
栗原萌実
2026年5月14日より東京・本多劇場でスタートする舞台「はがきの王様」。深夜ラジオとリスナーの関係を描いた本作は、松岡昌宏、黒谷友香、ピエール瀧と名だたる名優たちが出演する。その中で、はがき職人役で出演する俳優の栗原萌実。福岡で芸能生活を送り、今回、この舞台に挑戦する彼女、その生い立ちから演技へのアプローチ、そして、これからについて語ってもらった。
■すべての経験は表現に通じる
「ものすごく繊細だと思います」
インタビューも終わりに差し掛かったころ、栗原萌実は自身についてこう語った。
「育ってきた環境が繊細になるような環境だったんです。親も普通の家庭より厳しかったり、学生時代のいじめだったりとか」
辛い体験だが、彼女は今では「いい経験だったなと思います」という。それは、俳優という職業が、これまでの経験をすべて活かせる職業だからだと彼女は続ける。
「普通の人はなかなか得られない経験だったりもするので。そういった意味では、繊細な役なら、その感情の細かい部分までちゃんと表現できるんじゃないかな、という感覚があります。
その時に『あ、自分にしかできない演技もあるんだな』と感じることがあります」
過去の辛い経験も俳優という仕事ならば、「自分にしかできない」表現をしていく肥やしになるのだろう。
では、栗原萌実は、どうやってこの俳優という仕事を目指すことになったのか。
■祖母の言葉と田中裕子の演技
1999年9月11日。
栗原萌実は熊本県に生まれる。
小学生の頃は、近所にいた年下の子供たちと、虫やザリガニを取っていたそうだ。そんな活発な少女が俳優という仕事を意識したのは、祖母の影響だった。
「芸能を考えだしたきっかけは、6年前に亡くなった祖母です。家族の誰かを芸能界に入れたかったみたいで。朝ドラを観ながらだったり、近所の洋服屋さんのポスターだったり、そういう女優さんやモデルさんを見ながら『なってくれんかね』という感じで。ただ、その頃は芸能を仕事にしようとは全く思ってな
かったです」
大学生の頃に出会ったある映画で、彼女は俳優という仕事を意識することになる。
俳優・田中裕子の存在だ。
「田中裕子さんが大好きで、いろいろな作品を拝見しました。特に2019年に公開された映画『ひとよ』で田中さんが演じられたお母さんの役を見て、なんというか自分と重なるというか、『他の映画とは違う』という感覚になって。その時に『自分にしかできない役をやる人になりたい』という思いになりました」
「ひとよ」は、2011年に「劇団KAKUTA」が舞台で初演した作品だ。2019年に白石和彌が映画化している。タクシー会社を営む母親が、夫を殺害する。彼女には3人の子供がいた。15年の月日が経ち、成長した3人の子供の前に母親が帰ってくる。この母親を演じたのが田中裕子だった。
「自分にしかできない役をやる人に」
大学生だった栗原萌実の心に、俳優への思いが芽生える。
■どうお芝居につなげようか
栗原萌実は大学を卒業するタイミングで、地元福岡の事務所に所属する。
「正直、この世界(芸能界)のことも事務所も『どこの事務所がどのようなジャンルに強いか』なども何もわかりませんでした。なので、スカウトしていただいたところに入って。
以前の事務所は、モデル事務所だったので、CMだったりプロモーションビデオのイメージモデルだったり、あとは、そのタイミングでリポーターのオーディションに合格して、リポーターも2年間やっていましたね」
この期間は「お芝居をしたいな、という意識を根本に置きながらも、どのように進めばいいか、はあまり分かっていなかったです」と彼女は語る。
「リポーターをやっている時に『これは果たして自分のやりたいことなのかな』という葛藤が何度もありました。そこで『芸能のお仕事ひとつひとつがお芝居につながる可能性がある。じゃあどうお芝居に繋げようか』っていう考えを根本に置くようになりました。いただいたお仕事は全力でやろうと決めてからは、そういう葛藤は無くなっていきました」
■絵と演技
「自分にしかできない」表現へのアプローチは俳優だけではない。
栗原萌実は、2024年3月に福岡で絵の個展を開いている。
「祖父が絵を教えている影響があって、小さい頃からずっと絵を描いていました。ですが、趣味で描いているという感じで、それを仕事にしたいという感覚はありませんでした。独学で描いていましたし。お店のイラストやTシャツデザインや舞台のビジュアルを頼まれたことはありましたが」
絵を描く時は、演技とは逆に「何も考えないことを意識している」と彼女は語る。
「演者のお仕事は学ぶことも多いですし、正解か不正解かもわからないし、自信を持てるか持てないかもその時その時で変わってきます。
絵に関しては、自分の描いたものが正解っていう風に思っています。どんなに周りがその絵に対して興味を持ってくれなかったり、それを良いって思わなかったりしても、自分が良ければいいと思うし」
演技の仕事は監督や演出家、また台本を書いた脚本家などのスタッフ、そして、演じる俳優の演技で作品は完成していく。そこには様々な人の演出プランや意図が複雑に重なる。それに対して、絵は自分ひとりで描いていく。それでは、演技に関してはどのようなアプローチをとっているのだろう。
「最初にお会いした演出家、脚本家の方から学んだことなんですけれど。役があって、その役の性格とか行動とかを自分の中に取り入れながら、自己紹介をするというものです。
今回の『はがきの王様』の私の役で言うと、医学生ではがき職人で、すごい内気な性格、友達も 1人もいない、という役なんです。それを取り入れつつ、『栗原萌実です。26歳です。福岡から東京に来て今こういうことをしてて』っていう自分の情報を、その役の状態で話す、というようなことを最初にやったんです。そこで、自分とその役をいかに合わせていって自分のものにするか、という方法です」
そして、彼女は脚本家・監督である金沢知樹氏に見いだされ、現在までの活動を続けることとなる。金沢氏は近年Netflixの「サンクチュアリ-聖域-」やNHKの「東京サラダボウル」の脚本を手掛けている人物だ。また、とんねるずのラジオ番組のハガキ職人を経て芸人としてデビューした経歴も持つ、彼女が演じる役とリンクがある人の事務所だった。舞台「はがきの王様」の脚本・演出も担当している。もしかすると、栗原萌実の中に昔の金沢氏に似た役を託せる何かを見つけたのかもしれない。
■はがき職人の気持ちを想像して
舞台「はがきの王様」では、はがき職人の役を演じるが、彼女自身もラジオをよく聴く。
「よく聴く番組はニッポン放送の『あさぼらけ』ですね。あとは、松山千春さんのラジオも。スペシャル番組でやっていたのを聴いて、聴くようになりました。他局のものも聴いています。あとはオードリーさんの『オードリーのオールナイトニッポン』と中川家さんの『ザ・ラジオショー』ですね」
今回の舞台出演をきっかけに、ラジオの聴き方にも変化があったという。
「私自身もはがき職人に近しいものになろうと思ってメールを送っています。メールを送っているんですけれど、どのタイミングで送ったら放送作家さんにたどり着いて、パーソナリティの方にたどり着いてっていうのを自分なりに逆算したりしています。
あとは、毎回読まれる常連の方がいらっしゃいますよね。そういう方がどういうニュアンスで書いているのか、どんな言葉を最初に持ってきているか、を気にするようになりました。
松山千春さんだったらこういうことを言ったら取り上げてくださるんじゃないかとか。昔はめちゃくちゃリラックスして聴いていたのに、考えるようになってしまいました」
舞台「はがきの王様」は、昭和61年から始まる。
「話を伺ったら、当時は何千っていうはがきの束がたくさん重ねてあったそうです。その中で選ばれて読まれる、というのはすごいことですよね。はがき職人、ということは、その中でも常連になっている人で、つまりは認知されている、という喜びもあります。自分のことを認めてくれる人がいるという喜びが素直にありました」
番組のパーソナリティに読まれた時の喜び。この気持ちを演じる際に、自身のある経験が活きた。
「役を演じていく上で『どういう風な気持ちになるんだろう?』と思った時、自分が絵に評価をいただいたことを想像しました。自分の中でやってきたものが他人に評価される嬉しさ、というのは今回、はがきと私自身の絵で重なるものがありました」
絵を描いてきたことも演技に繋がっていた。
■まずは「この人誰?」から
舞台「はがきの王様」では、共演者たちからも刺激を受けている。
「いま稽古では、自分のセリフを言いながら動きの確認をする、という段階です。松岡さんも瀧さんも槙尾さんも自由にセリフを言いながら、動きの中でボケる、ということができるのがすごくて。
松岡さんは、お会いするまではストイックな方だなっていう印象がありました。けれど、私のようなド新人にも気を遣ってくださるというか、フランクにお話をしてくださって。ご自身のことをやりながら、周りに目が届く方なんだなと思いました。近くでストレッチをしているときに『九州出身なんだね』と話しかけてくださって、福岡や熊本にいらっしゃった時のお話を聞かせてくださったり、そこの美味しいご飯屋さんのお話を共有したり、という感じです」
今回の舞台は、俳優・栗原萌実が成長する機会であると共に、多くの人に知られていくきっかけになる作品になるかも知れない。今後演じてみたい役を聞いてみると、「ものすごく繊細な役かサイコパスな役ですね」と言い、冒頭の話をしてくれた。
「まずは『この人誰?』って思っていただけたら嬉しいです。初めて見た人が、私に興味を少しは持ってくださったら嬉しいです。私が表現を続けることで、興味を持ってくださった人が『また足を運んでみよう』と思っていただけるきっかけになるような舞台に『はがきの王様』がなると嬉しいです」
栗原萌実はこれからも様々な経験を経験していくだろう。それはすべて、彼女が追い求める「自分にしかできない演技」へ繋がっていくはずだ。
くりはら もえみ
1999年9月11日生まれ。福岡県出身 T158 趣味・特技 ピアノ・書道(独学)・絵画(独学)。そのほか最新情報は、公式Instagram(@k55___)にて
写真・木村哲夫
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