御陣乗太鼓保存会の皆さん、坂本冬美
『NHK紅白歌合戦』は紅組も白組も、出場歌手がNHKホールに集い、同じステージで歌をお届けするのが基本ですが、長い歴史のなかで、会場以外からの中継で出演された方もいらっしゃいます。
ドイツ・ベルリン(1990年『第41回紅白』)から出演した長渕剛さん。ナミビア共和国のナミブ砂漠(2012年『第63回紅白』)で歌唱したMISIAさん……ほかにもいらっしゃいますが、今でも鮮明に覚えているのが、黒部ダムのトンネル内で『地上の星』を歌われた中島みゆきさんです(2002年『第53回紅白』)。
歌の世界では、 “魂を揺さぶるような” という言葉を使うことがありますが、マイナス数十℃という極寒のトンネルの中で歌うみゆきさんは、圧倒的な存在感があり、神々しいほどでした。
いつかわたしも……。
そう思ったのかどうか聞かれたら、ごめんなさい。『紅白』という特別なステージで、さらに特別な場所から歌をお届けすることができるのは、選ばれた方だけだと思っていましたから、わたしに声がかかるとは想像すらしていませんでした。
それが、です。2024年11月19日に出場させていただけることが決まり、「よしっ! 今年も頑張ろう」と気合を入れた数日後でした。
「今年は石川県輪島市からの中継でお願いできませんか」
お話をいただいたときは驚き、数瞬、言葉が出てきませんでしたが、お返事はもちろんYESです。こちらから、「行かせてください」とお願いしたいくらいのお話です。
この年の1月1日に大きな地震に見舞われ、9月には豪雨で大きな被害を受けた輪島市から歌わせていただくのは、わたしにとっても特別で、大きな意味のある『紅白』になるはずです。
悲しみを乗り越え、また頑張ろうと思っていただけるような心ある歌を届けたいーー。
思ったのは、ただそれだけです。
歌わせていただくのは、デビュー4年めに猪俣公章先生が作ってくださった『能登はいらんかいね』。『紅白』で披露するのは34年ぶりです。
前日に輪島市に入り、当日は県立輪島高校体育館からの生中継。控室にテレビはありませんから、オープニングも見ていません。
「お願いします」という声で控室を出て、ふだんは生徒さんたちが歩いている廊下を通って体育館へ。
円になってわたしを迎えてくださったのは、輪島市の皆さんです。
わたし自身の緊張をほぐすためにも、本番前に『男の火祭り』で、皆さんと一緒に「アッパレ、ソーレ!」。
御陣乗太鼓保存会の方々とコラボさせていただいた『能登はいらんかいね』は本当に難しい曲で、いつもは心臓がバクバクしちゃうのですが、この日はお客さまと握手をしながら歌わせていただいたおかげで、最後まで集中して歌うことができました。
中継終了後はもう1曲、感謝の気持ちをこめて『風に立つ』を歌唱。
すべてを終え、当日の進行を務めてくださったNHK金沢放送局の高畠菜那キャスターが大粒の涙をボロボロとこぼすその横で、皆さんの目が生き生きとしているのを拝見して、「輪島市に来させていただいて本当によかった」と、心からそう思えた『紅白』でした。
さかもとふゆみ
1967 年3月30日生まれ 和歌山県出身『祝い酒』『夜桜お七』『また君に恋してる』『ブッダのように私は死んだ』など幅広いジャンルの代表曲を持つ。現在、40周年記念シングル『遠い昔の恋の歌』が好評発売中!
写真・中村 功
取材&文・工藤 晋
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