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【食堂のおばちゃんの人生相談】40歳・元会社員のお悩み

ライフ・マネーFLASH編集部
記事投稿日:2020.07.03 11:00 最終更新日:2020.07.03 11:00

「食堂のおばちゃん」として働きながら執筆活動をし、小説『月下上海』で松本清張賞を受賞した作家・山口恵以子。テレビでも活躍する山口先生が、世の迷える男性たちのお悩みに答える!

 

【お悩み/農家見習い(40)元会社員】
 脳出血で倒れた父と80代の祖母の介護のために、妻と小学生の娘を連れて、地元へUターンすることになった。実家は農家だが、私は農作業の経験がほとんどない。ずっと営業畑を歩いてきた私が、40過ぎから農家の大黒柱が務まるか不安だ。この不安な気持ちは、まだ妻と娘にも打ち明けられないでいる。

 

 

【山口先生のお答え】
 それはまた、大変な決断をなさいましたね。お父様とお祖母様の介護のために慣れ親しんだ職場を離れ、実家の農業を継ぐなんて、なかなか出来ることではありません。本当にご立派だと思います。

 

 そして、あなたの決断を受け容れ、住み慣れた土地を離れる決意をした奥様もすごいです。生なかの覚悟ではなかったでしょう。

 

 農業の知識ゼロの私に偉そうなことを言う資格はありませんが、それでもあなたは大丈夫だと思います。農家の大黒柱が務まります。

 

 私が勤めていた食堂のスタッフAさんの次女エリちゃんは、24歳で結婚しました。結婚するまで家事はすべて母親任せで、料理なんか作ったこともなく、腕前はあの “やってトライ娘” 並でした。

 

 Aさんは「まあ、私が手伝いに行ってやれば、何とかなるだろう」と思っていたのですが、何と、結婚直後にご主人が名古屋に転勤になってしまったのです。もちろん、エリちゃんも同行しました。

 

 それからは毎日、夕方になるとAさんの携帯にエリちゃんから半泣きで電話がかかり「トンカツの衣、卵がない〜」「じゃあ、牛乳で代用しなさい」「小松菜茹でたら色きたない〜」「菜っ葉茹でる時は塩入れなさい」「タマネギのスライスがからい〜」「水にさらしなさい」等々のやりとりが繰り返されたのでした。

 

 やがて子宝にも恵まれ、今や三児の母となったエリちゃんは、スーパーで鰯の安売りがあれば大量に買って、塩焼き・つみれ汁・フライ・マリネなど鰯コース料理を作りつつ、残りは干物にして保存するなど、まことに料理上手です。

 

 それというのも、エリちゃん自身は料理経験ゼロでも、母のAさんが料理する姿を見て育ったので、自分が主婦となった時、頭の中にお手本があったのです。見よう見まねでお手本に近づいて行けたのです。エリちゃんのような女性を、私は何人か知っています。

 

 料理以外の分野でも、お手本が記憶にあるというのは非常に大切なことです。お手本によって、完成品がイメージできるからです。お手本なしで未知の分野に進むのは、まさに暗闇を手探りで進むようなもので、効率が悪いし危険も伴います。

 

 そして、農家見習いさん、あなたのお話です。あなた自身は農業経験がゼロでも、幼い頃にご両親やご親戚が田畑を耕す姿を見ていますね。今もぼんやり記憶にあるでしょう?

 

 だから、私は大丈夫だと思います。あなたは農業のお手本を知っているし、農家の生活というものを体験しています。農家で暮らしたことのない都会育ちのずぶの素人が、ゼロから農業を始めるのとでは、アドバンテージが大きく違っています。

 

 それに、お父さまやご親戚など、身近に先生がいらっしゃいます。わからないことはお尋ねになればよろしいじゃありませんか。

 

 奥さんとお子さんには正直に「経験ゼロ」と打ち明けて下さい。その上で、あなたについてきてくれたお二人に感謝しましょう。ご家族仲良く、新しい幸せをつかめるようにお祈りしています。頑張って下さいね!

 

やまぐちえいこ
1958年、東京都生まれ。早稲田大学文学部卒。就職した宝飾会社が倒産し、派遣の仕事をしながら松竹シナリオ研究所基礎科修了。丸の内新聞事業協同組合(東京都千代田区)の社員食堂に12年間勤務し、2014年に退職。2013年6月に『月下上海』が松本清張賞を受賞。『食堂メッシタ』『食堂のおばちゃん』シリーズ、そして最新刊『夜の塩』(徳間書店)が発売中

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