
宝塚歌劇団の宙組組長である松風輝(写真・伊藤 修)
東京宝塚劇場にて、7月25日より上演中の宝塚歌劇団宙組(そらぐみ)公演ミュージカル『黒蜥蜴』。江戸川乱歩の原作を三島由紀夫が戯曲化したこの舞台は、名探偵・明智小五郎と女性盗賊・黒蜥蜴(くろとかげ)の追跡劇と悲恋を軸に、宝塚歌劇団らしいロマンティシズムをふんだんに盛り込んだ大作だ。劇団でも19年ぶりの再演とあって、宙組トップスター・桜木みなと、トップ娘役・春乃さくらを中心に、出演者たちの熱演が観客を連日、魅了している。
東京に先立ち、本拠地である兵庫・宝塚大劇場では5月から公演がおこなわれていた。開幕から1カ月ほどたった6月下旬のこと、華やかなステージを終え、化粧を落として私服に着替えたジェンヌたちが向かったのは、劇場から車で10分ほどの和食チェーン店である。
「この日は宙組の打ち上げで、18時ごろから宴席がスタートしました。急に開催が決まったため、すでに予定を入れていた1名を除き、宙組に在籍する74名の組子(組に所属する劇団員のこと)のほぼ全員が参加したと聞いています。表向きは自由参加の“慰労会”という名目でしたが、実質、半強制ですよね。休みの日に宴会をすると強制と取られかねないので、公演期間中に開催したようです。組費をあてたので負担ゼロだったとはいえ、若い下級生の間では不満たらたらだったとか。席割はくじ引きだったそうですが、無礼講というわけにもいきませんから、下級生にとっては気が張る会だったことでしょう。
こういった飲み会はどこの組でもありますが、たいてい劇場近くの老舗ホテルに入っている大宴会場で開かれるんです。劇場から離れた大衆店を選んだのは、宙組として人目を気にした面があるのかもしれません」(劇団関係者)
宙組では2023年9月、所属していた劇団員・有愛きいさんが自宅マンションから飛び降り、自ら命を絶つという痛ましい事件が起きた。これを受け、劇団の親会社・阪急阪神ホールディングスは劇団内における上級生らのハラスメント行為を認定し、遺族に謝罪。それにともない宙組公演を休止したうえ、その後の俳優との契約形態を見直すなど、組織全体が大改革を余儀なくされている。
劇団員の急逝に端を発した一連の問題は記憶に新しく、宙組に向けられる世間の目がいまだ厳しいことを踏まえると、オフの時間に飲食する店選びにも配慮が必要だったようだ。とはいえ、タカラジェンヌともなれば嫌でも目立つ。居合わせた客が語る。
「隣の広間に大人数の女性の団体さんが入店されていたので、驚きました。ショートカットの男役風の人たちと、スカートコーデの娘役風の人たちがはっきり分かれていたので、宝塚の俳優さんだとすぐわかりました。余興でもやっていたのか、男役風の方が娘役風の衣装を着て登場して、座がどっと盛り上がっていました。2時間ほどで、さくっと切り上げていました。廊下で、未成年と思われる俳優さんの何人かとすれ違ったんですが、『食べ放題にしてほしかった。料理がめっちゃ少なすぎ!』とボヤいていて、思わず笑ってしまいました」
散会後、再び送迎バスで劇場に戻る者、お迎えの車に乗る者、めいめいにぎやかに帰路につくなかで、ひとり駐車場の自家用車でその場を後にしたのが宙組組長の松風輝(あきら)だ。松風は今回の『黒蜥蜴』千秋楽である9月6日付での退団が発表されている。
「組長とは各組のまとめ役で、組の運営を支える縁の下の力持ちともいうべき重要なポジションです。松風さんは副組長を経て、2023年6月に組長に就任してすぐ、あの自死事件に直面しました。2006年に92期生として入団し、初舞台から宙組という生え抜きだけに、管理職の責任も人一倍、痛感していたことでしょう。下級生に彼女の評判を聞くと『上級生のなかでいちばん優しいくらい』と、みんな口をそろえて話すんです。もともと体育会系ノリの人でしたが、ハラスメント報道があってからはだいぶ気を遣っていたみたいです。ただ、人望があるほうではなかったから、彼女なりに苦労していたのでは。組内の風通しをよくするよう、心を砕いていた点は評価していいと思います」(前出・関係者)
もっとも長年の“ヅカファン”からは、辛口な声も……。
「退団後、女優として活躍するにはよほどファンがいないと厳しいでしょうが、難しい気がします。専科(特定の組に所属しない劇団員で構成される部署)に行ったり、ダンス講師になったりという道もありますが、踊りがそこまで上手だったわけじゃないし……。
『黒蜥蜴』では、主人公の明智小五郎が途中で松風さんの役と入れ替わって、もうひとりの主人公である黒蜥蜴に近づくというキーパーソンの役どころではあります。退団ありきで割り当てられた配役なんじゃないかって、口が悪いファンの間では噂されていますよ」
松風の退団後、9月7日付で新組長に就任するのは現副組長の愛すみれ。交代は、宙組にどのような変化をもたらすのだろうか。
「パワハラ問題以降、多少減ったとはいえ、しごき体質もまだまだ残っているようです。組内の雰囲気はだいぶマシになっていたようですが……。組長が交代しても、とくに影響や変化はないかと思いますが、不安なのはトップ連中の組み合わせです。愛さんは、2009年入団の95期生。宙組トップスターの桜木さん、男役2番手の水美(みなみ)舞斗さんも95期です。要は95期で固まることで、よその組から組替えしてくる人も入ってきづらくなります。さらに上下関係の締めつけがきつくなり、萎縮することを心配する下級生も少なくありません。
ただでさえ95期生は『花の95期』と呼ばれ、卓越したスターを多数、輩出した黄金世代という別格扱い。現在のトップたちが退かない限り、トップになれないまま退団したり、旬が過ぎてしまったりする組子が続出して、宙組の組織が機能不全を起こす危惧はあります」(宝塚担当記者)
この“人事”に関して、劇団側の思惑を読み解く、違った見方もできるという。
「愛さんは2025年6月、雪組から宙組に組替えしてきた、いわば“新顔”。順当にいけば、もうひとりの現副組長・秋奈るいさんを組長に押し上げる流れだったはずですが、そうはなりませんでした。自死事件が影を落とし続ける宙組の古い体制を一気に刷新して、再出発を印象づけたいというのが歌劇団の本音かもしれません」(同前)
過去を清算し、生まれ変わることができるか否か。宙組が転換期を迎えているのは間違いない。
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