
タイでライブを開催したTKOの2人
「まさかこの場所で、TKOとしてコントができる日が訪れるとは……。ホンマに嬉しいですわ」
汗を拭いながらせっせとパイプ椅子を並べるのは、TKOの木下隆行だ。2026年5月28日と29日、タイ・バンコクのBARにて、『TKOコント&トークライブ』の幕が上がった。全3公演・計約150席のチケットは、現地在住の日本人や日本からの熱狂的なファンで超満員。ステージに並び立つ2人の姿は、実に9カ月ぶりだった。
パワハラ騒動、事務所退所を経て、一念発起した木下は2025年9月にタイへ移住。なぜ、相方の木本武宏まで現地へ呼び寄せたのか。
「僕らは2023年8月から1年かけて、日本全国47都道府県を巡るコントツアー『周るTKO』をおこないました。その後僕だけタイに渡り、バンコクでBARの経営を始めたわけですが、やっぱりコンビ活動の素晴らしさは忘れられないんですよ。まだまだTKOでお笑いをやりたいと思っていました」(木下)
一方、日本で活動を続ける木本は、当初渋い顔を見せていたという。木本本人はこう語る。
「最初は、『なんでタイやねん!』って思いましたよ。ほんまにどうするつもりなのかと。それに『エンタメをする』と言ってタイに渡ったのに、やってるのは飲食店経営ですよね。生活のためなのはわかりますけど、芸能活動は何もできていないだろうと思っていました」
一時はコンビ間のすれ違いが生まれ、互いにほとんど連絡を取らなかったという暗黒の期間を経て、彼らの“舞台再結成”を強烈に後押ししたキーマンがいる。今回のライブをプロデュースした、平井康博氏だ。木下と同じくタイに住み、TikTokで「やっちゃん。タイの兄貴」として活動する配信者だ。TKOとの縁は日本時代に遡るという。
平井氏「僕は『周るTKO』のメインスポンサーを務めた会社のトップだったので、コントライブを制作する様子も間近で見てきました。おふたりの面白さはホンモノであり、あの時のコンビの熱量のまま、タイで再結成してほしかったんです。木下さんの思いはわかっていましたので、その思いを木本さんに伝えたら必ず実現できると思っていました」
かつての恩人である平井氏の熱意にほだされ、木本はライブのためにタイ渡航を決断。一方、現地で待ち受ける木下はノリノリで準備を進めていた。
「見てくださいよ。お客さんにライブを楽しんでもらうために、照明、音響、スピーカー、テレビを用意したんです。椅子も50脚買って、約30万円くらいかかりました。芸能生活35年、まさか自分で舞台のセッティングまでするとは思わなかったけど、楽しいですね。
今後はこの場所をレンタルスペースとして他の芸人や後輩がタイに来た時に貸すこともできるし、タイ人限定のスタンドアップコメディーのライブを開けるかもしれません」
そして、ついに2人はタイで顔を合わせた。しかし、ライブ直前になっても木本の“愛のムチ”は止まらなかった。
「僕は日本でひとりでトークライブやイベントなど色々やってますけど、木下がお客さんの前で喋ったり笑いを取ろうとしたりするのは、本当に久しぶりなんじゃないですかね。BARの経営ばかりやって、しょっちゅうゴルフに行って……。大丈夫なんですかね。だいぶ上から目線で行きますよ(笑)。お客さんの前に立つというのは決して甘いことではないですからね」(木本)
「ほら、こいつの熱さが出てきましたよ! 久々に触れると、この熱さがちょっとしんどいですね(笑)。僕だって毎日BARという“舞台”に立っています。お客さんに気を遣いながら面白い話を作って、たくさんの方に披露している。人に見られる商売をしているという意味では同じつもりです」
舌戦を経て迎えた本番。フリートークでは互いの不祥事をこれでもかとイジり倒した。木下が「YouTubeにアップした謝罪動画が、ジャスティン・ビーバーを超えてBAD(低評価)のクリック数世界一になった」と嘆けば、木本は木下のタイ移住直後の「僧侶コスプレ大炎上」を容赦なくイジる。逆に木下からは木本の「7億円投資トラブル」が飛び出し、日本ではヒヤッとするような生々しい自虐ネタも、タイの熱気の中では爆発的な笑いへと変わっていった。
終演後、木本は木下を横目に客席へ深く頭を下げた。「こんなやつですけど、これからも本当によろしくお願いします」
大盛況で幕を閉じた直後の楽屋。しかしそこには、精根尽き果ててへたり込む木下の姿があった。
「終わってから木下が立ちくらみみたいになってて、椅子に座り込んでハァハァ言ってて。『大丈夫か?』って声かけましたよ。緊張の糸が解けたんでしょうね。ちゃんと成功させなあかんっていう責任は感じてたんでしょうね」(木本)
「いやだって、正直なところ、今回来てくれたお客さんのほとんどが、普段俺がマンツーマンで接客している顔見知りだったからな。最初はめちゃくちゃ恥ずかしかったよ……」(木下)
「そりゃ急にステージに立って“ザ・芸人”をやれって言われるのは恥ずかしいわな(笑)。俺は全然大丈夫でした。気持ち的には『楽しかった』っていうのが大きかったですね」(木本)
「お客さんたちと誰も目が合わないねん。全員、木本を見てたな。俺を見飽きてる感じがしましたわ」(木下)
息の合った掛け合いを見せる2人だが、視線はすでに未来へ向いている。まさか木本もタイへ“移住”するのか――。
「いやいや、それはないですよ(笑)。でも年に1回とか、こっちで2人でネタをやるのは面白いかもしれないですね。お互い、タイと東京に住んでて日常の仕事を頑張らなきゃいけない。それで1年ぐらい空くと、またお互い違う展開になってると思うんですよ。そこで揃ってまたライブをすると、内容も変わってくるだろうし。今回は時間がなかったからコントをやったけど、次、劇場でやるなら漫才をやりたいですね」(木本)
木下も“ネタをやる喜び”を実感したようだ。
「来年あたりから、例えば、東京、大阪、福岡、名古屋、札幌など、大きな都市を回るTKOの単独コントライブができたらいいなと思っています。でも、まだまだタイでやりたいこともあるんですよ。タイ語でネタをやるために学校にも通っていますから。それから、ブランド『BUCCA』を、夏からゴルフラインとして再始動します。あと、お昼の時間帯にデリバリーの飲食店として、たこ焼きとカレーの販売をするつもりです。こっちの準備でも大忙しですよ」(木下)
「お前ビジネスばっかりやないか。エンタメどこいったんや(笑)」(木本)
離れて暮らしていても互いの動向を気に掛け、いざ舞台に立てば阿吽の呼吸で笑いを生み出す。数々の炎上やトラブルを乗り越え、異国の地で再会を果たしたTKOの姿は、酸いも甘いも噛み分けた「熟年夫婦」そのものだ。
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