施設側に重大な落ち度がある場合も、当然ある。
「92歳のお母さんを大手の施設に入れた方から、相談を受けました。ある日、お母さんが流動食を詰まらせ意識を失い、その後、亡くなりました。
しかし、そのとき担当していた介護士は、お母さんを車椅子に座らせたまま、背中をさするだけだったというのです。本来は、心臓マッサージなどの救命措置をおこなう必要がありますが、施設側が過失を認めないため、現在裁判中です」
高額な賠償金が認められるケースもあるが……。
「多くの場合、裁判は “逆効果” になるんです。相談される方は皆さん『人間だからミスは仕方がない。ただ、誠意のない対応が許せない』と言います。しかし裁判を起こしても、争われるのは過失の有無のみで、真の謝罪が得られるわけでもありません。
民事裁判は2年以上かかるのが普通です。いざやってみると、想像以上に、時間と労力がかかります。実際、相談者の方で、裁判に踏み切るのは2割~3割程度。施設側の非が明白ならば、賠償額も含め、話し合いで解決するのが望ましいです」
親を預ける側としては、このような実態を知り、トラブルを事前に回避する方法を探ることが重要になる。
「入所する施設を最初から1カ所に決めず、まずは “お試し” のつもりで入所すべきです。
私の経験上、広告を大々的に打っている大手の施設は選択するときに注意が必要です。利益を追求し、施設を増やした結果、教育や研修が行き届いていないスタッフが増え、トラブルも増加します」
費用の確認は当然だが、医療依存度が高い利用者ならば、施設側がそれに対応可能かも、確認しておく必要がある。
「その際、営業マンの言葉を鵜呑みにしないことです。彼らの仕事は利用者を施設に入れるまでで、あとは面倒を見てくれません。逆に、あまりに小規模な施設には、倒産のリスクもあります」
事実、2019年1年間の「老人福祉・介護事業」の倒産件数は過去最多で、そのうち8割以上が小・零細規模の施設だった。施設選びの際には、経営母体を調べることも必要だ。
「しかし、トラブル回避にもっとも効果があるのは利用者側と施設側のコミュニケーションです。まず、入所前に希望をしっかり伝えること。たとえば、『嚥下力が低下しているので、飲み物にもとろみをつけてほしい』などです。
そして、何か起きた際に、いつ、どのように連絡してもらうのか、連絡方法を確認するのも大切です。『もし親が転んだら、本人が大丈夫だと言っても、すぐに携帯電話にかけてほしい』などです。
このような約束事は、トラブルに備え、メモに残しておきましょう。積極的に施設側と信頼関係を築き、安心して親をまかせられるようにしたいですね」
次のページでは、近年裁判となった介護トラブル事例を紹介する。両親の人生の最終局面が、泥沼の “裁判沙汰” にならないために、トラブル予防を徹底すべし。