
尾上松也(写真・木村哲夫 スタイリスト・椎名宣光 ヘアメイク・岡田泰宜)
「非常によく知られている作品ですし、久しぶりに映画化すること自体、ワクワクしました。まさか、自分が金田一耕助を演じさせていただくとは思ってもみませんでしたので、ありがたかったのと同時に、自分に務まるのかという不安もありました」
こう話すのは、金田一耕助を演じる尾上松也。シリーズ累計5500万部を超えるベストセラー『八つ墓村』が、金田一登場80周年という記念すべき節目に、完全新作として映画化される。
これまで、同作は何度も映像化され、劇中のセリフ「祟りじゃ~」が流行語にもなったが、松也にとって印象深いのは、石坂浩二と古谷一行が演じた金田一耕助だという。今回は設定が現代となり、舞台も戦後の昭和から令和の時代へと移された。
「衣裳も、従来の着物姿に下駄というスタイルではなく、特注のコートとシャツとズボンに、靴を履いています。ですので、あまり粗野でいい加減な感じではなく、“現代的な変人”といいますか(笑)。そんなイメージで演じさせていただきました」
完成作品を観た松也は、「あっという間に時間が過ぎた」と、仕上がりに満足げな表情を浮かべる。
「清水崇監督の手腕によるものですが、内容を知っていても飽きる部分がないんです。従来の『八つ墓村』とはちょっと雰囲気は違いますが、けっしてホラーではなく、ミステリーでありながらも“金田一らしさ”はしっかりと出ています。いままでとは違った切り口の『八つ墓村』を楽しんでいただけると思います」
歌舞伎から現代劇まで、多方面で活躍する松也は、コロナ禍を経て趣味が増えたという。自宅には、ボードゲームやフィギュアをディスプレイしているが、スニーカーは400足以上を所持するほどだ。
「どうも集めぐせがあるみたいで(笑)。ひと部屋まるまるスニーカーの部屋になっていて、廊下にはみ出しています。どれも気に入って買っているので、お気に入りの一品を選ぶのは難しいですね」
『八つ墓村』といえば、混乱した田治見要蔵が頭に懐中電灯をハチマキで巻き、夜の村で大量殺人をおこなう衝撃的なシーンが印象深い。じつは、松也は “灯り” に深い縁がある。日本キャンドル協会の理事を務めているのだ。
「コロナ禍であまりにも時間を持て余してしまい、断捨離を始めたんです。そのときに、以前いただいたキャンドルがいくつか出てきて。せっかくだからともしてみようと思ったのがきっかけで、一気にハマりました。それまで、部屋はほとんど寝に帰るだけの空間でしたので、ゆっくり家で過ごす時間の大切さを考えたことがなかったんです。リラックスして、いい時間を過ごして体を休めることに重きを置くようになりました。きっと何か、自分を癒やしてくれるものを求めていたのだと思います。それが僕にとってはキャンドルでした」
緊急事態宣言が解除され、外出できるようになると、キャンドルショップへ足しげく通うように。そこでさまざまなキャンドルを知り、さらに没頭していったと語る。
「いくつかのお店の方と知り合って、声をかけてくださったおひとりが、日本キャンドル協会の方でした。しばらくしてからお誘いいただき、日本キャンドル協会に入会しまして、いまは理事を務めさせていただいています。僕はとにかく、火の揺らぎが見たいんですよね。揺らぎが美しく感じられるキャンドルが好きです」
『八つ墓村』の田治見要蔵をイメージして、持参してもらったろうそくを手にポーズを取ってもらったが、「要蔵をやってみたいかですか? いやぁ、僕はいいですね」と苦笑する。
“本業” では歌舞伎役者として人気の松也だが、現代劇、ミュージカル、声優としても幅広く活躍している。順風満帆のように見えるが、30代になる前に抱いていた葛藤を打ち明けた。
「歌舞伎界は世襲制が強く、僕は主役になれるような家柄ではありません。そのなかで、主役を務めたいという思いがあり、30歳までにその兆しがなければ歌舞伎俳優を続ける意味がないと。自分のなかではすべてをやめようと決めていました。そのためには、歌舞伎以外の分野で活躍することが、歌舞伎界での自分の価値を上げることになると信じて、いろいろなオーディションを受けていました」
悩みながらも挑戦を続けていた松也にとって、ターニングポイントとなったのが、蜷川幸雄氏演出の舞台『ボクの四谷怪談』(2012年)だ。松也は、ヒロインのお岩役に抜擢された。
「歌舞伎の女方をやりながら、歌を歌うようなシーンがたくさんある音楽劇でした。若手の俳優さんは当時、第一線で活躍されている方々ばかりで、まだ無名だった僕は、番手的には7、8番手。蜷川さんに厳しくご指導していただき、鍛えていただいたおかげで、自分のなかで開眼したような実感がありました」
蜷川氏の舞台とあって、多くの関係者が観覧に訪れており、これを機に、彼のもとへ映画やドラマ、ミュージカルのオファーが届くようになった。
「大きな転機でした。ここからの活動は、僕にとっては不可欠な要素ですし、歌舞伎俳優としても、一俳優としても、僕の色になっていると感じています。いろいろなお役をさせていただいて、光栄だと思っています」
2026年は、映画『国宝』の記録的大ヒットにより歌舞伎ブームが起こり、歌舞伎座への来場者数が急増。とくに若い世代が増えているというが、松也はブームを一歩引いた感じで見ている。
「『国宝』のあと、お客様が増えたとは聞きますが、それはあくまで偶発的なことで、僕らの力ではありません。制作された側と吉沢亮くん、横浜流星くんの力ですから(笑)。これだけSNSが発達して、テレビすらあまり観ないという時代です。そのなかで、若い方たちに歌舞伎を選んでいただく、劇場に観に行こうと思っていただくためには、若手のスターが出ることが大事。歌舞伎界が一丸となって、歌舞伎以外で活躍する若手を増やして、多くのお客様に興味を持っていただき、この人が観たいと歌舞伎座に来ていただくことが、絶対に必要だと思っています」
歌舞伎界を背負っていく一人の歌舞伎俳優として、彼はこう締めくくった。
「歌舞伎にしたいと思う作品はたくさんあるので、実現させていきたいと思います。映像では、今作でせっかく金田一耕助を演じさせていただいたので、シリーズとして何作かやらせていただけたら、最高ですね」
おのえまつや
1985年1月30日生まれ 東京都出身 1990年5月『伽羅先代萩』の鶴千代役にて二代目尾上松也を名乗り初舞台。近年のおもな出演作にドラマ『ミステリと言う勿れ』(2022年フジテレビ、2023年映画版)、Netflix映画『新幹線大爆破』(2025年)、ミュージカル『新宿発8時15分』(2026年)など。映画『八つ墓村』は9月18日より全国公開
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