■承認で人は成長する
前回に続いて、『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』(以下、本作)について、心理学的な視点で語っていきます。
前作までの『新劇場版』の3作(『序』『破』『Q』)では、エヴァに「乗る/乗らない」で猛烈に葛藤していた主人公の碇シンジですが、本作では「エヴァにだけは乗らんといてくださいよ」という周囲の反対を押し切って、迷うことなくエヴァに「乗る」ことを決めています。
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『序』と『破』までのシンジにとって、「エヴァに乗る目的」は「父に認められること」でした。そして『Q』の冒頭で、「あなたがエヴァに乗る必要はありません」と上司の葛城ミサトから言われたシンジは、全人格を否定されたかのように動揺し、呆然とします。
それは「エヴァに乗る」ことが、人に認められる唯一の方法であり、それこそが自分の「存在価値」と信じていたから。だから「エヴァに乗らなくていい」は、シンジにとっては「あなたは必要ない」という意味になるのです。
『新劇場版』のシンジは、「自分が認められるため」、すなわち「自分のため」にエヴァに乗っていた。しかし、本作のシンジは、「自分のため」ではなく、仲間を救うため、世界を救うため、つまり、「他者のため」にエヴァに乗ります。なぜでしょう?
それは、シンジが本作の前半部分で他人からの承認を十分に得ることができたからです。
具体的には、「第3村」の鈴原トウジや相田ケンスケ、シンジに心を開くアヤナミレイ(仮称)、そして、シンジが父・碇ゲンドウと戦うために乗り込んだ巨大戦艦「ヴンダー」では、式波・アスカ・ラングレー、真希波・マリ・イラストリアスが、精神的に大人になりつつあるシンジを認め、受け入れます。
このように、自己成長には人からの承認が必要不可欠なのです。
■2種類の「承認」
承認を脳内物質の視点で見た場合、「ドーパミン的承認」と「オキシトシン的承認」の2つに分けられます。ドーパミン的承認は結果や成果に対する承認、オキシトシン的承認は「プロセス(過程)」や「あり方(取り組み方)」「存在そのもの」に対する承認です。
たとえば子供を褒めるとき「テストで100点とって偉いね」と言うのはドーパミン的承認であり、「毎日夜遅くまで勉強していたね」と言うのはオキシトシン的承認となります。
碇シンジの「父親から認められたい」という欲求は、目標(結果)の達成が目的ですから、それに対する承認は、ドーパミン的承認に相当します。
ただし、ドーパミン的承認は、効果が長続きしません。そのため、ドーパミン的承認を多用すると、「褒められないと行動しない人間」になりがちです。
一方、オキシトシン的承認は、効果が持続し、多用しても減じていくことはありません。
その人の「あり方」や「存在そのもの」を認めることになるので、自己肯定感も高まります。自分に自信を持つことができ、自ら行動を起こすチャレンジングな人間になりやすいのです。
もし、あなたが管理職で、部下の成長を期待して褒める(=承認する)場合は、「オキシトシン的承認」を心がけるようにしましょう。
つまり、成果や結果に着目するのではなく、「プロセス」や「あり方」、さらには「人間性」や「その人全体」を丸ごと受け入れるようにするのです。
そうすれば、部下は自ら課題を見つけて解決を繰り返すことで、大きく成長していくことでしょう。