
カラオケボックスで奥田民生の『イージュー☆ライダー』を熱唱する吉村界人(写真・金谷千治)
「役のイメージのせいか、よく暗そう、怖そうって思われるんです。でも俺、そんな悪い人じゃないんですよ」
本誌のインタビューに屈託のない笑顔でそう語るのは、Netflixシリーズ『地面師たち』や『九条の大罪』といった話題作に立て続けに出演する俳優・吉村界人(33)だ。
同2作ではそれぞれ詐欺師グループにボコられるホストと、組織のために鉄拳制裁を受ける半グレの舎弟を、ドラマ『ひらやすみ』(NHK)では主人公の最高の親友を人間味たっぷりに体現した。役柄によって全く異なる体温を纏う、このカメレオン俳優の素顔に迫る。
迫真の演技で一躍脚光を浴び、オファーが絶えない状況にある吉村だが、驚いたことに「役者をやめようと思ったことが何度もある」という。
「今でも年に1回は、もうやめようかなって本気で思いますよ。役が決まった瞬間は、もちろん嬉しいんです。でも、その喜びって3日くらいしか持たない。4日めには、すさまじいプレッシャーが襲ってくるんです。『こんなに豪華な共演陣のなかで、俺、本当に大丈夫か?』って」
それでも、難しい役どころと格闘しながら、出演作の大ヒットに貢献してきた吉村。だが、つかみかけた「自信」は毎回リセットされてしまうのだという。
「自分自身の芝居に対する手応えは、今でもゼロに等しいです。『ひらやすみ』に出演したときも、現場でスタッフさんに、『俺、大丈夫ですかね?』って、100回くらい聞きまくってしまいました」
その真意について、彼はこう説明する。
「誤解してほしくないのは、俺は別にネガティブなわけじゃないんですよ。お芝居を褒めてもらえたら、その瞬間は嬉しいですし、素直に受け取ります。でも、どんなに嬉しい出来事も、翌日には“過去”です。なにかの大きな賞をいただいたとしても、次の日は新しい役作りに頭を悩ませたりして、また泥臭いふだんの生活に戻っていく。だから、どれだけ周囲に評価されても、次の現場に行くときには、俺の自信はきれいにリセットされているんですよね」
■「私はけっこう信じてるよ」
2018年公開の映画『モリのいる場所』で共演し、同年9月に逝去した樹木希林さんは、こうした吉村の感性を高く評価していた一人だ。
「当時は俳優を始めてまだ4~5年めでしたが、現場には希林さん以外にも山崎努さん、加瀬亮さんといった、名前を聞くだけで震えるような名優の方々ばかり。俺は完全に気後れしていたんです。でも、そんな俺を希林さんはすごくかわいがってくださって、ある日、『あなたはあなたのスタイルを貫けばいい』『あなたみたいな人、この芸能界で何十年も見たことがないから、私はけっこう信じてるよ』って。尊敬していた大先輩にそう言ってもらえたことがなによりも嬉しかったし、今でも心に残っています」
希林さんが見込んだとおり、いまや多忙な日々を送る俳優の仲間入りを果たした吉村だが、プライベートでは庶民派な一面も。今でも月に1~2回、仕事終わりにカラオケボックスに足を伸ばすのが定番スタイルだ。
「一人でも、友人と一緒でも出かけます。先日も役者仲間の笠松将と行きました。よく歌うのは沢田研二さん、チェッカーズ、奥田民生さん。親の影響もあって、中高生時代から、昭和の曲もよく聴いてたんですよ」
カラオケを愛するのは、そのとき感じた思いの丈をシャウトできるからでもある。
「ときどき、大声で叫んでます。『俺の人生、どうなってんだ!』とか(笑)。仕事って大変だなとか、芸能界って厳しいなとか。全部の不安をひっくるめた “魂の叫び” です」
迷い、悩み、自分の人生に定期的に絶叫ツッコミを入れているという吉村だが、将来に向けてやることはしっかりやっている。国内での活躍に留まらず、海外での仕事も視野に入れており、最近はオンライン英会話アプリで地道に英語力を磨く毎日だ。
「フィリピンやパキスタンの方と、片言英語で雑談しているんですけど、職業はオフィスワーカーって嘘ついています(笑)。役者だって言うといつも『どんな作品に出てるの?』って話になっちゃうので、普通の会話がしたい。向こうが『今日、洗濯機が壊れて2時間も手洗いしたんだよ』って言ってきたら、こっちも『大変だったね』って返すような、たわいのない時間が好きですね」
今のイメージに縛られずに演じてみたい役を尋ねると、間髪を容れずこう返ってきた。
「やさしくて誠実な役、ハッピーな役をやってみたいです。今まで、ダーティな役が多かったので(笑)。ただ、どんな役をいただいても、自分の言葉で話せる“人間臭い”役者でいたいですね。煮詰まったら、やっぱりカラオケで叫びます(笑)」
よしむらかいと
1993年2月2日生まれ、東京都出身 映画『モリのいる場所』(2018年)、『Welcome Back』(2025年)や、ドラマ『ひらやすみ』(2025年・NHK夜ドラ)など数々の話題作に出演。Netflixシリーズ『地面師たち』(2024年)や『九条の大罪』(2026年)での圧倒的な怪演が大きな話題を呼ぶなど、唯一無二の存在感を放つ実力派俳優
取材・鮎瀬舞子、昌谷大介(ともにA4studio)
文・鮎瀬舞子
写真・金谷千治
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