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ドは赤、レは黄色…音や文字に色がついて見える共感覚者たちの世界

ライフ・マネー 投稿日:2021.04.01 11:00FLASH編集部

ドは赤、レは黄色…音や文字に色がついて見える共感覚者たちの世界

写真はイメージです

 

 20年ほど前のこと。絶対音感の研究をしていたつながりから、共感覚のある人をたまたま何人か紹介してもらうことがあった。また、被験者に来てくれた学生に、「わたし、音に色が見えるんです」とカミングアウトされることもあった。面白そうだと思って詳しく話を聞いてみることにしたのが、筆者の共感覚研究のはじまりである。

 

 

 共感覚とは、音や文字に色を感じたり、色から音を感じたり、味から形を感じたりする現象のことである。つまり、刺激に含まれていないはずの感覚を感じるというのだ。

 

 大学生のFさんは、2歳からピアノを始めたこともあって、正確な絶対音感がある。つまり音を聞けばすぐに音名がわかるのだが、それと同時に、目の前の風景をクレヨンでバーッと覆うように塗った感じに色が見えるのだそうだ。

 

 何色が見えるかは音の高さによる。例えばドなら赤が見え、レならば黄色、ミはオレンジ、ファは青、ソは黄緑に近い緑である。テニスラケットでボール打つ打音がファなら、プレー中にボールを打つたびに青が見える。

 

 この色は、高い音ほど視野の右の方に見える。例えば鍵盤の真ん中のドとそのすぐ上のソが同時に鳴り「ドソ」が聞こえると、視野の左側に赤(=ド)、右側に緑(=ソ)が見える。

 

 そしてドが1オクターブ上がり「ソド」の組み合わせになると、左視野には何もなくなり、中心に緑(=ソ)、右に赤(=高いド)が見える。シャープ(♯)やフラット(♭)の付いた黒鍵の音は、水平線より少し上の方にずれて見える。

 

 音を聞くだけではなく、楽譜を見ても音符に色が付いて見えるし、数字や文字などにも色がある。例えば3は緑であり、333という数字は緑色の3が並ぶので “すごく緑” に感じられる。

 

 医師Kさんも音に色があるが、Fさんのように目の前の風景に投影されるのではなく、あくまでも心の中のイメージとして感じられる。

 

 ドは赤、レは黄、ミはオレンジ、ファは青、ソは緑というふうに、音と色の対応はFさんとよく似ている。また、高い音ほど(心の中の)視野の右方に出現し、黒鍵の色は少し上の方に出るのもよく似ている。

 

 また、音には個性があって、ドとラは “やる気がある” ので色が鮮やかだが、ファやファ♯やシは “やる気がない” ので、遠くで聞こえたり細く聞こえたりする。ピアノの音色は、水に色を溶かしたような澄んだ色で、オーボエやファゴットのようなダブルリード楽器の音色は濁っている。

 

 音楽大学に勤めるTさんは、音に対して色のイメージが浮かぶだけでなく、色から音を感じる逆向きの共感覚もある(音から色を感じる共感覚と比べて、色から音を感じる共感覚はかなり珍しい)。

 

 例えば、日差しを浴びた桜の若葉の色からは、弦楽器のG(ソ)の音のトレモロが聞こえる。日本語の五十音表にも色があり、「あかさたな」のあ段は赤、い段は黄色、う段は無彩色(灰色)、え段はオレンジ、お段は青だ。

 

 また、松たか子は緑、連続テレビ小説「てるてる家族」の岩田冬子(石原さとみ)は白のように、人物にも色がある。そこで調子に乗って、筆者にも色があるか聞いてみたら、ピンクだった。

 

 共感覚には、とても多くの種類がある。

 

 なかでも、音から色を感じるタイプの共感覚を、色聴という。ただ、単に色聴と言っても、色を感じる対象は、単音の音高だったり、和音の響きだったり、調性だったり、楽器の音色だったりと様々だ(ひとりの共感覚者が、これらすべてに色を感じるとは限らない)。

 

 また、音から引き起こされる感覚は色に限らず、幾何学的な形、つぶつぶなどのテクスチャー、回転などの視覚イメージなどの場合がある。

 

 音以外の感覚によって起こる共感覚もあり、その代表が文字に色を感じる色字共感覚だ。欧米ではABCなどのアルファベット、日本では平仮名や片仮名に色を感じるのが典型的である。

 

 ノーベル物理学賞の受賞者で、『ご冗談でしょう、ファインマンさん』などのエッセイでも人気の物理学者リチャード・ファインマンは、数式のnやxといった変数に色が付いて、講義室の空中を漂って見えたという。

 

 文字が色を持つ仕組みはわかってないが、日本語では、「あ」と「ア」の色が同じになりがちなことから、文字の形というより、読みが色と結びついていることがわかる。

 

 数も同様で、数字の図形的な特徴ではなく、数の概念に色が付いているので、仮に7が黄色だとすると、「2+5」は黄色に感じられるのである。その他、数字や曜日に色がある共感覚や、匂いや味に色や形を感じる例もある。円や三角形などの幾何学図形や、都道府県に色がついている人もいる。

 

 こういった様々な共感覚をすべて数え上げると、いったい全部で何種類あるのかと聞かれることがあるが、それは分類の仕方によるので簡単には答えられない。ただ、確実に言えるのは、その数は増える一方だということだ。研究が進むにつれて、次々と新しいタイプの共感覚が発見されるからである。

 

 例えば、比較的新しく記載されたものに、平泳ぎやクロールといった水泳の型に色を感じる共感覚がある。またドレミファソラシと色が結びつく共感覚も、筆者が数年前に初めて報告したものだ。

 

 もしかすると、あなたの感じている感覚が、まだ学術界に知られていない新しい共感覚だということも十分にあり得るのである。

 

 

 以上、伊藤浩介氏の新刊『ドレミファソラシは虹の七色?~知られざる「共感覚」の世界~』(光文社新書)をもとに再構成しました。ドレミファソラシが虹色になるという、著者が発見した共感覚の現象をもとに、音階がなぜ色を持つのか、なぜ虹色になるのかを探ります。

 

●『ドレミファソラシは虹の七色?』詳細はこちら

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