
『今日も眠れない』(光文社)を刊行した高知東生(写真・金谷千治)
俳優・高知東生の小説『今日も眠れない』(光文社)が10月21日に発売された。2023年には自伝的小説の『土竜(もぐら)』を発表していたが、今回の単行本には6つの短編が収録され、それぞれの登場人物たちは性別や年齢などはバラバラ。しかし、主人公たちはいずれも自身の不器用さや弱さから、のっぴきならない状況に置かれている。今回の作品はどのように執筆したのか、高知に話を聞いた。
「ご存じのように、自分は薬物依存症になり逮捕されたことがあります。それをきっかけに自助グループと出会いました。同じ依存症を抱えた人たちが集まり、体験や思いを分かち合い、支え合うんです。『12ステップ』という依存症から回復するためのプログラムにも取り組んでいます。
そうしたなかで多くの人と出会い、さまざまな経験や思いを聞いてきました。『今日も眠れない』は6編の短編集ですが、その経験が大きく反映されています。
自分が出会った人たちの葛藤や苦しみ、悩み、そして人生が詰まった物語です。そして他人事じゃなく、自分自身の物語でもあります。自助グループでは自分の弱点や欠点も全部さらけ出すことで、互いに共感し合えるんです。そうした経験があってこそ書けた話だと思っています」
高知は2016年6月、覚醒剤と大麻所持の容疑で逮捕。懲役2年執行猶予4年の有罪判決を受けた。2019年に自助グループと出会い、自身も依存症予防教育アドバイザーの資格を取得。現在は依存症の啓発や予防教育のイベントなどで講演活動をおこなっている。
「以前は、依存症なんて根性論や精神論で抜け出せるものだと思っていたんです。でも、自助グループと出会ったことで考えが変わりました。同じ苦しみを持つ人と会って話す、話を聞く、『ああ、俺だけじゃないんだ』と気持ちがものすごく楽になります。
いまは、ようやくメディアも、依存症は誰でもなる可能性がある病気なんだということを当たり前のように言う時代になりましたよね。これも先輩方が活動を続けてきた成果だと思うんです。
自分はエンタメの世界に生きてきて、それしかできない人間ですが、こうして小説という形で世に出して、ひとりでも多くの人になにかを気づいてもらえたらいいと思っています」
俳優として芸能界で経験してきたことも小説の執筆に活きているという。
「当時はドラマの番宣でバラエティに出るとき、事務所から『2の事実にどれだけ盛って話せるかが腕だぞ。ウソはダメだけど8膨らませなきゃ次はないぞ』なんて言われて。だから、プライベートでも意識して本当にそういう “ネタ作り” みたいなことをしていました。
エンタメの性(さが)ですよね。でも、自分のありのままに向きあって、生き直さなければならないとなったあと、ありがたいことにこうした小説を書く機会をいただけて、創作においてはそのときの技術や経験が役立っているのは確かです」
1964年生まれの61歳の高知だが、俳優として多くのドラマなどに出演していたころと変わらぬ、スリムな体型を維持している。
「毎日30分、ウォーキングをしています。時間や場所は決めずに、できるときにやります。小説のタイトルは『今日も眠れない』ですが、寝ることが大好きで、眠りすぎじゃないかと思うほど寝ています。
逮捕されてからの何年かは、頭がずっとぐらんぐらんして、眠れなかったですね。心にぽっかり穴が空いているっていうか、言葉じゃ説明がつかないぐらい苦しかった。今は本当に寝てばっかり(笑)。
でも、少し前に不整脈が出て病院に行ったんですよ。歳も歳ですから、これはマズいんじゃないかって。いろいろ検査をして、『先生、大丈夫なんですか?』って聞いたら『加齢です』って(笑)。病気って言われるのも嫌ですけど、加齢って、それはそれでショックでしたね」
依存症の啓発イベントでは田代まさしとともに活動することもあるという。
「田代さんからは、『お前は捕まったのが1回で、いまは生き直しててすごいな。俺なんか何回も捕まっているから』って、自虐ネタみたいに言われるんですよ。
だから自分は言うんですよ。『先輩、なに言ってるんですか。自分なんか留置場に入れられただけで音を上げましたよ。先輩は何回も捕まってて根性あるじゃないですか』って。それで2人でガハハって笑うんですけどね(笑)。いまは同じ方法を向いて、同じ光を信じて進む仲間です。
もちろん、田代さんだけじゃなく、いろいろな仲間がいて活動を続けています。『助けてくれ』って言いやすい社会、またそれを認めて、生き直している人を応援する社会になってほしいなと思っています」
今回の『今日も眠れない』にも、そういったメッセージが込められているという。
「一生懸命、無理して自分を作って、なにかに合わせながら自分らしく生きられていなくて、本当は苦しい、泣きたい、寂しいっていう人に、この6編の短編が、どの話でもいいからヒットしてくれればいいと思いますね。
ありのままの自分をもう一度大切にして、『自分を生きろよ』というか、そうしたメッセージが届けばうれしいですね」
眠れない秋の夜長に手に取ってみてはいかがだろうか。
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