
久保ひとみ(写真・木村哲夫)
「もともと、しゃべる仕事が好きだったんですよね」
こう笑顔で話す、ローカルタレントの久保ひとみ。静岡では知らない人はいないと言われ「久保ちゃん」の愛称で親しまれている。
短大卒業後は、幼稚園の先生を1年経験。その後、ちょっと都会に行きたいという気持ちもあり、以前から興味があった大阪のイベント会社に入り、経理を担当する。ところがバブル崩壊のあおりを受け、2年ほどで倒産してしまう。
「仕事を転々としましたが、自分が好きだと思える仕事をすれば、失敗しても後悔しないと思ったんです。もともとしゃべることが好きだったので、アナウンサーやタレントを目指す学校へ通いました。その後、事務所で紹介していただいた仕事で、しゃべる仕事をスタートさせました。最初はイベントのキャラクターショーの仕事などで、初めてのレギュラーは、当時のオリックス・ブルーウェーブを応援するラジオ番組でした。すごく楽しくて、しゃべる仕事は自分に合ってるかもしれないと感じていました」
その後も大阪で活動していた久保だったが、父親ががんを患い、余命半年の宣告を受ける。
「それまで、父には心配ばかりかけてきて、一緒に過ごす時間もあまりなかったので、一緒に過ごしたいなと思って。それで大阪での仕事はすべて辞めて、地元の浜松に戻ってきました。父を見送った後、せっかくしゃべる仕事をしていたので、静岡でも続けたいと思ったんです」
そこで紹介してもらった仕事のひとつが、いまではMCを務めている『まるごと』(静岡第一テレビ)だ。最初は月2回程度のレポーターで、ラジオ番組が週に1回。
「しゃべる仕事を続けてはいましたが、アルバイトもやったりしていました。まさか、いまみたいにバリバリ仕事ができるとは思っていなかったです(笑)」
その後、結婚、出産で一度、すべての仕事から離れた。出産してから4カ月後、『まるごと』から「レポーターが足りないので、月に1回でいいから出られないか」とのオファーが届く。
「まさか声がかかるとは思わなかったので、子どもも小さいし、どうしようと思ったんですが、月に1回ならなんとかなるかなと思い、復帰することにしました。そこから徐々に仕事が増えていった感じです。最初は不定期のレポーター、それが週3回になって、週4回で中継にも行って、となり、MCやってよ、みたいな(笑)。子育てしながらリクエストに応えていったら、いまの状態になった感じです」
『まるごと』の出演は約30年、MCは20年近く続けている。番組は月曜~金曜の18時15分からだが、その前にロケに行ったりと、忙しい毎日だ。30年間、浜松市から静岡市まで新幹線で通っている。土曜日はラジオの『らじコン』(K-MIX)がある。
「ラジオならではの楽しさもあり、ずっと並行してやらせていただいているのですが、ありがたいことだと思っています。私もいい年齢になったので、疲れが取れないこともあるのですが、なんとか乗り切ってがんばっています(笑)」
久保はローカルタレントについて、こんなふうに話す。
「とにかく視聴者やリスナーとの距離が近いんです。みなさんにとって、親戚のおばさんぐらい、友達ぐらいの距離なんです。私は、一緒の高さにいる近所のおばさんみたいなイメージだと思うんです。そんな感じが、今回のランキングにあらわれているのかなって。東京へ出ている大学生が、実家に帰ってきて、テレビに出ている私を見ると『静岡に帰ってきたなあ』と思うみたいです。静岡の象徴のおばさんというか、安心する存在なのかなって思います」
久保が語る“親戚のおばさんぐらいの存在”。これを象徴する爆笑エピソードがいくつもある。
「突然『久保ちゃん、今日は何? ロケ?』なんて話しかけられることは、しょっちゅう。先日は新幹線の隣に座っていた浜松のおばさまに『久保ちゃん、悪いけどゴミ捨ててきて』って言われちゃって。まったく知らない方ですよ、それぐらい距離が近いんです(笑)。街なかで、酔っ払ったサラリーマン20人ぐらいに、胴上げされたこともあるんですよ。『久保ちゃん!』って言われて、わっしょい、わっしょいって宙に舞いました(笑)。人生で、胴上げされる経験ってあまりないと思うんですけど、私は見ず知らずの人にされましたからね。それは私がそれだけ愛されているから? いやいや、この人なら何をやっても大丈夫、何をやっても許されるって感じじゃないですかね(笑)」
“久保ちゃん人気”はこれだけではない。『まるごと』の30周年を記念して2年前から、かつておこなわれていた人気コンテンツの「久保ひとみツアー」が14年ぶりに復活。半年に1度開催されているが、応募者が絶えないという。
「私と一緒に番組のMCをやっている、秋元啓二アナウンサーが同行して、100人ぐらいの参加者を連れて旅行します。バスのなかで盛り上げて、観光地でロケをして、夜は大宴会(笑)。復活してから最初は長野1泊2日、その後は横浜日帰りツアー、北海道2泊3日、沖縄2泊3日。今度は大阪京都2泊3日です。たいへんですけど、毎回、やってよかったなって思いますね」
これだけ静岡県民に好かれている人はいないだろう。『まるごと』が人気番組ということもあり、静岡で育った芸能人にも“久保ちゃん好き”は多い。俳優の広瀬アリス・すず姉妹も『まるごと』を小さいころから観て育ったようだ。
「お2人は、お会いしたときに『久保ちゃん!』と言ってくださって。すずちゃんはインタビューに3回ぐらい行って、『まるごと』のスタジオにも2回ぐらい来てくれましたね。最初は10代のころに『まるごと』の生放送に来てくださって、『久保ちゃーん! 会いたかったです!!』って言ってくれて、めっちゃうれしかったです。長くやっていると、こういうご褒美もあるよなと思って。静岡出身のみなさんは、テレビをつけると私がいる、みたいに頭に刷り込まれて育っているというか。静岡からどんどん有名人を輩出して『ちっちゃいころ、見てました』って言ってくれる人が、どんどん増えたらいいなって思います(笑)」
久保のファンは静岡出身者だけではない。ミュージシャンの桑田佳祐も、自身のラジオ番組で、久保のことを話したという。
「『知ってますか、みなさん。静岡に、坂田(利夫)師匠に似た久保ちゃんって人がいてね。これがおもしろいんだよ』みたいな感じで、ラジオで何回か話してくださったみたい。私は生では聞いてなかったんですが、知り合いからたくさんLINEがきて『ええ~!!』って。私が担当しているラジオ番組の系列局だったので、それを収録したものをいただいて、いまも宝物として持っています(笑)」
これだけ多くの人に愛されていれば納得だが、久保は“静岡のCM女王”ともいわれる。契約本数を聞くと、本人は謙遜しながらこう答える。
「ありがたいことに、いまは18本です。ずっと長くやっているのはもちろんですが『スキャンダルがなさそうな安心感』とよく言われます(笑)。儲かってる? そんなそんな。みなさんがやっていらっしゃる1本が、私の18本分だと思いますよ(笑)」
「全国デビューは?」と聞くと、「微塵も考えていない」と笑う。
「よく聞かれますが、活動拠点はこれからも静岡で、東京進出はまったく考えてないです。東京の番組に出ると、静岡のみなさんが喜んでくれるのはうれしい。やっぱり『おらが町の久保ちゃん』なんでしょうね(笑)」
活動拠点は静岡と言い切る久保に、静岡の魅力を聞いた。
「静岡県民は、静岡から生まれたものを応援する“静岡愛”が強いんです。人は穏やかで食べものもおいしい、気候がいい、お店もそろってる。私も都会にあこがれて大阪に行きましたが、離れると静岡のよさを感じるんですよね。住み心地でいったら、静岡は全国的にもナンバーワンだと思います。なかでもひとつ、推しを選ぶなら、迷わず富士山です。私は浜松市民なので、富士山はほとんど見えないんですが、静岡まで来るときれいに見えます。富士山のある街ってすごいと思います。いまでも富士山が見えると、ちょっとうれしい。それぐらいパワーがあります。山梨と半分こで共有できたら(笑)」
5年ほど前からゴルフを始め、「人生で初めてハマったかもしれない」と笑う。
「自宅から30分ほどのところに練習場があるんです。得意なクラブはドライバー。ただし、飛ばすわけでなく、まっすぐいきます、私の気持ちと一緒で(笑)。今年、初めて100を切ったんですが、誰も信じてくれないんですよ」
最後に、久保が30年出演してきた静岡のローカル番組『まるごと』について聞いた。
「静岡県の方だったら、番組の名前を知らない方がいないぐらい。30年やっているので、3世代で見てくれている番組です。静岡に密着した放送を続けて、10月には8000回を迎えます。静岡のみなさんの期待を裏切らないように、静岡のみなさんに元気に笑顔になっていただくために、これからもスタッフ一同、力を合わせて、目いっぱい楽しい番組を作っていきたいです。静岡以外に行かれた方も、帰ってきたら観てください。いつでも久保のおばちゃんが待っています(笑)」
写真・木村哲夫
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