
坂本冬美
季節を勘違いした桜が、秋に花を咲かせることはあっても、このわたしが雑誌連載のお仕事をするなんて絶対にない! と思っていたはずなのですが……。
何をどう間違えたのか、2021年の3月に本誌で「坂本冬美のモゴモゴモゴ」がスタート。
もう怖いものなんて何もない。矢でも鉄砲でも持ってきやがれという、半ば開き直った気持ちで迎えたこの年の『第72回紅白歌合戦』は、NHKホール改修工事のため、東京国際フォーラムとNHK放送センターの2カ所で開催。わたしは、NHK放送センターからの出演でした。
歌唱させていただいたのは、8度めとなる『夜桜お七』です。なぜこんなすごいことができるのか、わたしの頭ではまるで理解できませんが、バックにはバーチャルプロダクションという最新技術で創り出された幻想的な空間が広がっています。
いつもなら、ステージで歌うのは音合わせ、カメリハ、本番の3回だけですが、少しでも映像とわたしの動きがズレると、せっかくの演出があらら……ということになってしまうので、納得がいくまで何度も何度も何度もリハーサルを繰り返します。
そして迎えた本番はー。これがもう、それまででいちばんよかったんじゃないかというほど最高の出来で。映像とわたしの動きもバッチリでした。
えっ!? 途中、扇子を開いたときの音が、必要以上に大きかったような気がする?
それはまぁ、モゴモゴモゴ(苦笑)。
扇子はスッと開いたほうがカッコいいんですけど、もしも開かなかったらどうしようと不安になり、ついついよけいな力が入ってしまって。映像を見ると、恥ずかしいくらいリアルに “ぶあっ” という音が入っているのは……否定できません(苦笑)。
当日テレビで流れた映像は、わたしが歌い終えるところまででしたが、胸がジーンと熱くなったのはここからです。
「やったぞー!」「成功だ!!」「完璧だったね!!」……歓声が上がり、スタッフの方たちが次々に集まってきます。
5人、10人……30人、40人……70人、80人……。
NHK放送センターの中でいちばん広い101スタジオだったので気づきませんでしたが、100人を超えるスタッフの方が、わたし一人のために、『夜桜お七』一曲のために、力を合わせてくださっていたのです。
これまでに32回出演させていただいていましたが、 “みんなで作り上げた『紅白』” という感覚を覚えたのは、これが初めてです。
終了後、すぐにメインの会場である国際フォーラムに移動しなければいけなかったので、実際にはできませんでしたが、気持ちとしては100名を超えるスタッフの方、お一人おひとりとハグしたいくらいでした。
一曲にかける情熱と、最高の『紅白歌合戦』を日本全国に、世界に届けようという心意気。スタッフの方たちの妥協を許さない真摯な姿勢と、素晴らしいチームワーク。さすがNHKです。『紅白歌合戦』ってやっぱりすごい、やっぱり特別なんだ。
NHK放送センターの101スタジオからお届けできたこの年の『紅白』は、それを実感させていただいた『紅白』でした。
さかもとふゆみ
1967 年3月30日生まれ 和歌山県出身『祝い酒』『夜桜お七』『また君に恋してる』『ブッダのように私は死んだ』など幅広いジャンルの代表曲を持つ。現在、40周年記念シングル『遠い昔の恋の歌』が好評発売中!
写真・中村 功
取材&文・工藤 晋
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