
『Shall we ダンス?』『それでもボクはやってない』などで知られる映画監督の周防正行氏(写真・共同通信)
9月1日、米国の老舗映画会社「ワーナー ブラザース」の日本支社「ワーナー ブラザース ジャパン(以下、WBジャパン)」は、自社のホームページ上に「当社従業員との間の訴訟についてのお知らせ」と題した文書を掲載した。
《当社は、当社プロデューサー関口大輔氏と係争中であった裁判に関して、当社と関口氏の間で友好的な和解合意に至りました。これに基づき、当社は、関口氏に対して行った解雇を撤回し、その上で、両者の円満な合意により関口氏は当社を離れることとなりました。本件は当事者間で解決済みであるため、関口氏の今後の映画業界における活動に制限は一切ありません。》
関口大輔氏は、WBジャパンのプロデューサーだった2024年9月、同社からまったく身に覚えのない不正行為の疑いをかけられたうえに突如、解雇された。これを受けて即座に同社を相手取り、不当解雇の撤回を求めて労働審判を申立てるも解決せず、2024年12月に提訴していた。
今回の関口氏へのWBジャパンの不当解雇を撤回するまでの経緯については、本誌Smart FLASHの『【独自】映画『それでもボクはやってない』有名Pの“冤罪解雇”をワーナー日本支社が完全撤回…2年間の裁判で潔白証明も残る“悪評”被害』にて詳報している。
関口氏の解雇撤回を受け、関口氏と親交の深い映画監督の周防正行氏と、俳優で脚本家・演出家の宅間孝行氏がコメントを本誌に寄稿。その全文を掲載する。
まずは、映画監督の周防氏。周防氏は関口氏がフジテレビ時代にプロデューサーを務めた映画『それでもボクはやってない』(2007年)で、監督としてメガホンを取ったという親しい間柄だ。第1回口頭弁論を傍聴し、傍聴後に本誌の取材に「裁判では関口さんを応援します」と話していた。
《私がここでコメントするのは、全て関口さんご本人の名誉および信頼回復のためである。なぜなら裁判とは、たとえ勝訴したとしても、当事者のそれまでの人生で得た信頼や名誉、業績の全てを失いかねないほど過酷なものだからだ。特に、個人が大きな組織と争うことで、どれほど精神的肉体的に追い詰められ、経済的にも大きな負担を強いられるか理解していただきたい。
例えば裁判では、弁護士が代理人として闘ってくれるので、個人の負担は大きなものではないと考える人がいる。しかし、それは間違っている。多くの裁判を取材してきたが、刑事にしても民事にしても当事者が必死に闘わなければ勝てるものではないと断言しておく。
今回、関口さんは会社に不当解雇されたことで、会社側を訴え、民事裁判を闘うことになった。裁判において会社側は、解雇理由として挙げた3つの事実を立証することができなかった。もちろん、それは当事者として関口さんが証拠を揃え、事実関係を丁寧に立証することができたからである。しかしその立証するためのご苦労たるや大変なことだったと思う。ご本人だけでなく、ご家族まで精神的に追い詰められることで、日常生活にも大きな支障が生じたことは気の毒でならない。関口さんを心配される多くの方のご支援、弁護士の働きがあって初めて裁判を闘うことができたのであり、当事者が全てを弁護士に委ねて涼しい顔をして裁判を闘うことなどできはしない。
裁判の結果、会社側の主張は、全て根拠のない言いがかりであることが明らかになった。ところが、裁判が和解に終わると、その内容がどこまで第三者に明らかにされるかわからないので、あえて申し上げておくと、関口さんには何の不正もないことが明らかになったのである。
それにしても、会社側のこれまでの関口さんに対する行為は、およそ誹謗中傷、名誉毀損に当たるものだと考えざるをえない。例えば、関口さんに解雇を告げる前から、関口さんが不正行為を働き会社を裏切ったという情報を業界関係者に流しつつ、不正を決めつけるような調査を行っていたことが明らかになっている。
私が裁判を傍聴し、関口さんを信頼する旨のコメントを発した時も、ある業界関係者から「あまり深入りされない方が良いですよ。色々調査が入っていて何が出てくるかわかりませんから」と忠告された。それはとりもなおさず、会社側が関口さんについて何か悪事を働いたかのような情報を流していたからではないだろうか。ただでさえ裁判になれば、周りは憶測で色々なことを言って本人の名誉を傷つけるような結果を招くことは日常茶飯事である。だからこそ裁判で何が争われ、何が事実として認められたかを注意深く見ていかなければならない。そうでなければ、裁判で争ったという事実、その争いの中で会社側が流布したさまざまな情報により、関口さんの信頼や名誉、業績の全てが否定されるようなことになりかねない。そのことが心配でならない。
少なくとも関口さんには、以前のようにプロデューサーとして十分な仕事ができるような環境を取り戻していただかなければならないし、何よりもご家族や友人たちとの、これまで築き上げてきた信頼関係が壊れることのないようにしなければならない。そのために一文を寄稿させていただいたが、刑事裁判でいえば、関口さんは真っ白な無罪、無実であったのだから、以前のような生活を取り戻すことができなければ、これほど理不尽なことはない。》
次に、俳優で脚本家・演出家の宅間孝行氏。宅間氏が原作・脚本・演出を担当したドラマ『間違われちゃった男』(フジテレビ系、2013年)では関口氏がプロデューサーを務め、公私にわたり親交が深い。
《関口さんの身に起こった、この恐ろしい冤罪とも言える不当解雇の直後から、丸2年近くの間、私は戦い苦しんだ彼を間近で見てきました。今回、完全なる無罪判決とも言える「和解」の結論に至り、率直に言って、私はホッとしました。心の底からホッとすると共に、よくぞここまで耐え抜いた、頑張ったと感動すら覚えております。
相手は世界に名だたる大企業ワーナー・ブラザースです。当然潰されてしまうのではないかと危惧しておりました。そもそもこんな大企業が、こんな分かりやすい冤罪を生み出すのか、という事にも恐怖に似た衝撃を覚えました。そして、かなり早い段階から手詰まりで、何の証拠も出せないにも関わらず、ダラダラと裁判を引っ張る弁護手法にも強い憤りを覚えました。人権を尊重するコンプライアンスが、むしろ過剰とも言われる現代で、解雇の過程から裁判中に至るまで企業として全く機能していなかった事も異常と言わざるをえません。実際のところで言えば、企業というのは人の集合体です。今回は企業が悪い、というよりは、企業を語る数人のとんでもない輩が、会社の力を以て個人を潰しにきたという印象でした。
今回の一件に関する経緯は色々な観点からも世間がきちんと知るべき事案であると考えています。それが、私が今回この件に関してコメントを寄せる理由の一つでもあります。
関口大輔氏は、とにかく映画を愛する男です。憚らずに言えば、究極の映画オタクです。そんな映画バカの男がプロデューサーになって、映画愛を爆発させて何本ものヒット映画を作ってきました。博打とも言える映画の世界でここまで結果を出してきたプロデューサーは極めて稀な存在です。
それもフジテレビやワーナーの看板で勝負するのではなく『ウォーターボーイズ』『スウィングガールズ』『それでもボクはやってない』などこぢんまりとした良作を大ヒットに導く。その手腕は他に類を見ません。ここ数年では大ヒットした『余命10年』『はたらく細胞』『フロントライン』などの大作も彼の作品です。
映画で一発当てたい山師的なプロデューサーもこの世界には沢山います。業界に漂う事に酔った本質のない軽薄なプロデューサーも沢山います。しかし映画がとにかく好きで、その好きな映画に関わる事で、自らは元より関わるスタッフも含めてみんなで幸せになりたいと思うプロデューサーも少なからずいます。関口さんはそういう人です。
日本の業界の慣例では、クリエイターつまり監督や脚本家は金銭的な恩恵が劇的に少ない。そう言った事にも気にかけています。映画オタクだからこそ映画スタッフに多大なるリスペクトを持っていて、きちんと金銭的な恩恵も受けるべきだという考えを持っています。映画に関わるテクニカルなこと、技術的な面での知識も豊富で、現場でもとても頼りになる。こんなプロデューサーは、いそうで中々いない。今まで一緒に仕事をした人たちなら、キャストスタッフ問わず皆、「素晴らしいプロデューサー」と評するに違いありません。
ではなぜ、そんな彼が貶められることになったのか。私の場合、内部事情には全く精通しておりません。様々なところからの伝聞や噂による、ここからは私の個人的な考察ですが、彼の功績や才能、そして人望に対する嫉妬が大きく関係しているのではないか、と思わざるをえないのです。大ヒットを連発し、会社にここまでの利益をもたらした人材をこんな理不尽な形で追い詰めて亡きものにする行為は、個人的な感情、つまり恨みつらみ以外に考えられない。言動も正しい上に結果も伴う人間から、正論を伝えられた時、それを面白くないと思う人が逆恨みをする。不真面目な人が真面目な人に注意をされて、本業では太刀打ちできないので理不尽な行動に走ってでも嫌がらせをする。そんな構図が浮かび上がってくるのではないか。あくまで私の見解です。
今回の解雇にまつわる経緯ですが、経費の流用が疑われ、きちんとした調査もない中で、いきなり断定され解雇に至ったようです。経費の差配はプロデューサーの主な仕事の一つですが、諸経費の付け替えなどは、むしろ一般的だと思われます。誰しもがやっている事。慣例。だから、きちんとした調査もせずに解雇を決めたのではないか。叩いて埃が出ないプロデューサーは皆無だと思ったのでしょう。
ところが関口さんに関しては、調べても調べても全く埃が出なかった。経費運用、金絡みに関して清廉潔白で、非の打ち所が全くなかった。むしろ、これは皮肉にも、関口さんの極めて常識的な人間性、更には追い詰めた側の人たちの、当然の慣例、悪しき常識が露呈してしまったのではないでしょうか。
しかしながら、相手方が彼をいくら憎いと思ったとしても、何らかの個人的な嫌悪感や嫉妬を抱いていたとしても、元社長の高橋氏が裁判所に提出した陳述書を見るに、解雇の結論ありきで形式的な調査しか行わず、これまで問題を起こしたことがない関口さんを一発で解雇したやり方は会社として手順が杜撰すぎるし、突然、自宅待機にして外部との連絡を遮断して関口さんに説明させない状況にした上で関口さんが経費流用で解雇になると悪評を流布したやり方も、人道的には信じ難いプロセスです。きっとこれまでもこういったやり方が罷り通ってきたのではないか、そう邪推せざるをえません。
人を楽しませるエンタテインメントを作る我々の業界で、夢を売るべき我々の世界で、最も観たくないものを見せられている思いでした。世の中には唾棄すべき不正や悪行も横行していますが、我々の世界、エンタメを売るこの世界くらいは正義と清廉潔白の上に成り立ってほしい。そんな想いを自戒も込めて抱いております。
私と関口さんの個人的な関係としては、会えば酒を酌み交わしながら、「あの映画を観たか、あのドラマをチェックしたか?」「このマニアックな映画を知っているか」「あの映画のここは凄い、問題点はここではないか」そんなこんなの話に終始します。互いの知見を刺激し合い、次の作品作りへの活力として、と、さながら映画製作に憧れる若者たちと同じような会話を未だに繰り返しています。映画を作ることを生き甲斐とし、誠実にこの世界に従事し、結果まで出してきた映画バカである彼の活動を止める事が、この日本映画界に於いてどれほど大きな損失となるか。自らが起こした不祥事ならともかく、嫉妬に駆られた末の理不尽な制裁だとしたら、これは大袈裟ではなく、日本映画界での大事件だと思っています。
今回の件を通して、この世の中にはこれほどまでの理不尽が罷り通ってしまう恐怖が数限りなく存在するのでは、と実感させられました。大企業相手に戦っても勝てっこないと、そのまま理不尽を甘んじて受け入れる人が多いのではないか。そんな中、彼は闘う選択をした。常に快活に映画を語る彼の、未だかつてない弱々しい姿、それでも負けてなるものかと必死に自分を奮い立たせようとする姿を、私はこの2年間ずっと見てきました。謂れのない解雇とそれに伴う「悪評の流布」で濡れ衣を着せられた絶望、更に愛する映画界から強制的に退場させられる恐怖に、関口さんがどれほど苦しんだか。遅々として進まない裁判は、関口さんへの金銭的、心理的なプレッシャーを狙った相手方の作戦のようでした。長期になればなるほど、大企業を相手にした個人は不利になる。巨大な外資系企業を相手にたった一人で理不尽な行為に立ち向かった満身創痍の彼の2年間はまさに筆舌に尽くし難いものでした。
しかし、やっと、本当にやっとのことで、この度、正義は守られました。関口さんは何とか耐えて耐えて耐えて、戦い抜いた。「やってない事をやった事にされたくない」という個人の尊厳を守るという決意を何とか貫いて、映画やドラマで語られるような大逆転が起きました。
これは当然の結果でありながら奇跡です。その正義が守られた事に、心から、本当に心から安堵するとともに、戦い抜いた彼を一人の人間として、そして物語と正義を信じる一映画人として、誇りに思います。そして、この彼の壮絶とも言えた戦いが、世の中に知られる事によって理不尽に苦しむ誰かの勇気になる事を祈ります。
今回のこのような事、つまりは個人的な私怨から企業の名を借りて行う粛清行為や、未成熟に定義されたハラスメントやコンプライアンスの名の下に、個人を抹殺するような事が蔓延っているなら、きちんと業界として社会として検証すべきです。そして、汚名を雪ぎ、無罪であったこと、冤罪であったことが確定した今、悪評を信じていた業界が、この結果を素直に認めて受け入れる事が正義であると思っています。関口さんが愛する映画界で再び活動を続け、活躍する事を心より願っています。》
大企業相手に理不尽な不当解雇を撤回させた関口氏。しかし、周防氏や宅間氏が呼びかけたように、関口氏がこの間に失ったものを取り戻し、今後もプロデューサーとして作品に取り組んでいけるよう、業界としての検証やバックアップも必要になってくるだろう。
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