
“プチ被災生活”を開始した東出昌大
「今日、取材入っていたっけ? って驚きましたよ。とりあえず、なかにお入りください。お茶と紅茶、コーヒーがありますよ。何、飲まれますか?」
6月3日、日本全土で豪雨を記録した台風6号「チャンミー」。和歌山県の古座川にレベル5氾濫特別警報が発表されたほか、東京都でも大雨警報が発令されるなど、広範囲で警報級の大雨となった。
その翌日、本誌記者が向かったのは、関東近郊にある山だ。6月上旬とはいえ肌寒さが残るこの日、自宅から半袖半ズボン姿で現れたのは俳優の東出昌大だった。突然の訪問に驚いた様子を見せつつ、人なつこい笑顔で「シーちゃん」と呼ぶ愛犬と姿を見せた。
2022年春から本格的な山暮らしを続ける東出。鹿などを狩猟して、自然とともに生活する様子は多くのメディアで取り上げられ、YouTubeやnoteでも発信を続けている。6月1日には新しい試みを発表した。
「noteで《東出、音信不通のお知らせ》と題した記事を公開し、翌2日から大地震の発生を想定した“1カ月間プチ被災生活”を始めると宣言したのです。それによれば、東出さんのプチ被災生活は、電子機器の使用を禁じる徹底ぶりで、スマホなどにも触れないためか《東出とコンタクトを試みる方は、直接山にいらして下さい》と記していました」(芸能担当記者)
ところが、その開始直後に台風6号が日本列島に襲来。山間部では土砂災害の危険性も高まるなど、“プチ被災”どころか本当に被災してしまう可能性もあるーー。本誌が、東出の安否を確かめるべく山へ向かったのが、冒頭の場面だ。
「自宅付近を流れる川の水は増量しましたね。でも、生活にはほとんど影響はないですよ」(以下カッコ内はすべて東出)
そもそも、なぜ突然“プチ被災生活”を始めるようになったのか。薪ストーブに薪をくべながら、東出は滔々と語りだした。
「都会に住んでいたときは、たしかに便利だったかもしれないけれど、『これでいいんだろうか』という焦燥感や、生きている実感みたいなものをつかめないことがありました。でも、田舎に移住するようになって、生活に余裕が生まれたんです。空の美しさに感動したり、水のせせらぎに耳を傾ける時間を持ったり、そういうことを楽しめる時間が増えたんです。
では、この田舎の生活をさらに突き詰めていったとき、どんな魅力的なものに出会えるんだろうと、いろいろ考えたんです」
そこでヒントになったのが、『バカの壁』で知られる東京大学名誉教授で医学博士の、養老孟司氏の言葉だという。
「養老さんは、森も昆虫も自然界も好きな方で、これまでも著書を読んできました。そのなかで養老さんは、いまの日本について『震災待ちだ』と言っていたんです。大きな震災があったときに、本当に大事なものが見えてくる。現代人のマインドセットを変え、いまの日本人に何が足りていないのかが分かるのは、震災しかない、というようなことをおっしゃっていたんです。
私自身、これまで被災したことはありません。でも、もし被災して、衣食住やライフラインが絶対的なものではなくなったときに、自分はいったい何を大事にするんだろうと思ったんです。だから、養老さんの言う『震災待ち』ではなく、あえて自分ひとりで震災のなかに入ってみようと思ったというわけです」
1カ月間の“プチ被災生活”の具体的なルールを問うと、「首都直下型大地震」を想定したという。
「たとえば、道路の復旧や行方不明者の捜索に公共の力が注がれるので、私たちが当たり前に利用しているスーパーマーケットは機能しないでしょうし、停電状態にもなるでしょう。水道管が破裂すれば水も届きません。食べものは自分たちで何とかしなければいけない状態が、最低3週間、続くと想定しています。
なので“プチ被災生活”の間は、新たなガソリン給油は禁止、スーパーでの買い物は禁止、食材は備蓄のみ、電気は使わない、プロパンガスは使わない、冷蔵庫も使わない、というルールにしています。
水に関しては、田舎なので川の水をくんでこられます。ただ、トイレは流せない前提なので、外で排泄しなければいけないという条件にしています」
東出には、妻と1歳の子どもがいる。ネット上では、東出の宣言を受け、育児放棄を疑う声も出ていたが……。
「いやいや、ルールは基本的にこれだけなので、同じ家のなかで妻と娘は普通に暮らし、僕だけが不便な生活を送ってみるという形です。当然、育児もしながらの“被災”となります」
とはいえ、実際に始めてみると、思わぬ不便さもあったという。
「初日に面食らったのが、人間て、すぐ手を洗いたくなるんだなということ。山の仕事をしたり、木を触ったり、畑をいじったりすると、すぐ手を洗いたくなるんです。でも、蛇口をひねっても水は出てこない設定です。せっかく川からくんできたポリタンクの水を使うとなると、もったいない。今日、3日めにしてやっと風呂に入ったんですけど、お湯を少しだけわかすなど、水をかなり節約しました」
今後、予想される難関について聞くと、まず怪我のリスクを挙げた。
「大怪我をしたら一気にパフォーマンスが落ちるし、医者にも通えない。それは避けなければならないです。あとは、風呂や衣類の洗濯などの衛生面ですね。ただ幸いにも、こちらには流れ続ける水があり、森がある。食べものも魚を釣ったり、山のものを採ったりできるので、その点は助かっています。
ザワークラウトって分かりますか? ドイツのオクトーバーフェスとかで、大きなソーセージの横についている酢漬けのキャベツみたいなやつです。塩もみしたキャベツを瓶詰めして作るんですけど、乳酸菌が発酵してくれるんですよ。昔、船乗りが長い航海をしていた時代は、肉や乾パンみたいなものしか食べられなくて、ビタミン不足から壊血病なっていました。でも、そのときに役に立ったのがザワークラウト。長期保存もできるし、ビタミンもとれるので、今回も作っています。こういう昔ながらの発酵食品に頼っています」
妻と子どものご飯を作ることもありますが、別メニューです。妻子のためには電気ガスを使っていい生活ですが、“プチ被災生活”スタート以降、買ってきた食材は口には入れられないので、味見ができないままつくってます(笑)」
東出を訪ねる友人には、独自のルールもある。
「友人たちには『私を訪ねるなら自宅から歩いて来るか、もしくは最寄り駅から歩いて来て』『会っても外のニュースや天気予報は伝えちゃダメ』と言っております。もし『トランプが辞任した』と言われても、ソースに触れることができないから『嘘だろうな』と、たぶん信じないんじゃないかな(笑)。まあ、そもそもこの家にはテレビすらないわけですけどね」
そう言って立ち上がった東出は「少し散歩でもしましょうか」と、生き生きとした笑顔を見せる。自宅を出て山道を歩く彼の後をついて行きながら、山に入るときは何を考えているのか問うと、緑と川のせせらぎに目を向けながら話し始めた。
「都会を散歩している人と変わらないと思います。今後の仕事のこととか、人生のこととか、家族のこととか。ただ、山は情報量が多いんですよ。『これはヤマゴボウだな』とか、『これは何だろう』とか、目に入るもの全部に意味があるんです。
東京のほうが情報量が多いと思っていましたが、移住して驚きました。栗の木があるならここに動物が来るとか、キノコが生えていると毎年ここには生えるだろうとか、何もないように見えて、じつは情報だらけなんです」
もちろん、東京の街にも情報があふれている。だが、魅力的なものではないようだ。
「たとえば、渋谷のビルを見て『ここにイヴ・サンローランができてる』みたいなことありますよね。でも『別に、カネねえから買えないしな』って(笑)。こっちはだいたいのものがタダだから、『あれをどうやったら口に入れられるだろう』って考えるのが楽しんですよ。つまり、意味のある情報なんですね。
いまの時期だと『アミガサタケ』というキノコが生えてないかな、と思って歩いています。有毒なんですけど、ヨーロッパではよく食べるんです。昨日はキクラゲを採りました」
そう話していると、ふと立ち止まる東出。木にいくつも生っていた薄いピンク色の実は、キイチゴだ。ジャムにしたり、子どものおやつにしたりしていると言う。
「山小屋の隣に畑があるので、今日はブロッコリーを収穫しました。ほかには、ラディッシュやジャガイモ、トマト、ピーマン、ナス、シシトウ、鷹の爪、レタス、ミョウガ、それからニンニクとか、いろいろ畑で育てていますよ。お肉は鹿をメインにしています。まだ3日めなので『これが食べたい』と思うものはないですが、家系ラーメンが好きなので、この生活が終わったら食べたくなるかもしれないですね(笑)」
東出は大震災をサバイブするうえで、もっとも重要な点をこう指摘する。
「マジで“水”です。当たり前のことのようですが、手を洗うにも、飲むにも料理にも、水が必要。節水しても1日5リットルはほしいです。被災してライフラインが止まったら、公園の水も止まるわけですからね。
実際に失うと、その大切さを身に染みて感じます。何よりもまず、自宅に水を備蓄しておくのが大切ですよ」
“プチ被災生活”はまだまだ序章。30日めに、彼が何を発見するのか。いまから楽しみだ。
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