
石田千穂(左)と中村舞(右)
終わりと始まりが交差し、エースから後継者へのバトンタッチが行われる――。瀬戸内を拠点に活動するアイドルグループ・STU48が2026年3月4日に発売された13thシングル「好きすぎて泣く」は、新たな歴史の幕開けを象徴する一枚となった。
グループ結成から9年、これまでリリースされたシングル表題曲でセンターポジション(注:トライアングルセンターは除く)に立ったのはわずか4人。そうした中で今回、初めてシングル表題曲の単独センターに抜擢されたのが中村舞さんである。さまざまな経験を積み重ねてきた彼女にとって、この大役は新しい挑戦のスタートとなる。
一方で、このシングルを最後に、STU48を卒業するのが石田千穂さんだ。1期生である彼女は過去に単独センターを2度務めるなど、名実ともにグループのエースとして常に先頭を走ってきた。そして、中村さんはその背中をずっと追いかけてきた。このたびの新曲は、エースの継承というエポックメイキングな位置付けでもあるだろう。
そこで両名にインタビューを敢行。記事前編となる本稿では、念願叶ってセンターの座をつかんだ中村さんの心情と、卒業という人生の転機を迎える石田さんの思いに迫った。
■不意をつかれたセンター発表
中村さんがシングル表題曲のセンターを告げられたのは、2025年10月頃のことだった。当時をこう振り返る。
「『動画を撮ります』と一人一人、呼び出されました。ちょうど12thシングルを冠にした全国ツアーを回っていたため、次のシングル関連のことだとはまったく想像していませんでした」
部屋へ入ると、椅子とカメラが用意されていた。怪しいなと思いながら座ると、そこで突然「シングルが出ます、センターです」と発表された。予想だにしなかったこともあって、歓喜に沸くのではなく、最初はただただ驚きしかなかったという。
少し時間が経って冷静になると、純粋な喜びが溢れてきた。早く誰かに言いたい、特にファンの人たちに伝えたいという思いが募った。8thシングル「花は誰のもの?」ではトライアングルセンターに選ばれたことはあったものの、シングル曲の単独センターは悲願だった。長年掲げていた目標を達成したわけだが、中村さんに特段浮かれた様子はない。
「いろいろな経験をさせていただき、またこうやって新しく挑戦させてもらえる機会を得られたことは嬉しいです。今は達成感とかはまだなく、ドキドキしながらも頑張ろうといった気持ちで一杯です」
■「後出しジャンケン」というフレーズ
新曲「好きすぎて泣く」は、好きだからこそ伝えられなかった初恋のもどかしさや後悔を歌ったラブソング。歌詞の世界観は切なさに満ちているが、曲調は冒頭から軽快なビートを刻み、アップテンポな仕上がりとなっている。
中村さんは曲について、「ライブで乗れる感じの曲だなというのが第一印象」だと話す。自身がセンターを務めた1stアルバムのリード曲「愛の重さ」も同様にテンポが良く、その系譜を継ぐ一曲といえるだろう。中村さんが歌詞で特に気に入っているのは、サビに出てくる「後出しジャンケン」というフレーズ。できなかった後悔をこの言葉で表現する点に、「今までにない新鮮な歌詞だなと思っていて、すごく好きです」と中村さんは笑顔をのぞかせる。
一方、石田さんは大きな目を輝かせながらこの曲への愛情を口にする。
「私は哀愁漂う曲が好きなんです。STU48は『切なさ』や『後悔』がキーになる曲が多いと思うのですが、その中でも今回の曲が私の個人的な好みにすごく刺さりました。聴けば聴くほど大好きになっています」と断言する。
石田さんが特にお気に入りなのは、曲の最後にある2行の歌詞だ。サビが終わった後、少しメロディーが入ってから歌うその部分は、前作シングル「傷つくことが青春だ」にも同じようなパートがあり、そこがすごく好きだったという。
■泣くのを我慢しながらも笑顔に…
双方ともに魅力を感じてやまない新曲だが、その良さをより引き立たせるパフォーマンスを実践する上では、高いハードルが待ち受けていた。
中村さんが最も苦心しているのは、曲の歌い出しである。最初はソロパートから始まるのだが、カウントの取り方が特殊なのだという。
「曲の冒頭に『チッチッチッ、トゥトゥトゥトゥトゥトゥ』というサウンドが入るのですが、オンカウントではなくて、その半分のカウント(裏拍)で歌い出せねばならなくて。ちょっと不規則なんですよ」
何回やっても慣れず、今でもまだ自分のものにできていないという中村さん。もっと練習が必要だと痛感している。
石田さんが課題感を持っているのは、パフォーマンス時の表情である。ダンスの先生から「この曲は泣くのを我慢しているような、切ない表情で演じてね」と指示されたが、思いのほかハードルは高いようだ。
「泣くのを我慢しながらも歌うわけですし、目の前にファンの方がいたら、つい笑顔になってしまうので……。感情のコントロールが難しいなと思います」
こうした悪戦苦闘を経て作り上げたパフォーマンスは、見どころが満載である。石田さんが挙げるのは、最後のサビである。
「ワーッ、バーッと広がるパートがあって、通常のサビ部分のダンスよりも激しく、感情を爆発させながら踊るところを見てほしいですね」
それまでは比較的感情を抑えたダンスなのだが、そこで一気にギアチェンジする。その対比が印象的だという。
■中村さんにとっての見どころはどこだろうか。
「2番のサビの終わった後、Dメロから落ちサビと呼ばれる部分です。Dメロの切ない感じから急に静かに落ちサビが始まる、あの雰囲気が良くて、静かな分、歌詞がとても沁みます」
過去の自分に伝えたかった言葉
13thシングルのカップリング曲として収録されているのが、石田さんのソロ曲「未来へ続く者よ」。いわば、彼女の卒業ソングである。
最初に聴いたとき、石田さんはこれまでの48グループメンバーの卒業曲のバラードに似ていると思ったという。ところが、歌詞を読み込んでいけばいくほど、その印象は大きく変わっていった。
「グサグサ刺さるというか、自分の痛いところを突いてくるし、『ごもっともです』みたいな内容が多かったです」
石田さん自身、アイドル活動をしていて悩んだり、休業したりしていた期間があった。そうした経験を持つ彼女だからこそ、仕事などに苦しんでいる人の気持ちが痛いほど分かる。「立ち止まりそうな時に心に響く曲だから皆に聴いてほしい」と石田さんは訴える。
特に感銘を受けたのはサビの部分である。
「まさに過去の自分にも伝えたい言葉だなと思う。曲のタイトルの通り、未来へ続くメンバーたちへ本気で伝えたいことが歌詞になっていたから、すごくびっくりしました」
そんな石田さんが9年間の活動の中で、グループの未来を切り開いたと感じることは何だろうか。「初写真集とか、初ソロライブとか、最初に挑戦したものは多いです」と即座に答える。それによってでき上がった道をメンバーが後に続いてくれたことは、石田さんにとって大きな誇りだ。
■長時間に及ぶレコーディング
なお、「未来へ続く者よ」のレコーディングは特別なものとなった。
7パートもある楽曲で、随所でハモリが乗っかってくるため、「耳を研ぎ澄ましながら聴いてもらいたいですね。いろいろな私の声が出てきます」と石田さんは力を込める。
一通りレコーディングした後に収録してすぐの歌声を聴き、石田さんの気になった3、4カ所にチェックを付けて、「ここを歌い直したいです」とお願いした。それだけ思い入れの詰まった曲なのだ。
仕上がった卒業ソングを早く届けたいという石田さん。その先にはファンの存在がある。卒業発表以降、ファンからはたくさんの言葉が寄せられた。石田さんが印象に残っているのは、長めのメッセージが多かったことだ。
「お話し会やリリイベ(リリースイベント)、X(旧ツイッター)のリプでも、私を推し始めた経緯や、推して良かった理由などについて、長い文章を書いてくださる方が多くて」
それを読んでいると、ファン一人一人との思い出がフラッシュバックする。この人とはこういった話をしたな──。長いファンであれば9年間応援してくれているわけだ。
「すごく悩んで落ち込んでいたり、今の自分はあまり好きじゃないみたいな時もあったりしたのに、ずっと推してくれていたんだなと思ったらウルッときました」
多くのファンが驚き、悲しんだ石田さんの卒業発表の瞬間を、中村さんはある意味、心を落ち着かせて見守っていた。その理由は2人の関係性にある。
(後編に続く)
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