かつてワーナー ブラザース ジャパンが入居していたビルの受付に掲げられた「ワーナー ブラザース」のロゴ(写真・田中昭男)
9月1日、「ワーナー ブラザース ジャパン(以下、WBジャパン)」は、自社のホームページ上に「当社従業員との間の訴訟についてのお知らせ」と題した文書を掲載した。
《当社は、当社プロデューサー関口大輔氏と係争中であった裁判に関して、当社と関口氏の間で友好的な和解合意に至りました。これに基づき、当社は、関口氏に対して行った解雇を撤回し、その上で、両者の円満な合意により関口氏は当社を離れることとなりました。本件は当事者間で解決済みであるため、関口氏の今後の映画業界における活動に制限は一切ありません。》
WBジャパンは『ハリー・ポッター』シリーズなどで知られる米国の老舗映画会社「ワーナー ブラザース」(以下、WB本社)の日本支社だ。
関口大輔氏はWBジャパンのプロデューサーだった2024年9月、同社からまったく身に覚えのない不正行為の疑いをかけられたうえに突如、解雇された。これを受けて即座に同社を相手取り、不当解雇の撤回を求め、労働審判を申し立てるも解決せず、2024年12月に提訴(提訴に至るまでの経緯は、本誌Smart FLASH 2025年1月27日配信の《「ワーナー ブラザース」日本支社“冤罪”解雇を『それでもボクはやってない』有名Pが実名告発…『はたらく細胞』でも“手柄横取り”被害》、2025年1月30日配信《「応援します」傍聴した周防正行監督も“冤罪被害”盟友Pにエール…ワーナー ブラザース日本支社「不当解雇」裁判が始まった!》にて詳報)。
2025年1月30日に東京地裁で第1回口頭弁論がおこなわれ、それから1年半にわたる裁判の結果、裁判記録によると2026年7月30日に和解が成立していた。
関口氏は、フジテレビ時代に映画『ウォーターボーイズ』(矢口史靖監督、2001年)、『それでもボクはやってない』(周防正行監督、2007年)などヒット作を連発。映画プロデューサーとして名をはせ、WBジャパン移籍後の2022年には映画『余命10年』(藤井道人監督)で興行収入30億円以上のヒットを飛ばすなど、映画・ドラマ業界において有名プロデューサーとして知られている。
関口氏が不当解雇に至ったきっかけは、2024年3月末まで日本支社社長を務めていた高橋雅美氏が退任したことだった。
「WB本社は、外部からバディ・マリーニ氏を招聘し、職務執行者として日本支社の社長に着任させました。すると、これまで“営業畑”であり、映画制作の経験のない上席執行役員の山田邦雄氏(現在は松竹の映画営業部・映画宣伝部・海外事業部シニアフェロー)が、映画製作事業の統括責任者になったのです。その後、山田氏らによる不可解な人事がおこなわれ、それまで高橋氏に重用されていた幹部社員が、理由もなく続々と降格させられました。なかでも、それまで邦画製作部長として制作統括をおこなっていた関口氏を、役職なしのプロデューサーに降格させ、山田氏と距離が近い小岩井宏悦(ひろよし、現在はWBジャパン作品契約プロデューサー)氏をその立場に昇格させたのは、露骨な“側近”の重用でした。小岩井氏もフジテレビ出身で、関口氏の先輩になりますが、関口氏はプロデューサーとしての実績が評価されたことで、2023年1月からは小岩井氏を追い抜く形で、邦画製作部長に就任していました」(元WBジャパン関係者)
降格人事のあと、関口氏は企画立案から携わっていた映画の現場や会議から外されたり、メールを無視されたりするなどのハラスメントが頻発。そして、露骨な関口氏外しが敢行され、さらにエスカレートしていく。
「2024年5月に突如、撮影前からプロデューサーとして奔走していた関口氏が、映画『はたらく細胞』(武内英樹監督)の現場から外され、2024年12月に公開された映画には、いっさいこの映画にかかわっていない小岩井氏の名前がクレジットされることになりました。この映画をめぐっては、配信契約の騒動で山田氏が関口氏らに対しておこなった“恫喝”はWB本社からパワハラ認定を受けています」(同前)
そうした状況のなか、2024年7月、関口氏は突然、人事担当役員に呼び出される。人事担当役員とその場に同席したWBジャパンの代理人弁護士の2名から、2019年に仕事のためにおこなった海外渡航を“私的旅行”だったとされ、その渡航費用を関口氏が映画の制作費から横領したという事実無根の疑いをかけられた。関口氏は事実ではないと弁明するも、携帯電話、入館証を取り上げられ、自宅待機と社員および社外の業務関係者との連絡禁止を命じられたのだった。
「関口氏を会社から追い出した翌日には緊急会議が開かれ、山田氏が関口氏の冤罪を事実のように話し、一部の会議では『関口の行為は刑事事件になるかもしれないから連絡を取るな』と社員に告げていました。ひどかったのは、小岩井氏による関口氏の“悪評の流布”でした。『関口が制作費の横領で懲戒解雇される』と小岩井氏が広めていたことを、社内ではなく社外の関係者から聞かされました。小岩井氏はまったく根拠のないデマを、業界中に積極的に話して回っていたのです。小岩井氏はWB本社から、関口氏に対する悪評の流布を止めるよう、注意を受けたにもかかわらず、関口氏とWBジャパンの裁判が始まってからもずっと、悪評の流布を続けていました」(同前)
関口氏の解雇を最終的に決めたのは、WBジャパン社長のバディ・マリーニ氏(現在はAmazon MGM スタジオ ジャパン最高責任者)だったが、WBジャパン側は、関口氏が不正をおこなったとする2019年当時に、WBジャパン社長だった高橋氏や当時の人事担当役員だった人物にいっさい聞き取り調査などをすることなく、解雇を決定している。
このWBジャパンのずさんな調査に対しては、元社長の高橋氏も、裁判所に提出した陳述書で以下のように記し、批判している。
《関口さんは、正式な解雇処分をうける前、2024年7月に、いきなり会社から自宅待機を告げられ、PCなどを取りあげられ、社内外の関係者に対する一切の連絡を禁止する業務命令を受けたと聞いています。私は、そのような業務命令を出したことも経験したこともありません。会社内外の一切の関係者との連絡を絶たせるなど、どれも行き過ぎで、当該社員の名誉や信用問題に関わる対応だと思いました。》
《そもそも「横領」「解雇」などという社員の名誉、信用に関わる情報が、調査が終わる前から外部に流出し、WBJ(※編集部注 WBジャパンのこと)外の方から元社長である私の元にもたらされたということ自体異常な事でした。私が代表を務めていた頃にも問題を起こした社員は複数いましたが、その情報はセンシティブな情報として社内でも限られた人物のみで共有し、社外に出したことは一度もありませんでした。また、そのような情報が社外に出ないよう細心の注意を払い、内容を知る役員らにも厳しく注意していました。その社員に今後にも関わる重要な情報だからです。しかし、関口さんの件は、調査も未了で、確かな情報がない時期だったにもかかわらず、「解雇する」という会社の最終処分がすでに決まったものとして一部の社員から外部へアナウンスされていたということが大変異常なことでした。》
そして、こうも記している。
《関口さんに対するWBJの解雇から本件訴訟に至る対応は、異常な、おかしなことがたくさんあります。もともと、関口さんに対する解雇理由は、制作費を使って、妻と私的な海外旅行へ行った、という嫌疑だったのです。しかし、会社はそのような事実はない、とわかってからも、「解雇通知書 兼 解雇理由書」の解雇事由(ストーリー)を作り、関口さんを解雇してしまいました。本来解雇理由が変遷していくなんて、おかしなことです。しかも、解雇理由書に書かれた3つの解雇理由は、実態とは異なる内容で、どれも関口さんを解雇できるような事情ではないと思います。私が代表を続けていたらこのようなことで関口さんを解雇することはありませんでした。今回の関口さんの解雇は、いずれも、私が社長在任期間中に、社長である私が承認した事、つまり当時何ら問題ではなかった事を理由に、私が社長を退いた後に、当時社長であった私に何の確認もなく行われました。会社は、あえて、当時の代表である私からは話を聞かずに、後日寄せ集めた資料によって、関口さんが悪いというストーリーを作り解雇までしてしまった。これが何より異常なことだと思います。》
当時を知る元WBジャパン幹部は「関口氏を現場からすべて外すというのも、行きすぎた業務命令だと思っています。関口氏の渡航は業務上の渡航でした。こうした事実を無視した、無理やりな解雇処分は私も不当だと感じています」と話していた。
裁判の過程では、関口氏の海外渡航について、関口氏側が業務であった証拠を開示したが、WBジャパン側は関口氏の横領を証明することはできなかった。
「関口氏に海外渡航の正当性を証明されたWBジャパン側は『映画制作の際のメイキング番組の制作費が高いこと』や『関口氏が制作会社にメイキング番組の制作費の一部を横領するよう指示した』という主張をしましたが、制作費は事前にWBジャパン自身が承認を与えており、しかもその時点で、制作費の金額が高いことについてWBジャパンからの指摘はありませんでした。また、関口氏による制作会社への指示についても、WBジャパンは関口氏の不正を示す証拠を示すことができませんでした。その結果、2025年11月ごろには、裁判官が『関口氏の解雇は不当』という心証を開示していたほどでした」(前出・元WBジャパン関係者)
そして、今回のWBジャパンによる関口氏の解雇撤回を受け、関口氏と親交の深い映画監督の周防正行氏と俳優で脚本家・演出家の宅間孝行氏が、本誌に寄稿してくれた(コメントの全文は本誌Smart FLASHの『周防正行氏「信頼関係が壊れることのないように」宅間孝行氏「世間がきちんと知るべき事案」ワーナー日本支社、有名Pの“冤罪解雇”完全撤回で本誌にコメント【全文掲載】》に掲載)。
その寄稿のなかで周防氏は
《個人が大きな組織と争うことで、どれほど精神的肉体的に追い詰められ、経済的にも大きな負担を強いられるか理解していただきたい。(中略)多くの裁判を取材してきたが、刑事にしても民事にしても当事者が必死に闘わなければ勝てるものではないと断言しておく。(中略)裁判の結果、会社側の主張は、全て根拠のない言いがかりであることが明らかになった。ところが、裁判が和解に終わると、その内容がどこまで第三者に明らかにされるかわからないので、あえて申し上げておくと、関口さんには何の不正もないことが明らかになったのである。
それにしても、会社側のこれまでの関口さんに対する行為は、およそ誹謗中傷、名誉毀損に当たるものだと考えざるをえない。例えば、関口さんに解雇を告げる前から、関口さんが不正行為を働き会社を裏切ったという情報を業界関係者に流しつつ、不正を決めつけるような調査を行っていたことが明らかになっている。(中略)刑事裁判でいえば、関口さんは真っ白な無罪、無実であったのだから、以前のような生活を取り戻すことができなければ、これほど理不尽なことはない》
と、大企業相手に個人として裁判を戦い抜いた関口氏を称えつつ、WBジャパンによる解雇の不当さを指摘。悪評の流布により、仕事や生活に支障をきたしている関口氏を慮った。
また、宅間氏は、
《そもそもこんな大企業が、こんな分かりやすい冤罪を生み出すのか、という事にも恐怖に似た衝撃を覚えました。そして、かなり早い段階から手詰まりで、何の証拠も出せないにも関わらず、ダラダラと裁判を引っ張る弁護手法にも強い憤りを覚えました。人権を尊重するコンプライアンスが、むしろ過剰とも言われる現代で、解雇の過程から裁判中に至るまで企業として全く機能していなかった事も異常と言わざるを得ません。(中略)今回のこのような事、つまりは個人的な私怨から企業の名を借りて行う粛清行為や、未成熟に定義されたハラスメントやコンプライアンスの名の下に、個人を抹殺するような事が蔓延っているなら、きちんと業界として社会として検証すべきです。そして、汚名を雪ぎ、無罪であったこと、冤罪であったことが確定した今、悪評を信じていた業界が、この結果を素直に認めて受け入れる事が正義であると思っています。関口さんが愛する映画界で再び活動を続け、活躍する事を心より願っています。》
と、映画業界としても今回の件を検証すべきと提唱している。
本誌は、WBジャパンに、今回の発表は関口氏に対する解雇が不当だったと認めたということか、また、小岩井氏による悪評の流布について処分はあるのか、などについて質問状を送付したが、期日までに回答はなかった。
また、山田氏がシニアフェローを務める松竹に対して、質問状を送付し、今回のWBジャパンの関口氏の解雇撤回の発表を把握していたか尋ねたところ《解雇撤回の合意につきましては、9月1日付けのワーナー様のリリースで初めて知りました》と回答があった。山田氏がWBジャパン在職当時、関口氏らへのパワハラがWB本社からパワハラ認定されていたことことを把握していたかについては《山田氏と関口氏のトラブルについては、報道の限度において知ってはいましたが、ワーナー様の認定については存じていませんでした》と回答し、今後、山田氏が関口氏に対する悪評の流布をしていたことを調査するかについては《今後の問題としては、ハラスメント調査、啓発及び教育の一環として遂行して参りますが、入社前の過去のことについての調査は考えておりません》ということだった。
そして、本誌は9月1日、小岩井氏の携帯電話の留守電、ショートメールにて関口氏についての悪評の流布をおこなった意図などを質問したが、期限までに回答はなかった。
関口氏は不当解雇が認められたことを受け、9月1日、自身のFacebookに現在の心境などについて次のように投稿した。
《ご報告 私とワーナー・ブラザースは、係争中であった不当解雇に関する裁判に関して和解合意に至りました。ワーナー側が私が行ったと主張する横領の事実はないことが証明され、解雇は撤回されました。
約2年かけ裁判で争い、最終的に私が悪事を働いていないことを証明することができました。これまで私を信じ、支援し続けてくださった多くの関係者、友人、親族にはとても感謝しております。支援者がいなかったら私は途中で心が折れていました。そして、厳しい裁判を支え続けてくれた弁護団にもお礼をしたいです。
でっちあげられた私への悪評を聞き、私と連絡を断つよう社員に業務命令を出した企業の皆様、面白おかしく拡散したテレビ局の皆さん、映画業界の方々、噂を信じ私から距離を取った方々には、今回の結果をご理解いただき、私を拒絶することをやめていただけると幸いです。
冤罪事件を描いた映画「それでもボクはやってない」のプロデューサーである私が冤罪事件に巻き込まれるとは、奇妙な運命です。実際に冤罪事件の被害者になってみて分かったことは、冤罪被害者は、極めて過酷で理不尽な環境に身を置かねばならないということです。全く身に覚えのないことをやったと決めつけられ、まるで犯罪者のように扱われ、今まで築き上げてきたプロデューサーとしての信頼や地位が破壊され、仕事も人生も、全て奪われてしまう。これほど過酷で理不尽なことはありません。この理不尽を自分の人生に突きつけられるという恐怖と怒りを経験し、映画の主人公の気持ちを今更ながら実感しました。
そして、1人のサラリーマンが無実を証明するために、収入をたたれた状態で2年間に渡り大企業を相手に裁判を維持することの大変さを知りました。
残念ながら私が職場にいない間にワーナー・ブラザースは無くなることになったとワーナー・ブラザースから伺いました。私にはこれからもお客さんに喜んでいただける作品を作りたいという意欲がありますので、別の場所で今まで通り、お客さんの心に残る作品を作り続けていくつもりです。そして映画・ドラマ制作スタッフやキャストの皆さんが気持ちよく作品作りに邁進できる環境整備も進めていきたいです。
新たな目標として、企業の不当なハラスメントや冤罪に巻き込まれた方々を支援すべく活動をしていく所存です。
今後も裁判以前のようにお付き合いをよろしくお願いいたします。 関口大輔 》
大企業相手に理不尽な不当解雇を撤回させた関口氏が今後、どんな作品をプロデュースしていくのか注目したい。
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