
1対1の “個室” でのビデオチャットの様子
「実はね……うちの家内、チャットレディをやってるんですよ。わざわざ近所に専用の部屋まで借りて、そこに “出勤” してるんです」
そう語るのは、東海地方の某メーカーに勤務する営業マン、長谷川博司さん(47・仮名)だ。物価高で家計が圧迫されるなか、彼の妻が選んだのは、配信を通じて画面越しに男性会員を接客する「ライブチャット」という生業だった。
国内のライブチャット市場は、公式なデータ元はないものの、現在はおよそ200億円規模と言われている。市場を牽引する「FANZAライブチャット」や老舗「チャットピア」などの大手では、男性の累計登録会員数が100万人を超え、在籍する女性キャストも常時数万人規模にのぼる。
システムは、映像と音声主体の「チャットレディ」と、文字入力主体の「メールレディ(メルレ)」に大別されるが、近年のメルレアプリには双方向のビデオ通話機能が標準実装されており、両者の境界線は実質的にない。
一般的なライバー系プラットフォームと違い、1対1の個室を意味する「2ショット」だけでなく、複数の男性客が同時入室する「パーティーチャット機能」を備えているのが特徴だ。
さらに配信内容は「ノンアダルト」と「アダルト」に厳格に区分される。衣服を着たまま顔出し雑談や癒やしトークをおこなう(顔を出さないケースもある)「ノンアダルト」の報酬は1分あたり50~60円程度。
一方、衣服を脱ぐなど、性的なやり取りをともなうのが「アダルト」で、単価は1分100~150円以上へと跳ね上がる。ただし、規約により局部露出などは厳格にNGとされており、そのぶん画面越しで客との濃密な駆け引きが求められる。
女性側の平均的な報酬率は30~40%前後で、ビデオ通話なら1時間で2400円~3600円程度になる計算だ。いずれにせよ、投げ銭頼みのライバーよりは確実に稼げる。博司さんが続ける。
「妻とはお互い隠し事はせず、余計な干渉もしない。妻も家にちゃんとお金を入れてくれ、それで家庭が回るなら、という割り切りですね。娘もママが何をしてるかうっすら知っていますし……」
夫公認のチャトレとはあまり例がないだろう。家賃3万円という専用部屋から、妻の美緒さん(仮名)はリモート取材に応じてくれた。45歳という年齢が信じられないほど、見た目も声もかなり若め。アヒル口から八重歯が覗く。
画面の向こうの美緒さんは、その甘く耳に残るロリボイスを響かせながら、独自の仕事観を語り始め、自らを「悪女です」と自嘲気味にささやくのだ。
「保育士の資格を持っていて、最初は保母として働いていました。やがてその経験を活かし、保育関連の雑誌などでライターを始めたんです。WEB媒体の隆盛にともない、収入も多いときには月額20万~30万円になっていました」
それだけ家計の足しになれば、夫の博司さんも文句は言えまい。しかし、ここ数年のAIの台頭が安定していた彼女の職を奪う。
「AIのせいでライティングの仕事がごっそり減って、ほぼやらなくなっちゃって。同じように家でできる仕事を探した結果、2025年の正月明けからチャトレを始めたんです」
転身当初こそ、ライターで稼いでいたのと同じ額を順調に稼げたが、市場の女性参入の急増に加え、彼女自身の「飽き性でガチ恋営業もできず、なかなか固定客をつかめない」という性分により、最近の収入はかなり低調だとか。
そのため、美緒さんはすでにチャトレに見切りをつけ始めており、持ち前の対人スキルを活かし、次は「占いやヒーリングなどスピリチュアル系の仕事」へ移行したい、との抱負をほのかに抱いている。
美緒さんが見知らぬ男性との画面越しのやり取りに抵抗なく飛び込めたのは、若き日の成功体験がある。博司さんと結婚する以前の、ネットコミュニティで知り合った交際相手とのエピソードだ。
「22~23歳のときで、相手は工員をしていました。乏しいお給料のなかから一生懸命デート代を出してくれようとしていたので、なんだか悪いなと思っていたんです。
私、自分が病弱だとか、ちょっと嘘ついてたんですよ。それで向こうから『デート代で使うくらいなら、そのぶんを直接手渡したほうがいいよね』って、現金をくれるようになったんです。手取り16~17万円のうち7万円ぐらい? 最後のほうは、月に一回コンビニで待ち合わせて、現金を手渡しされるだけでしたね」
当時、彼女は彼に本気になれず、肉体関係を拒み続けていた。エッチどころかキスもせず、手すらつないでいない。それでも、彼女との結婚を心から望んでいた彼はひたすら現金を貢ぎ、2年もの間、尽くし続けたのだという。
「やがてストーカー化すると思って、関係をすっぱり断ったとき、結局は全額とは言わないけど返しましたけどね」と苦笑する美緒さん。性的な接触はいっさい持たず、詐病で同情を寄せさせて結婚願望を誘発し、「男は言葉と動かし方次第でいくらでもお金を出す」と悟ったからこそ、チャトレの業務にも迷いがない。
美緒さんは、現在、複数の所属先で10個ほどのアカウントを使い分ける。プロフの年齢は基本20代。今ではメルレを活動の基軸に置いているが、やはり大きく跳ねるのはアダルト設定での稼働だ。
そして、美緒さんはリモート画面の前で、平然と掌大のピンク色の道具を手に取った。スマホアプリを介し、ネット越しに相手がリアルタイムで遠隔操作できる、最新式のU字型ハンズフリーバイブである。 その使用には別途オプション代がつく。
「これも1分いくらで課金してもらっているからこそ、長時間ダラダラ責められるのは困るんです。時間が長引けばそれだけ額は増えるんですけどね」
美緒さんのスタンスは1人の客に長く粘られるより、回転率を上げ、数をこなす効率主義。時間より人数でトータルの報酬を最大化したい口だ。「だから相手の準備体制がパンパンに整うように流して、サクッと発射させる。私は完全にそっち派(効率重視)ですね」
バイブを片手に、甘ったるいロリ口調のまま、ビジネスライクな射精管理テクニックを説く。その語り口には冷徹なまでの割り切りが覗いた。
チャットにやってくる男性会員に若い世代は少なく、美緒さんの実年齢をはるかに上回るシニア層が主流だ。彼女は画面越しに接する男たちの生態をこう分析する。
「たしかに性欲処理だけが目的の30~40代くらいのオラオラ男もいます。入ってくるなり、決まっておっ立った自分のモノを見せつけてきて、すぐにしこり始めちゃう(笑)。
でも、そんな人は一部で、もっとお金と時間に余裕のある50~60代がお客には多いですね。そんなお客はあまり自分の姿は見せないし、言葉やおもちゃを使わせてこちらを責め、女性をイカせることで満足を得てるみたい」
美緒さんはチャトレ業務のために専用部屋に通っていることを、14歳になる中学生の娘には、「おじさんたちの悩み相談、カウンセリングの延長」と説明し、納得させているという。
実際、まだ自宅の空き部屋で業務に当たっていた頃、娘がたまたま通りかかり、60代初頭の男性とのやり取りを聞かれてしまった。しかし、その内容はある種の「床屋政談」だったという。
「だから言い逃れできたんですよね。その人は50代後半で早期退職をし、暇を持て余している感じだった。自民党支持じゃないって言うんだけど、熱烈な高市早苗推しで、日々 “サナ活” してる(笑)。ともかく政治についての持論を滔々と語りたがるんです。あるときなんて、参政党関連の動画URLを送りつけてきたこともあった(笑)」
そんな定年後の「友達いないおじさん」の寄る辺にもなっているのがチャトレ界隈なのだ。そして、「たとえ相手と主義主張や考え方が違っていても、お金になればいい」というのが美緒さんの哲学。
「基本、相手の話に『はいはい』って愛想よく相槌を打ってあげてるだけ。結局、みんな自分を肯定してくれる相手が欲しいだけなんですよね。
その早期退職オヤジ、私にはほとんどいない太客だったんですけど、他のレディたちともけっこう頻繁にやり取りを重ねてたみたいで、最終的には総額でウン百万円もの大金を溶かした末、『老後の資金も尽きそうだ』って。それでバン(退会→アカウント消滅)して消えちゃいました(笑)」
美緒さんは、低空飛行とはいえ、「家にお金が入れば文句ないでしょ」と夫には開き直り、10個のアカウントとアプリ連動バイブを駆使しながら、今なおチャトレ稼業を続けている。
取材・文/鈴木隆祐
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