
『北斗の拳』の作画担当・原哲夫氏(写真・共同通信)
6月3日、ワールドツアー中の世界的メタルバンド「Metallica(メタリカ)」が、イタリア・ボローニャでのライブで『北斗の拳』のイタリア版アニメのオープニング曲『Ken il Guerriero(和訳:戦士ケン)』を演奏するサプライズを披露。『北斗の拳』の作画担当・原哲夫氏が喜びのコメントを寄せるなど、国内外のメタル好きの間でも大きな話題となっている。
メタリカが『北斗の拳』の主題歌を演奏した背景を、音楽ライターの尾谷幸憲氏が語る。
「メタリカはここ数年、ライブの合間にギターのカーク・ハメットと、ベースのロバート・トゥルージオによる『Kirk and Rob Doodle』というコーナーで、その国での人気曲を演奏して、敬意を表するというパフォーマンスをおこなっているんです。なぜイタリア公演で『北斗の拳』だったのかというと、『北斗の拳』はイタリアを筆頭に、ヨーロッパで非常に人気があるんです。日本でアニメ放送が始まったのは1984年ですが、1980年代後半ごろから、現地でも放送されていましたからね」
しかし、メタリカが披露した主題歌は、あくまでイタリア版『北斗の拳』の主題歌。日本のファンなら誰もが知っている『愛を取り戻せ!!』ではない。これには海外ならではの事情があるのだそうだ。
「いまでこそ変わってきていますが、昔は日本のアニメが海外で放送されるとなると、主題歌は現地の歌手がオリジナルの新しい曲をつくるケースが多かったんです。例をあげると、永井豪先生原作の『UFOロボ グレンダイザー』は、フランスや、サウジアラビアなどの中東でも人気のアニメですが、フランス版と中東版はそれぞれ主題歌が違います。イタリア版『北斗の拳』も同様で、現地の歌手がつくったオリジナルの主題歌『Ken il Guerriero』を今回、メタリカが演奏したということです。
イタリアでの『北斗の拳』の人気ぶりについては、それこそ30代から50代くらいの人ならみな、主題歌を歌えるほどだといいます。メローニ首相も『北斗の拳』の大ファンで、2026年1月の来日時には原哲夫先生からメッセージつきの版画を渡されて、とても喜んでいました」
今回、海の向こうで実現したサプライズを受けて、作画担当の原哲夫氏も公式Xを通してコメントを発表。原氏は《記憶を辿ると北斗を描いてる初期の頃、貸しレコード屋から借りてきて聴いてた♪ そして今、ここで繋がれた気がする》と切り出すと、《活動開始も同じくらいの方達なのでとても嬉しい。感謝♪》と喜びのコメントを寄せた。
『北斗の拳』の連載が「週刊少年ジャンプ」で始まったのは、1983年。メタリカが1stアルバム『Kill ’em All(キル・エム・オール)』をリリースしたのも1983年だ。まさか原氏がメタリカを聴きながら北斗の拳を描いていたとは、知られざる秘話である。
「『北斗』の初期のころというと、原先生が聴いていたのはメタリカがゴリゴリのスラッシュメタルをやっていた1stアルバムか、2ndアルバムの可能性が高いです。メタリカを聴きながら作画に集中できるのか、と思う方もいるかもしれませんが、僕が思うに、原先生はそれを聴きながらテンションを上げて『あたたたたー!』とか『あべし!』とか、ノリノリで描いていたんじゃないですかね。また、『北斗の拳』のサブタイトルは『世紀末救世主伝説』ですが、メタリカの曲には聖書をモチーフにした歌詞もあったりするので、いろいろな意味で世界観と合っているんですよね」(尾谷氏)
海外版とはいえ、日本のアニメの主題歌をメタリカが演奏したという事実を「快挙なのは間違いない」と語る尾谷氏。ただ、ひとつだけ不満があるという。
「贅沢な不満ですけど、そこはやはり、クリスタルキングさんの日本版主題歌『愛を取り戻せ!!』をやってほしいんですよね。イタリアもそうですけど、自分の国版の『北斗』の主題歌がある人たちは、日本のオリジナル版を観たときに、主題歌が違うことに驚くらしいんです。YouTube上にはイタリア人やブラジル人が『愛を取り戻せ!!』を日本語でカバーしている映像が多くあがっていたりしますからね。
それこそメタリカは、2013年のサマーソニックが最後の来日で、日本でのライブは相当、遠のいてしまっています。ここは、そろそろ来日していただいて、カークとロバートのコーナーで『愛を取り戻せ!!』のカバーを披露してくれたら最高ですよね。そのときこそ本当の伝説になるでしょうね」
とはいえ、今回も快挙であることは確か。『北斗の拳』とメタリカが海を挟んでつながったことに、胸を熱くしたファンはさぞかし多かったことに違いない。
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