタになって(笑)」
なぜ、お笑い芸人の俳優業挑戦で成功例が続くのか。その質問に、塙は「“新人”より芸人がうまいのは、当然ですよ」と胸を張った。
「ドラマの現場は、多くのカメラの前で芝居をします。この“(大勢に)見られている”という状況で、緊張しないことがいちばん大事。売れていない芸人でも、毎日のように劇場で多くの人に見られてネタをやっている。それを何年、何十年もやっているんです。人前で何かをすることには慣れていますよ。芝居はうまくないかもしれないけれど、劇場の経験がない“新人”よりも緊張しない分、うまくできるのは当然です」
最後に塙は「今後、ドラマで爪痕を残す “芸人俳優”は……」と、意外な名前をあげた。
「『もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう』(2025年、フジテレビ系)にお笑い芸人の役で出ていた、バイきんぐの西村(瑞樹)くんです。芝居は西村くん本人そのものなんだけど、役としても成立していて、天才だと思いました。劇中でするコントが、なんかスベっているように見えるんだけど、それをどこか、演じている役の人間力みたいなものに変換させていて、魅了されました。
あと、カミナリの(竹内)まなぶの演技は見てみたいと思っています。まなぶはテレビのイメージからは想像できないかもしれませんが、ふだんはサカイとかモードブランドを着こなして、おしゃれでカッコいいんですよ。そういう印象の切り替えができるので、まじめな役や、1本ネジが飛んだような役、どっちもできそうな感じがします」
爪痕を残すのは、やはり当然なのだ。
現場の空気を読む力は“さすが”
「正直に話せば、知名度もあり、お笑い芸人ということで、違うファン層のお客さんを連れてきてくれるのかなという期待も、少しありました」
興行収入45億円超えのヒットとなった 『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』で、我が家の坪倉由幸を、福原遥演じるヒロインの高校の担任役で起用した映画監督の成田洋一氏は、当時をこう振り返った。撮影中、坪倉に対して「芸人というフィルターがかかることはなかった」と言う。
「もともとお芝居が上手と聞いていたのですが、俳優と変わらずに演出することができました。坪倉さんらしいすてきな芝居をしてもらいました」(成田氏、以下「 」内同)
芝居と同じように光っていたのが “空気作り” だという。
「ヒロインが思い詰めるシーンの撮影のときのことです。撮影の合間に、福原さんの隣にいた坪倉さんが話しかけて、和ませているのを見かけました。作品全体のカギとなる重要なシーンで、演じる福原さんにはかなり緊張するシーンだったのですが、坪倉さんのおかげで、いい意味で力が抜けて撮影ができました。現場の空気を読むのは、さすがだなと思いました」
ナイツ・塙の「芸人は見られることに慣れている」という意見を聞いて、成田氏は「納得できた」と言う。
「撮影は、多くのスタッフやカメラに囲まれておこなわれます。そのなかで平常心を保つことや、演技に入り込むためにスイッチを入れることは難しいんです。それを坪倉さんは、スッと違和感なくできていました。これは芸人さんならではだと思います」
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