樺沢紫苑の「読む！エナジードリンク」お金持ちが幸せでない本当の理由は

　テレワークで通勤せずとも自宅で働けるようになったワークスタイル（仕事のスタイル）の大きな変化。

　通勤回数が減ったことから地方への移住希望者が増えたというライフスタイル（生き方のスタイル）の変化。

　コロナ禍のもと、このように私たちの働き方・生き方が大きく変わってきました。

　それにつれて、私たちの「人生の目標」や「幸せ」についての考え方も、必然的に変わらざるを得ません。

　つまり、コロナ禍は「幸せ」を考え直す絶好のチャンスではないかと思うのです。

　ということで、今回は「幸せ」のなかでもおそらく、皆さんの関心が最も高い「お金」と「幸福感」の関係について考えてみましょう。

【関連記事：精神科医・樺沢紫苑の「読む！エナジードリンク」出口の見えないストレスの対処法】

■お金持ちになると幸せになれますか？

「幸せ」について相談を受けるとき、必ずされる質問があります。それは、「お金持ちになると幸せになれますか？」というものです。

　実際多くの人は、「お金持ちになると幸せになれる」「社会的に成功すると暮らしが豊かになる」と信じて、身を粉にして一生懸命働きます。

　しかし、残念なことに、幸福学の多くの研究では、「お金持ちになると幸せになれる」という説は否定されています。

　2015年にノーベル経済学賞を受賞したプリンストン大学のアンガス・ディートン教授らによる有名な研究結果を紹介しましょう。

「ポジティブ感情」「憂うつでない」「ストレスフリー」の3つの指標で、収入（年収）と幸福度の相関関係を調べました。

　結果は、年収4万ドル、日本円で400万円くらいまでは、年収が増えれば増えるほど幸福度は比例して上昇していきます。

　しかし、年収600万円くらいになると、カーブは緩やかになり、年収が800万円を超えると、あとは年収が大きく増えても、幸福度のアップは微々たるものという結果になったのです。

　つまり、年収200万円が倍の400万円に増えると幸福度は大きくアップしますが、年収800万円が倍の1600万円になっても、幸福度はほとんど変わらないというのが、この研究結果の示すところです。

■「お金」がもたらす幸福感はたちまち劣化する

　もしあなたの年収が400万円だとした場合、倍の800万円になると、ものすごく幸せになりそうなものです。しかし、先の研究結果によると、残念ながらそうはならないようです。

　宝くじの高額当せん者に対する調査では、幸福感が持続するのは当せんからたったの2カ月といわれています。

　2カ月を過ぎると、幸福感は「普通の人と同程度」か「むしろ低い」という研究結果もあります。このように「お金」がもたらす幸福感は、たちまち劣化し、持続しないのです。

　お金、成功、地位、名誉などを手に入れて幸福を感じたとき、私たちの脳の中では、「ドーパミン」という神経伝達物質が分泌されています。

　会社の大きなプロジェクトを成功させた！　スポーツの大会で優勝した！　試験で100点を取った！　のような「やったー！」と叫びたくなる高揚した幸福感を、私は「ドーパミン的幸福」と呼んでいます。

　ドーパミンは「幸福物質」ともいわれ、分泌されると私たちに大きな「喜び」「幸福」を与えてくれますが、ドーパミン的幸福は、せいぜい2〜3カ月くらいしか続きません。

　たとえば、月収20万円の人が2万円昇給したとします。最初は「やったー！　収入が1割も増えた」と喜びます。

　しかし、3カ月もすると「あいかわらず22万円の安月給」「なんで、こんなに働いて、これだけしか給料がもらえないのか」と不満が噴出するはずです。

　高額の収入や高い地位を得るには、何カ月、いや何年にもわたる長い期間の努力が必要です。

　しかし、その結果得られた幸福感は、数カ月しか続かない。だとしたら、コスパ（コストパフォーマンス）が悪すぎますね。

　なぜ、そうなるのかというと、ドーパミンが「もっともっと」という感情を引き起こすからです。最初は、20万円の給料が30万円になると大喜びしますが、それにもすぐに慣れてしまう。

　そして、次は40万円、その次は50万円、さらにその次は100万円…という具合にさらなる収入アップを求めてしまう。

　しかし、収入がいくら増えても、幸福感は数カ月しか持続しないので、「もっともっと」の「底なし沼」にハマり、いつまでたっても持続的・継続的な幸福感は得られないのです。