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藤井聡太二冠に“西の貴公子”斎藤慎太郎八段も…トップ棋士9人の秘蔵「魅せ顔」写真を“観る将”にお届け!
ライフ・マネーFLASH編集部
記事投稿日:2021.05.15 20:00 最終更新日:2021.05.15 20:00
「これまで将棋の世界は『盤上一筋』といって、盤上での評価がすべてでした。でも最近は、対局やイベントのネット中継も増えて、棋士の対局する顔や姿に惹かれる、というファンがすごく増えています。そういう楽しみ方をされる人たちを『観る将』というんですが、たとえ将棋を指せなくても、棋士たちの顔を見るだけで、何かを感じていただけたら嬉しいです」
【写真18枚】将棋界トップ棋士9人の「魅せ顔」秘蔵写真を全部お見せします!
そう語るのは長年、将棋界の取材・撮影を続けるカメラマンの野澤亘伸氏。著書『師弟 棋士たち 魂の伝承』(光文社)の文庫版と『絆―棋士たち 師弟の物語』(日本将棋連盟/マイナビ出版)の発売を記念した、棋士たちの写真パネル展が現在、ジュンク堂書店池袋本店で5月末まで開催中だ。
数多くの名勝負を見守ってきた野澤氏でさえ、対局に向かう棋士が放つ独特の緊張感には、決して慣れることがないという。
「対局前、盤を挟んで向き合っている棋士の表情や空気感は、カメラを向けるのがためらわれるぐらい、ピリピリしています。2人の棋士の『集中力を途切れさせてはならない』という緊張感が伝わって来るんですね。
対局後、勝者と敗者が決まったあと、負けた棋士はただ『負けました』と頭を下げるだけですが、勝った棋士も敗者の気持ちを慮って、嬉しそうな顔ひとつしません。対局前とは違った緊張感の中で、『撮らせていただきます』と両者をリスペクトする気持ちでシャッターを切っています」
ファインダー越しに見つめる棋士たちの表情は、神々しくさえあるという。
「盤を離れたら等身大の若さを感じさせる20歳前後の棋士でも、盤に向かうと、昔の武士を思わせるような顔に変わるんです。タイトル戦はとくにそうですが、朝、棋士が対局室に入ってきて盤前にスッと座ったときの顔は、たとえれば『果し合いに向かう武士の顔』です。ピリッと引き締まって、『無我の境地』に達しようとする集中力を、全身から発しています。
あれほどの人間としての “存在感” は、僕は将棋以外の場であまり感じたことがありません。たぶん、決戦の1カ月前から準備しても、あの雰囲気は出ません。子供のころからずっと一途に将棋の世界で精進してきているからこそ、醸し出せるものなんだと思います」
今回の写真展では、対局中以外の写真も多く展示されている。
「羽生善治九段に東京・等々力渓谷を歩いていただいたり、木村一基九段に新宿のゴールデン街でちょっと飲んでいただいたり……そういうプライベートな写真も、たくさん展示させていただいています。棋士たちの素顔を撮らえた写真は、ほかのプロ競技などに比べてもあまり表に出ていませんので、将棋に慣れ親しんだ方でなくとも、楽しんでいただけるはず」
今回、本誌は、野澤氏がこれまで撮りためた膨大な写真から、トップ棋士9人の “魅せ顔” つまり魅力的な表情を厳選。野澤氏による各棋士のエピソード紹介とともにお届けする。中には、著書や写真展でも公開されていない “秘蔵写真” もあるので、ぜひご刮目あれ!
●藤井聡太二冠(王位・棋聖)
冒頭の写真は、師匠・杉本昌隆八段との師弟対談のときのもの。子供のころから通っていた、杉本八段の将棋教室で撮影された。
「藤井二冠はデビューしたころから、インタビューでは大人顔負けのソツのない受け答えをしてきましたが、師匠の前では非常にリラックスして、よく笑っていましたね」(野澤氏、以下同)
●豊島将之二冠(竜王・叡王)
名人と並んでもっとも格のある「竜王」に加え、「叡王」も保持する豊島二冠。
「若手の筆頭ですが、童顔で声もか細く『キュン』という愛称があります。30歳を迎え、さすがに『キュン』じゃないだろうと。将棋界を引っ張っていく方なので、『漢(おとこ)・豊島』というイメージで撮らせていただいたものです」
●永瀬拓矢王座
将棋界の「四強」(渡辺明三冠、豊島二冠、藤井二冠、永瀬王座)の一角をなす。
「ストイックで、将棋に必要のないものはすべて切り捨てるぐらい打ち込んでいることから『軍曹』という呼び名もあります。タイトル戦の途中で、着物から洋服に着替えてしまうのも『そのほうが将棋に集中できるから』。撮影のときも、将棋のことを考えていたのでは?(笑)」
●羽生善治九段
「棋界のレジェンド」の呼び声高い、羽生九段。東京・等々力渓谷で撮影された一枚だ。
「目の前30cmまで迫って撮ったものです。50歳を迎えた先生の “人生の年輪” を、しみじみ感じました。そして、目の前にいるのにはるか遠くにいるような、すべてを超越したような空気感を感じました」
●久保利明九段
攻めを受けての反撃が芸術的な久保九段の異名は「捌きのアーティスト」。関西将棋会館の対局室で撮られたこの写真は、久保九段の著書にも使われている。
「男っぽさ、人間らしさにあふれる『将棋界のミスター・フォトジェニック』。いまは無精ひげを生やしていますが、それがまたよく似合うんですよ」
●佐々木勇気七段
「藤井聡太の公式戦30連勝を阻止した男」としてその名を轟かせた、佐々木七段。この写真は、まさに連勝記録を止めた日の朝、対局前に撮影された。
「端正な顔ながら、闘志むき出しにグッと盤上をにらんだ、背中に電気が走るような迫力。『負けたら腹を切る』ぐらいの覚悟を感じました。ここに立ち会えたのは、カメラマンとしてほんとうに幸運でした」
●佐藤天彦九段
「羽生から名人位を奪った男」として名高い佐藤九段。不世出の大棋士・大山康晴十五世名人の孫弟子にあたり、終盤の受けに抜群の強さを持つ。
「ファッションやクラシックへの造詣も深く、『貴族』という異名もあります。好きなブランドは『アン・ドゥムルメステール』。呼び名の通り、人柄も穏やかです」
●斎藤慎太郎八段
女性ファンも多く「西の貴公子」の呼び名もある斎藤八段。今期、名人戦で渡辺三冠に挑戦中で、現在は斎藤八段の1勝2敗。第4局を5月19・20日に控えている。
「『この人が勝負師?』と思うほど、ふだんは優しくて穏やかで、柔らかい関西弁を話すのに、盤に向かうと、ものすごい攻めの将棋をする。とくに終盤の寄せがシャープで、『超光速の詰士』の異名を持ちます」
●都成竜馬七段
「モデル級のスタイルとルックスを持つ人気棋士です。棋風は、振り飛車も居飛車も指しこなすオールラウンダー。師匠の谷川浩司九段ゆずりの詰将棋好きでも知られています」
外見に似合わず、10歳で奨励会に入り16年めの26歳でギリギリ昇段をはたした苦労人。写真は、奨励会時代に対局で負けたとき「プロになれるのか?」と自問していたという、河川敷で撮影。
写真・野澤亘伸
のざわひろのぶ
1968年9月21日生まれ 栃木県出身 上智大学法学部卒業 1993年から『FLASH』の専属カメラマンとして活動。2018年に出版された『師弟 棋士たち 魂の伝承』(光文社)で、「第31回将棋ペンクラブ大賞」を受賞
※文庫版『師弟 棋士たち 魂の伝承』(光文社)、『絆―棋士たち 師弟の物語』(日本将棋連盟/マイナビ出版)が発売中