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知られざる「警察」の内部事情…派閥・学閥はあるの?
ライフ・マネーFLASH編集部
記事投稿日:2021.01.17 16:00 最終更新日:2021.01.17 16:00
警察もヒトの組織ですから、派閥もできます。この問題を考えるうえで、知っておきたい言葉は「専務」です。専務というと会社の役員をイメージしますが、警察における「専務」とは、いったい何を意味するのでしょうか。
警察において「専務」とは、(1)警察の専門分野か、(2)それに登用されている警察官のことをいいます。すなわち「専務」といったとき、それは、警察の仕事の「ジャンル」を指すこともあれば、そうしたジャンルの仕事をする「ヒト」を指すこともあります。
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民間企業においてイメージされる、専務取締役といった役員とは全く違う概念です。大まかなイメージとしては、〈刑事〉などの私服警察官が「専務」に当たります。
また比喩的に言えば、例えば総合病院なり大学病院なりを例に採ると――そこには内科/内科医も存在すれば外科/外科医も存在するし、あるいは皮膚科/皮膚科医、精神科/精神科医、小児科/小児科医、泌尿器科/泌尿器科医、放射線科/放射線科医、救急救命科/救急救命医……と、実にたくさんの診療科等がありますね。
さらに、そうしたいわば「現場」各科に加え、経営・庶務・総務・会計・薬剤・入院事務・売店・警備等々を担当するセクションもあるはずです。
加えて、「内科」「外科」とひとくちに言っても、消化器内科や呼吸器内科や神経内科、あるいは心臓外科や消化器外科や脳神経外科といったように、それらを更に細分化することもできます。
警察における「専務」は、この「内科」「外科」「放射線科」「救急救命科」といった、医師あるいは医療行為のジャンル分けに、極めて類似するものです。
そもそも「専務」というギルド自体が「見えざる派閥」といえますが、その専務内においても、例えば「俺は事件畑だ」「行政畑だ」「情報畑だ」といった、専門分野の別によって閥が形成されることがあります。
また専務は職能集団ゆえ、そこには「○○の神様」「○○の達人」がウジャウジャいますが、そうした神様・達人は後継者の育成に当たりますので(次代の神様を用意しなければギルドの発展はありません)、必然的に「俺は三宅サンに事件のイロハを教わった」「俺は貴島サンに情報収集の指南を受けた」といった警察官が数多く生まれることとなります。
したがって、三宅さんなり貴島さんなりが偉くなればなるほど、両者をコアとした「三宅学校」「貴島エコール」といったものが形成されてきます(そうした神様は何も2人程度でなく、幾人もいます)。
またさかしまに、ギルドのラスボスである刑事部長なり警備部長なりといったあたりが、極めて個性的な……あるいは灰汁の強い……キャラクタであればあるほど、心酔者・忠臣も多くなる一方、「俺は今の部長だけは気に食わん」「今の部長がいるあいだは警察本部にいたくない」「今の部長が異動するまでむしろ他部門に出してくれ」といった感じでアンチも多く出現し、それが閥を形成することもあります。
他方で、他の組織で「よくある」とされるような、学歴・学校による閥とか、出身地域による閥というのは聴きません。最終学歴・出身学校も、現役警察官にとってはどうでもよいことです。すなわち、これらによる差別も閥もありません。
どこの大学を出ていようが誰も興味ありませんし(時に東大出の地元警察官というレアキャラも出現しますが、優遇も差別もされないと思います……仕事上どうでもいいので)、そもそも警察は高卒で入れる会社です。
そして制度上、大卒警察官・短大卒警察官・高卒警察官で何が違うかといえば、それは――「警察学校におけるオベンキョウ期間」と「昇任試験を受けるための在級要件」くらいのもの。
まして後者は、警部補試験以上からは何の違いもなくなってしまいます。また前者は、40年近い警察人生における最初の2年弱がどうか、という話に過ぎません。
端的には、警察には例えば高卒差別が全くありませんし、最低限の区別も、極めて短期間のうちに消滅します(高卒の筆頭署長警視正、高卒の筆頭部長警視長などめずらしくもありません)。ゆえに、「警察ほど学歴にこだわらない会社もめずらしい」といつも思います。いえ正確に言えば、「警察ほど一般社会の学歴にこだわらない会社もめずらしい」。
というのも、警察は一般社会の学歴などどうでもいいと思っていますが、警察部内における学歴には異様にこだわるからです。
例えば、新任巡査の警察学校における成績。巡査部長・警部補の、管区警察学校における成績。警部の、警察大学校における成績。所属長になる警視が、ちゃんと警察大学校警察運営科を修了したか。捜査部門の役員候補が、ちゃんと警察大学校特別捜査幹部研修所特別捜査幹部科を修了したか。はたまた将来の役員候補が、ちゃんと警察庁で「地獄の3年奉公」等を務め上げたか……そうしたものは、警察官の人事・出世にダイレクトに響く「警察学歴」です。
人事・出世のあらゆる段階において、それだけを見るわけではありませんが、必ず参照されるのが、警察官になってからの学歴であり成績です。
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以上、古野まほろ氏の新刊『警察官の出世と人事』(光文社新書)をもとに再構成しました。階級だけでは見えてこない、複雑怪奇な「警察官の出世と人事」の仕組みを、元警察官僚が徹底解説します。
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