
『STU48中村舞2nd写真集 舞風』より
数え切れないオーディションへの挑戦、そして幾多の挫折——。愛媛の小さな街で育まれた負けん気を武器に、ついにアイドルグループ・STU48のメンバーとしてデビューした中村舞さん。しかし、彼女を待っていたのは、これまでクラシックバレエで培った経験が通用しない、アイドル特有の評価基準に戸惑う日々だった。
●「もうどうでもいいや」
2018年3月、かくしてアイドルとなった中村さんだったが、明確なアイドル像を持ち合わせていたわけではなかったため、当初は特にギャップを感じることもなかった。ただし、この世界もまた激しい競争の場だということは、早々に痛感することになる。
「グループ内の選抜メンバー争いもそうですが、STU48に入ってすぐに『AKB48 53rdシングル 世界選抜総選挙』があったんですよ。加入してたった3カ月でランクインはないだろうと思っていましたが、いろいろな場面で競うことがありました。例えば、同期のドラフト3期生選抜でライブに出演したり。私はそれに参加できず悔しい思いをしました。アイドルも戦いなんだなと知りました」
競争自体は、幼い頃からバレエの世界で慣れているはずだった。だが、評価基準がバレエとはまったく異なる点に、大きな戸惑いを覚えたという。
「バレエは踊りなどの技術面で評価されることが多いけど、アイドルはどこでファンの心に刺さり、人気が出るのかわからなくて、自分が何をすればいいのかもわからない。もちろんダンスや歌の練習はするけど、結局はどうすれば人に見てもらえるのかはすごく悩みました」
これが、中村さんが最初にぶち当たった大きな壁だった。そしてこの壁は、しばらく彼女を苦しめ続ける。ついには、もうアイドルをやめようとまで思い詰めるようになった。
「それまでもイベントなどで競うことが多くて、一喜一憂していたんですけど、2020年に行われた瀬戸内PR部隊Season1のファン投票企画で、自分がメンバーに入れなかった時に、『あー、もうどうでもいいや』みたいな気持ちになっちゃって。今までアイドルとしての自分をいっぱい作って、一生懸命頑張っていたけど、モチベーションが下がってしまう時期がありました」
心の糸は切れる寸前で、もはや修復は困難かと思われたが、その糸をつなぎとめたのは、ファンの存在だった。
「でも、ファンの人はずっと変わらずいてくれて。本来はアイドルを応援することが楽しいはずなのに、推しの辛いところを見て、どんな気持ちなんだろうって。こんな自分を見せて申し訳ないと思いました」
それでも悶々とする日々の中で、中村さんの心を突き動かしたのは、ファンからの言葉だった。
「ちょうどコロナ禍だったんですけど、誰もが外出を控えるなど、世界的にもしんどい時期でしたよね。その頃にライブなどでパフォーマンスする私を見て、『生きていて良かった』とおっしゃってくれた方がいました。私でも誰かの生きる希望になれたのだと、すごく嬉しかった。だからこそ、こんな暗い顔をしていては駄目だなと猛省しました。その時の出来事はとてもよく覚えています」
そこから、中村さんの意識は大きく変わっていった。アイドルだからと飾らずに、自然体で楽しもう。肩の力を抜いて、ありのままの自分でいい。そう思えるようになると、驚くほど気持ちが楽になった。そして初めて「アイドルになって良かった」と実感したという。
STU48に加入するまではアイドルに対するイメージがまだおぼろげだった中村さん。しかし、この日を境に、アイドルとしての自覚が強く芽生えることになった。ここから、中村さんの快進撃が始まる。
●エースへの目覚め
「花は誰のもの?」ではトライアングルセンター、1stアルバムのリード曲「愛の重さ」でのセンターそして2026年3月リリースの「好きすぎて泣く」では悲願のシングル単独初センターに。ポジションの変化は、中村さん自身の立ち振る舞いをも変えていった。かつては自分のことで精一杯だったが、次第にグループ全体へと目が向くようになっていく。その引き金となったのが、メンバーの卒業ラッシュだった。
「トライアングルセンターの時よりも、『愛の重さ』でセンターになった時の方が自覚は強まりました。一人だったということもあるし、グループがいろいろと変わる時期だったのも大きいです。卒業する先輩が多く、同期だった沖(侑果)ちゃんも卒業しました。選抜メンバーもガラッと変わり、グループを未来につなげていくには、自分がどうにかしなくてはという気持ちが芽生えました。急に、ですね」
センターポジションを経験し、確かに自信はついていたかもしれないが、それ以上に、グループを存続するために踏ん張らなくてはならないという危機感の方が大きく、必死だったと中村さんはいう。
この責任感は、行動にも劇的な変化をもたらした。以前は口にできなかった自分の意見も、きちんと言葉にするようになったのだ。
「言葉ではっきりと伝えるようになりました。ライブではセットリストや演出に対していろいろと話しています。多分、マネージャーさんも唸るくらいにたくさん話し合いをしますね」
ライブの後には、メンバー同士で反省会をする機会も増えた。みんなで気持ちを一つにするのを大切に考えていることも大きな理由だ。
「私が先輩になったからかもしれませんが、メンバーにも直接伝えることができるようになりました。言いにくいことも言えるように。STU48の活動は部活ではないし、メンバーは友だちではなく、仕事を一緒にしていく仲間だから」
グループの顔であるセンターとしての責任感、そして強いプロ意識。中村さんはそれを常に抱きながら、何よりもファンをがっかりさせないことを心がけているという。
「今まで数多くのライブをやってきた中で、ファンの方が消化不良になってしまうライブをしないように頑張ってきましたが、やはりお金と時間をいただいているわけだから、よりいっそう高いレベルを目指さなくては駄目」
こうしたプロ意識を持ち、先輩、後輩の垣根なく、きちんと主張するようにしている。その熱意は後輩にも伝わっているようだ。
「後輩の子たちも真摯に受け止めてくれていると思います。私、怖いのかなと思う時もあるんですけど(苦笑)、とても素直な子ばかりです」
以前と比べて少しずつ変わりつつある今のSTU48が、中村さんは大好きだという。ツアーも楽しいし、雰囲気もいい。それは、メンバー全員が熱い気持ちを胸に、同じ方向を見つめられるようになってきたからこそ感じられるものだ。
●自分自身を律する姿勢
背中で引っ張っていく存在でありたい——。エースとしての自覚を持つようになった中村さんだが、決して他人にばかり厳しさを求めているわけではない。自分自身にも厳しく向き合い、ライブが終わるといつも反省が尽きないという。例えば、7月26日の公演後には、こんな反省をしたそうだ。
「発する言葉には気をつけているつもりです。でも、難しいですよね……。この日の公演ではMCで沖ちゃんの話題を出して、生意気な小娘だと言ってしまいました。だから、その後に沖ちゃんに電話して謝りました。MCでこんなこと言ってごめんね、と」
単に自分の中で反省して、終わりにはしない。誰かに迷惑をかけたと思えば、きちんとフォローもする。この生真面目さこそが、中村さんのぶれない芯の強さの本質なのだろう。
かつては他人からの評価に振り回されることもあった。しかし今は、自然体でいることを何よりも大事にしている。偽りのない自分でいること、それがアイドル・中村舞が貫くポリシーなのだ。
取材・文/伏見学
『STU48中村舞2nd写真集 舞風』は宝島社より発売中
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