
キングオブコント決勝で寿司屋のネタを披露したお笑い芸人ヤッホイ(写真・長谷川 新)
10月17日に放送された、“コント日本一”を決めるお笑いの祭典『キングオブコント2026』(TBS系)。3445組の頂点に立ち、第19代王者となったのは「ジェラードン」だった。いっぽう、実力派芸人ひしめく11組のファイナリストのなかで、強烈なインパクトを与えたのが新鋭「ヤッホイ」だ。
ボケ担当の永井は一橋大学卒で、ツッコミとネタ作り担当の泉は武蔵野美術大学卒と、異なる経歴を辿ったふたりはともに26歳。芸歴3年めの若手コンビが、初の決勝進出にして堂々の3位入賞を勝ち取り、お茶の間と審査員の度肝を抜いた。
1本めに披露した超高速のセリフ劇「ラーメン屋」、そして2本めの音楽とフリップが交錯する奇抜な「寿司屋」。まったく異なる世界観を叩きつけ、大会の台風の目となった若きコント師たちに、大舞台の舞台裏から独特すぎる創作秘話、知られざる結成エピソードまで語ってもらった。大会終了から2週間あまり。周囲の熱狂をよそに、2人は驚くほど冷静にあの夜を振り返る――。
永井「けっこう、決勝の最中までふわふわしてたんですよ。終わって実際に映像とか観返して、ようやく『ああ、本当に決勝に出てたんだな』と実感が湧いてきたくらいでしたね」
泉「そう、現場にいるときは何が起きているのかわからなくて。生放送中はスマホも触れないし、本当に決勝に出ていたのかも自覚できていない感覚でした」
事前のインタビューでは「いっさい緊張しない」とうそぶいていた泉だが、「あれは嘘。緊張度はMAXでしたよ」と苦笑い。逆に永井のほうは、「本番ではやばいぐらい緊張するかと思ったけど、そこまでではなかった。意外と気持ちよくやれました」と明かす。そして、手にしたのは「3年目で第3位」という大躍進だった。だが、この順位はふたりにとって想定外だったという。
泉「もっと極端な順位になると思ってたんです。最下位か優勝か、いずれかに振り切るだろうと。だから、全順位の中で3位が一番可能性が低いと踏んでいました」
永井「お互い本気でそう思って臨んでいたので、すごく意外な結果でしたね」
1本めのコント「ラーメン屋」は、ラーメン店で客の泉からの「チャーシュー2倍」という注文を、店主の永井が「チャーシュー12倍!?」と聞き間違いするもの。それを契機に、セリフが倍々ゲームのように膨れ上がり、猛烈なスピードで展開していく怪作だ。“超高速ラップ”とも言うべき永井のひとりしゃべりは、東京03の飯塚悟志をはじめとする審査員陣を大いに唸らせた。
泉「あれに関しては、先輩芸人にも『どうやって思いついたの?』と聞かれるんですけど、ネタを生み出す『0→1(ゼロイチ)』のきっかけは自分でもよくわかってないんです。実体験でもないですし。ただ、自分たちのなかでテーマとして、『永井にとって過去最高難易度のネタを作ろう』と目標を掲げていて。生放送の舞台で、相方にめちゃくちゃ喋らせてみようという狙いはありました」
このネタで、驚異的なセリフ量を噛まずに吐き出し続けた永井。審査員からは「あえて聞き取れるかどうかのギリギリを狙っているのでは」と評されたが、真相は違ったようだ。
永井「あえてではなく、本当に僕は一言一言届けたいと本気で思ってて(笑)。僕なりの全力の滑舌で喋った上での本番だったので、生まれ持った滑舌の能力のある種の“天井”みたいなところと、ネタにマッチする滑舌みたいなのがたぶん一致したのかなって思います。作った当初はアドリブみたいな幅がある箇所もあったんですけど、決勝に近づくにつれて一言一句固まったという感じです」
泉「最終的に『チャーシュー72倍』へ勘違いがエスカレートするまで、けっこう変遷があって。決勝の本番では、客側の注文を『チャーシュー2倍』としてたんですけど、最初は『じゃあ12倍でお願いします』と僕がやけになって注文して、それをさらに永井が聞き間違える構成だったんです。これをずっと繰り返して数字を上げていくと、10回ぐらい聞き間違えて12億5000万倍まで行く…というバージョンもあったんですけど、さすがにやりすぎて飽きてきて(笑)。決勝の1週間くらい前に、やっぱり『2倍』に落ち着きました」
演出へのこだわりも凄まじい。コントの世界観が薄まらないよう、テレビクルーと徹底的に交渉。番組史上初となる「音楽と連動する照明器具を舞台上に5個設置する」という異例の演出を勝ち取った。
泉「キングオブコントって準決勝までだと舞台が黒い背景で、観る人がネタに没入できるセットなのが、決勝の派手な紅白のセットに移ると、逆に“ウケ”が弱まる組が多かったように常々感じてて。自分たちの『ラーメン屋』のネタもそうだと思ったので、そこをスタッフさんと相談して、僕らのネタが映えるセットになるよう、演出の面でもかなり工夫しました」
永井「基本的に、泉が客観的にリードして、僕は舞台上で言われた通りに動く。この役割分担は学生時代からずっと変わっていません」
続く2本めに披露したのは、学生時代から温めていたという「寿司屋の修行」。永井扮する寿司屋の大将が提示するお題に合わせて、修業に来た泉が玉置浩二の名曲『田園』にのせて、毛筆で“魚へん”の漢字を次々と書いていくという実験的なネタだ。1本めで喋り倒した永井はほとんど喋らず、フリップをめくっていくのみ。「幅を見せようと思って、あえてチョイスしました」(泉)という狙いと、『田園』の絶妙なハマりようも相まって、視聴者の間で大きな話題を呼んだ。
コント内では、なぜかサビなどのタイミングで「カレイ」の漢字ばかり何度も書き続ける展開に。そのシュールさと異様な熱量は審査員の爆笑を誘ったが、これにも理由があったようだ。
泉「『カレイ』の漢字は一般的に『鰈』ですが、コントでは魚へんに『介』と書く『魪』を使いました。魚へんの漢字を全部調べたんですけど、音楽の4拍子に合う漢字が『魪』しかなかったんです。もっと4拍子でわかりやすい字があったら使ったかもしれませんけど、たぶん存在する魚へんの字のなかで、4拍子でいちばん面白いのが『魪』だと思ってるんですよね」
頂上決戦の大勝負。舞台裏では、予期せぬトラブルもあったという。
永井「ネタ用に用意していただいたフリップの紙が、照明の当たり方でインクが飛ばないように配慮した厚手の紙で。普段は薄めの紙が手に馴染んでいたので、厚手だとめくりにくい!それでも決勝直前に『段差をつけてめくりやすくする』工夫を見つけたんですが、本番で紙をセットしたらその段差が消えてしまって……。手が震えて紙のカサカサ音がマイクに拾われてるんじゃないかと、とんでもない焦りの中でやっていました。その不安は最後まで拭えなくて、『寿司屋』のネタはパフォーマンス的にもっとできた部分があると思っています。正直、悔しすぎて、まだネタの映像は観返せてないんです」
泉「僕も筆ペンのかすれなど、道具の面で苦戦しました。1本めに全力を注いだ分、2本めの詰めが甘かった。でも、審査員のロングコートダディの堂前さんが言ってくれた『決勝に向けてチューニングする“決勝ナイズ(ケッショナイズ)”』という心構えの言葉は、本当に核心を突いていて。自分たちの課題が明確に見えただけでも、3位まで残って2本めをやれた意味は大きかったですね」
真剣すぎるほど“お笑い”に向き合う2人の出会いはというと、大学時代に遡る。大学のお笑いインカレサークルで出会った2人。コロナ禍の真っただ中、画面越しで対面したのが始まりだった。
泉「部員が少なくて、永井の学年は3人、自分の代は4人くらい。自然と組む流れになったんですけど、お笑いサークルの奴って普通、僕みたいな頭脳派タイプばかりなんですよ。でも、永井だけなぜか見た目も声も面白かったし、タレント性があった」
永井 「僕は高校で留年を経験していたので、学年は1個違いだけど年齢は同じ。Zoom越しに初めて対面した泉は、部屋も薄暗くて声も小さかった。でも、ボソッと言う一言が抜群に面白くて。『いつかこの人と組んでみたい』と思いました。先輩後輩の関係性は、いまだに全く変わらずですが……」
学生コンビで活躍していた当時から、ネタ作りは文字で台本を起こさず、口頭のやり取りだけで構成やイメージを伝えて完成させる「口伝え」のスタイル。天才肌の泉が脳内で考えたアイディアを口伝えし、抜群の記憶力を誇る永井が頭に入れる。
泉「本番の直前に口伝えでやることが多いので、ネタ合わせを見た周りの人からは『何やってるのかわからない、異常だ』とよく言われます。僕が思いついたセリフをその場で永井に喋らせて、違和感があれば微調整していく。机の上ではなく、相方が口に出して面白くなる言葉を探すんです」
永井「僕は記憶力がかなりいいほうなので、成立しているんだと思います。泉は本番直前になるとどんどん集中して、口伝えの速度もクオリティもあがっていく。こういう作りこみは他のコンビではできないでしょう。直前にセリフがどんどん変わるし、出番直前に足されることもある。僕自身、人と喋るのは苦手なんですけど、ネタに入り込むと普段の人格から離脱して自由に喋れる不思議な感覚があって。その一瞬の快感は得難い経験なので、楽しんでいるところもあります」
大舞台を経て、仕事のオファーは急増。現場も増え、着実にステップアップの道を歩み始めている。
泉「キングオブコント放送後、先輩たちから『かっこよかったぞ』と声をかけてもらえたのが一番嬉しかったですね。新しいコントをしようって人たちを背負って、決勝に出た思いもあったので。今後はもっとキャパの大きな会場で、ふらっと見に来てくれるようなお客さんも巻き込んだ単独ライブをやりたい」
永井「僕はまず、現実問題として芸人としてしっかり“食える”ようになりたい。ファイナリストの肩書きだけでなく、番組に呼びたいと思ってもらえる存在になりたいです。ご褒美の旅行も考えましたけど、今はまだ寿司の悔しさを引きずってて、それどころじゃない(笑)」
目指すは、もちろん「キングオブコントの頂点」だ。
永井「今年トントン拍子で優勝していたら、たぶん泣けなかった。でも、この3位の悔しさを味わったからこそ、優勝したときは泣けると思います。そういう意味で、今年の結果はよかった。僕、小学校3年生以来泣いたことがないんですよ。次こそ優勝して、『自分も人間なんだ』と証明できるかもしれません」
異色の知性と肉体性が生み出す次世代のコント。ヤッホイが掲げる「誰もが納得するマスターピース」が完成したとき、黄金のトロフィーは今度こそ彼らの手に収まるはずだ。
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